赤い爪

ショー・ケン

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赤い爪

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Aさんは、転職を機にアパートを引っ越した。彼女のアパートも近くにあったので半同棲のような生活が始まる。最初はよかったが、一緒に過ごす時間が増えていくにつれ、段々倦怠感がましてきた。初めは“冗談が通じない不器用なところが好き”といっていた彼女も、自分の融通の利かなさや無感情な部分に愛想をつかしていることをひしひしと感じていた。

そんな時だった、部屋に女性のものと思える黒髪が落ちてい事に気づき始めたのは、といってもAさん自信は全く記憶にない。彼女はもともと茶色がかった色だ。その髪の毛は、日に日に数を増しているように思えた。

そんなある夜夢をみた。黒髪の女性が窓から入ってきて、自分を見下ろしているという映像を俯瞰でみている。異様な光景と女性の関節の奇妙な曲がり方にうなされながらも、その夢を見ていると女性は寝ている自分の目の前に両手をさしだしてこういった。
「つめ、つめ」
 そしてその爪から、赤いマニュキアの塗ってあるつけ爪が剥がれ落ちた。その爪は、朝目が覚めると、確かに、彼女がさしだしたベッドわきにおちていた。目を覚まし、そしてそれを見かけた瞬間手を伸ばすとちょうど横で寝ていた彼女が目を覚ました。
「何よ、それ」
 彼女は、自分に覚えのない爪をみて、激高、別れる別れないの話になったが、Aさんにとっては、それどころの騒ぎじゃない。彼女の怒りなどほっておいて、初めて感じる幽霊の存在と、その夢が事実であった事に驚愕したのだった。

 結局二人は別れる事になった。


だがAさんは、また友人づてに聞くことになった。実は、女性の髪は、彼女の友人が仕掛けていたことで、冗談が通じない彼を驚かせて、彼がどれだけ粘り強く否定するかで彼女への愛を試そうとしたのだったが、余りにも彼が簡単に折れて飽きらめたので、もう別れようという決心をしたらしい。

Aさんはそれどころじゃなかった。女性の幽霊の夢を見たのは本当だし、つけ爪の犯人はわかっていないのだ。Aさんの学んだ事はひとつ、実は自分が幽霊などといったオカルトを信じるほど、ある種“融通の利く”人間だったという事だけだった。


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