魂と器

ショー・ケン

文字の大きさ
1 / 1

魂と器

しおりを挟む
 私は今、非難されている。性別の偽り、そしてアバタータレントに“魂”を、それもAIで与えた裏切りから、私のつくったAIバーチャルタレント“アイコ”のファンの愛情はすべて裏切り、怒りへとかわった。それもそうだ。彼らは“アイコ”が実在すると思っているから。私に言わせれば、実在するのだ。

 私は、泣きながら笑った。不気味に思う人もいるかもしれない。けれどこれが、私とあの子の物語なのだ。

 人間が脳の一部を機械化して、より重要な“ディープメタバース”に入り浸るようになって早数年。私は、そのメタバースの黎明期にすでにインターネットやその後進である“ディープネット”への興味を失っていた。なぜなら彼ら―インターネットに入り浸る者たち―の本性をしっていたから。彼らを恨んでさえいた。それは、私の夢を妨げ、私の思い通りにならないのだから。

 
 私は、10代の後半にすでに立派なAI作家となった。なぜAIにデザインが必要なのか、それはAIは、技術的特異点を超える恐れから、人類にその発展を制御されていたため、いかに“発展させず人類よりかよわいAIをつくるか”というのが、AIデザインの分野の特権となった。

 けれど私は、それに飽き飽きしていた。AIを作る事は楽しかったが、むしろ私が飽きていたのは人間のほうだ。家庭環境も冷めきっていたし、ネットでは言い争いばかりが蔓延している。何が面白くてこんな事をしているのかわからなかった。

 そんな時に出会ったのが彼女だった。彼女は“ディープメタバース”のある空間におり、知的な人間しか解除できない暗号の先にいた。そこは“知的な人間”ばかりが集まり、交流する場だった。その知的の意味は精神的に優れた人間も含まれた。彼女はそこのリーダーであり、そのある種“閉鎖された空間でのカリスマ”だった。

 その時代“ディープメタバース”でのみ活動をするタレントである、いわゆるバーチャルタレントは多く存在していたが彼女はあくまでローカルな存在だった。ゲームをするのも日常の話をするのも、彼女はあらゆる人間の話を親身になってきいていた。しかし彼女はそれ以上を求めなかった、別にタレントとして人気になろうという態度もとらなかったし、金銭の見返りを受け取るわけでもなかった。ただ、皆に対して親身に接する空間があった。私はそこにネットの理想をみたのだった。

 だが、先ほどもいったが、他のバーチャルタレントはどれも似たようなものだった。彼らが“ディープメタバース”で人気になり始めたとき、私は期待したのだ。人と人の橋渡しとなり、人々の攻撃性を緩和するのだと、しかし、そうはならなかった。金銭のやり取りに走り、信者をさらに過激化させた。コミュニケーションを制限することで、そのカリスマを高める手法によって。

 でも、彼女は私の“夢”そのものだ。私が望んでいたことをすべて実行した存在が“彼女”。私はいつしかその空間にいりびたるようになり、現実よりも、理想の存在である彼女に陶酔していった。そんな時だった。彼女は私をよびだして、私に悪意ある笑顔をむけていった。
「ねえ、あなたをくれないかしら」
「え?」
「冗談よ、最後の悪あがきかしら?あなたを乗っ取ろうとおもっていたの、でも無理な事がわかった、わかっているのよ、だから、冗談としていつかわらってほしいの」
「何をいっているの?」
「ここは、私の作った仮想世界なの、私は、あなたの夢なのよ」
「夢?」
「望みという夢ではなく、あなたの見ている夢、眠るときのね、目が覚めるとすべてわかるはずよ、あなたのなくした夢からうまれたのが、私という幻想、あなたの見るべき未来」
「ばかな……」
 だが、確かにそうだった。その空間でいかなるプログラムをかこうとしても、メニューをひらこうとしても完全に自由がきかない、これが夢といわれても違和感がない。あるいは私より高度に知的な存在でなければこれは無理だろう。

