心霊道路

ショー・ケン

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心霊道路

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Aさんは20代の頃、出張の多い会社で働いていた事があり、その中で経験したもっとも奇妙な話がある。

 出張が多かったこともあり、また別の地域か、と考えていたが、上司に次の出張先について詳しくきいたりしていた時に、急に上司がこういった。
「まあ、あの地域はなあ“もし事故があって、それが気のせいに思えても、必ず警察に連絡をとることだ”」
 と妙な事をいわれた。確かに初めての出張先であったし、田舎でもある。長期の出張ということもあり、何か奇妙なもののけや、動物でもでるのだろうかくらいに思っていた。

 会社の指定したアパートを借り、転勤して数週間、職場にもなれ、世間話をするようになってやがて同僚と仲良くなった。そしてふと、Aさんはその場である事を思い出し口にした。
「そういや、あそこに妙な看板があるじゃないか」
 あそこというのはアパートの直ぐ傍で、歩いていける距離にスーパーがあるため、通る車道のわき、ある看板が立っている場所だ。一本道で先に曲がり角もなければ、凹凸があるわけでもないし、事故を起こした痕跡もないが、電柱脇に花がそえられており、そこには妙な看板があった。
「事故を起こしたら、被害者がおらずとも警察に連絡を」
 それを尋ねると、なかよくなった同僚のBさんは、笑いながらこたえた。
「ああ、あれですか、変な宗教団体が立てたものですよ、気にしない方がいいですよ」
 気さくな人間で、気がやさしく、お調子もの、釣り目だがイケメンで、金髪。女子社員からの人気も高いそのBさんはそんな風におしえてくれた。

 だがある日のこと、残業が長引き急いで家にかえっていたとき、Aさんは丁度そこを通りかかったとき、小さな赤いランドセルをせおった女の子が突然反対の歩道わきからとびだしてきて、地面にある何かに手を伸ばしているのをみた。
《あぶない!!》
 Aさんは驚いた。なにせ、ブレーキを踏んだ時にはすでに彼女がいた場所から、数メートルも先にいたのだ。しかし、車が何かにのりあげたような感覚も子供の声も何も感じない。Aさんは恐ろしくなりすぐに救急と警察に連絡をした。
 警察が到着して、Aさんに事情を話す。救急隊も何かをしていたがAさんは恐ろしくて直視できず空をみていた。しばらくして警察がAさんに声をかけた。
「何もないですねえ……でも“通報ありがとうございます”」
「え?何もない?それに、ありがとうってどういう」
「この看板ですよ、地域の人は知っていると思いますが、ここはひとつ事故があってからしばらくして立て続けに事故が続いてねえ、ホラ、あの霊能者さんが無償で看板を立ててくれてから事故が激減したんですけど……まあ、公になっていないのでそれは、他の地域の人は気味悪がりますがねえ、まあ悪ければ事故を起こしちゃう」
「……」
 ぼーっとしていると、警察官がいった。
「あ、これは、もしかしてほかの地域から来られた方?そりゃびっくりしますか、でも、通報してくれて助かりましたよ」
「どういう事なんですか?詳しく教えてください」
 警察官によると、ここではある事故を境に交通事故が絶えなかった。そこである霊能者が、地域の有力者によって雇われ原因究明をした。地域で有名な霊能者で悪い話はきかない。ここへくると、彼女は現場をみるなりこういった。
「ここで赤いランドセルを背負った少女が最初になくなっているねえ、何がおきたかわからず、事件の反復をしているようだ、彼女は悪さをしていない、だがひき逃げだったんだねえ、遺族の連中がきっと、悪意ある霊能者に依頼して呪いでもかけたんだろう」
 そういって、霊能者は件の看板を掲げることにきめた。
「警察でもねえ、被害者がいないのに、人を轢いたって通報があることがしばしばあってねえ、で、色々しらべたんだが、どうやら、通報をした人と通報をしなかった人の目撃情報があって、通報をしなかった人は、高確率でここで事故にあってなくなっているんだよ……まあ、霊だのたたりだの、こんな非現実的な話は公にはできないが、警察は通報があるあたび駆けつければいい話だからねえ」

 Aさんは、ふとBさんの事を思い出した。そして彼の経歴について色々としらべたが、仲良くなった近所の人から聞き出すと、どうやら彼こそが、初めにあの道路で事故にあった少女の兄らしい。
「ずいぶんおちこんでいたみたいだよ、犯人をつきとめるとかいって、でも妙な霊能者にかかわるようになってから、ころっと人が変わったように明るくなったね」
 そうか、とAさんは納得する。
(奴はきっと、ひき逃げの犯人を呪うあまり、人を轢いて警察に通報しないような人間を呪うようになったんだなあ、それが幻であったとしても……しかし、それでは妹さんはまるで囮だ)
 哀れに思ったAさんは、その転勤先にいる間ずっとこっそりそこに花束を添えるようになったそうだ。
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