幽霊恩送り

ショー・ケン

文字の大きさ
上 下
1 / 1

幽霊恩送り

しおりを挟む
ある男、ボロアパートに住んでいる。住人はしたが綺麗な女性、隣はうるさい40代くらいの男、当人は大学生。

ある時から夢をみる。それは隣の女性の部屋に意識だけがあるような感じ。悪いと思いつつも、その夢を快く思っていた。なぜなら女性はとても美しく愛想がいいからだ。

隣の男はいつも何かに切れている。物音がうるさいだの、自分の生活音にすら怒っているようす。嫌だなと思いながらも、下の階の女性がいい人なので、そのアパートを引っ越さずにいた。

あるとき隣人がアパートの大家ともめている。このアパートに何かがあるとか、老人がどうだのこうだの、通りかかると、その時は妙に愛想がよかった。

その少しあとから、いつもの夢が妙な感じになってきた。自分その夢の中で、今空き家となっている40代の男と反対の隣の部屋に住んでいて、体を見ると皺皺の皮膚をしている老いた男のようだった。夢の中で夜中、そして女性の部屋に叫びながら押し入り、女性につかみかかってわめき散らしている。
《まずい!!》
 と思って目を覚ます。

その夢はそれから何度も続いた。嫌な夢だとと思いながら、ある時、隣に老人が越してきた。いつも夢でみるような、身なりをした男性だ。
(おや、あれは予知夢だったのか?とすると?)

その日から夢は徐々に鮮明になっていく。男がわめきちらし、女性に近づく、女性は裸にされている。そこで目が覚める。そんな日が幾日も続いて困っていたとき、夜中に本当に女性の叫び声がきこえた。飛び起きて玄関をあける、と隣の40代の男も玄関をあけてこちらをみている。

 正義感からか、彼は急いで階段をとびおりて、階下の女性の部屋をあける。すると女性がまさにいま、あの老人につかまって叫んでいるところだった。 
「助けて!!助けて!!!」
 彼は急いで、老人にタックルをする、窓に転がっていく老人。しかしその老人が転んだあと自分の後ろをゆびさしていった。
「成仏……成仏!!」
 すると自分の後ろから気配を感じた。男がふとふりむきながら、何か自分めがけて飛んでくるものを見て咄嗟によける、自分に当たらず、それは地面に転がり落ちた。包丁だった。
「チ……もう少しだったのに」
 す……と姿を消していく女性。そして男が振り向くと、老人もまた姿を消していった。
「どういう事だ?」
 その後、隣人の男性が通報し警察がきて、大家もきた、大家曰く階下は空き巣で、女性など住んでいないという。が、しつこく警察にいいよられ、こんな話をしていた。

 かつてそこに女性が住んでいたが、ある事件が起きてから、人を住まわせなくなったのだという。元気でかわいらしい女性で、大家も大好きだったのだが、ある日の夜、女性は、強盗に押し入られた、なんとか外に逃げて、隣人に助けをもとめる、だがその隣人は実は強盗とグルで、助けをもとめた隣の住人も共謀し、部屋におしもどされ乱暴され二人に殺された。

「霊媒師をね、呼んだんですよ、霊媒師がしばらく上の階の一個隣にすんでいてね」
 その隣というのが、つまり老人の部屋だった。
「彼が変な事をいってましたね、変な夢をみる、女の叫びが聞こえる、自分が助けなきゃって、私も大金を払っていたのでね、そのまま彼に任せてたんですが、あるとき、この部屋で、首をつってなくなってるのをみつけたんです、遺書にはこう書かれていました」
 
 私は、助けようとした女性に性犯罪者にされたので、この先生きていく気力もない。最初は、女性を除霊しようとしたが、彼女は……彼女の恨みは、強盗よりも強盗とグルだった男、つまり、自分を助けるふりをして襲った人間にむいていた、彼女を助けようと、夢でも夜中でも部屋に押し入った、だが彼女は
「あなたも、良い人の顔をしてよってきて、私にひどい事をする、男はみんなそうだ!!!彼はいった、ずっと私に乱暴したかったが、勇気がなかった、悪い友人を雇い、この機会をまっていた」
 と叫ぶ、何度も夢の中で彼女を助けようとしたが、ある時、私は彼女にころされそうになり、その時実体化した彼女に警察に通報され……

 実体化、の当たりで警察も男も首をかしげる。
「そうです、精神をやられていたみたいでね、彼自身、凶器を投げつけられたというが、どうみても自分で傷つけていたんです、かわいそうな事をした、だから、その男の部屋もこの女の部屋も人にはかしていないんです」

 そういうが、男はたしかに彼女をみたし、隣室の40代の男も、叫び声を聞いた。これ以上、厄介ごとに巻き込まれるのも嫌だし、思いを寄せていた女性が自分を取り殺そうとしていた幽霊だと知って、何より、その女性を助ける気持ちに多少の自分の疚しさもあったことを思い出し、その大学生の男はそのアパートを引っ越したそうだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...