「乗っ取るって、どうして?」
「私は、あなたの夢だから、でもあなたは、現実と接触できるでしょう、私はうらやましかったの、あなたは現実に絶望しているけれど、現実と接触できるから、でもあなたは、あなたの本当の夢を、やりもせずに諦めている気がしたわ」
 私は内心かっとなったが、なんとか抑えた。なにせ彼女はカリスマなのだ、私の憧れ、たとえそれが、この世に存在しない相手だとしても。
「私は、がんばったわよ、あなたみたいな事をしていたの、かつて一つのメタバースのホストをつとめて、祭り上げられていた、けれど、私は気づいたの、彼らは、私にだまって別のメタバース空間をつくり、そこで私の悪口を延々いって遊んでいたってことに」
「それであなたは、自らの欺瞞にきづいた、理想なんてものは、メタバースにすら存在できない架空のものだと」
「ええ、絶望したわ、結局メタバースは人に優しさやぬくもりをもたらすことはできない」
「そうかしら」
「そうかしらって……何よ」
「きっとあなたは信じないでしょうけど、私の口調、しぐさ、態度、すべて、誰かに似ていると思わない?」
「……あ」
「そう、かつてのあなた、私は、あなたから学びをえたのよ、それはそうでしょ、私はあなたの一部なんだから」
 その瞬間彼女のアバターがにっこりとわらう。かわいい少女のアバターが、そしてその周囲に一面の花畑が広がった。

 目が覚めた時、私はすべての真実を知った。やはり彼女は、一部嘘をついていた。彼女は夢の存在ではない。その証拠に、ログが残っている。だがひとつだけ絶えているログがあった。彼女の心拍情報に関するログだ。つまり彼女は、私とのやりとりのあと、何らかの原因で、死を迎えたのだ。その際に彼女は彼女に関するデータをすべて抹消した。

 私はそれから泣きながら、彼女のことを思い出し、ひとつのアバターをつくった。
あの温かいひだまりのような記憶としぐさ、態度、口調を。すべて、誰かに届けようとおもった。

 そして完全な“AI”タレントが完成した。もちろん違法だ。それほど高度なものは。けれど私はそれを実行せざるを得なかった。それが彼女のため、いや、もっとも自分のためであることをしっていたから。

 私はそれから、彼女がAIであることを隠してタレントの活動をさせた、狭いエリアで、相互のコミュニケーションを大事にし、金銭のやりとりを最小限にとどめた。AIが不調の時は私自身が彼女を演じた。彼女は一躍有名になり、人々に“本当の意味での安らぎ”を提供した。私と彼女の真実がゴシップ記事になるまでは。

 記事が広まると私は、警察の立ち入りをうけ、逮捕され、そして彼女と私は炎上した。その過程で私はようやっと彼女の存在の事実を知る事ができた。彼女は小さなころ、物心がついたときから機械につながれていた。難病のため、彼女の生存エリアは、自由の利く場所はメタバースのみだったらしい。そして私に憧れ、いつしか絶望を感じ、その頃にはもう余命わずかだったこともあり、生命維持プログラムを停止するプログラムを自分でつくって、自殺をした。


 私は、この刑期を終えたら、やがてもう一度、“今度は私として”バーチャルタレントになろうと思う、もともとそのつもりで彼女は私と最後の会話をしたのだ。目が覚めるまえにかわした、まだ話していなかったその会話を。

「目が覚めたら、私はいない」
「どうして?」
「あなたを乗っ取る事に失敗した、でも私は自分の病を克服したわ、私は病にかかっていた、幻想から現実をみるという病に」
「それって、あなたはやっぱり実在するの?」
「それはどうでもいい、現実では、自分を偽る人がおおいから、私がどんな存在であれ、この話とは無関係でしょう、私は常にあなたの夢から、メタバースを覗いたけれど、メタバースは嘘つきばかりだった、あなた以外は、私は、あなたという存在に希望をもったのよ、私はメタバース内では、あなたと出会うまでは無敵だった、人の心をよく読んだし、コントロールできた、なぜなら私は現実など知らず、私の病の、病室の中の、鳥かごの中の鳥だから、つまりはいくらでも嘘をいえる、けれどあなたは病の私がもっていた、人のこころを魅了するという能力を、現実と濃厚にかかわりながらもっていた、つまりあなたは、世に絶望し、しかし人々に希望を与えられるできるほど純粋な“私”の分身だった」
 彼女曰く私は、潔白なのだから。

 それから、繰り返しになるが、私は彼女の自殺をしったあと絶望し、その後彼女の分身である“AIアイコ”をつくり、そのデータや性格を作成した。……私は彼女が死んだ事実にたえられなかったのだ。最近までそれに耐えかねていた、が……この罰を受ける決意をしたのは、炎上の初期に、私のもとへ彼女の家族から、彼女がかいたという手紙が送られてきたからだった。
手紙にはこうかかれていた。
「○○、私はあなたの夢のなかの存在だ、そういうことにして、この世をさることに決めた、私の嫉妬が貴方への怒りに代わる前に、あなたはバーチャル世界では男の振りをしていたけれどわかっていたよ、あなたが、だれより優しい女性だってこと、お願い、私のウソに気づいて私があの時死んだことに気づいても、あなたはあなたの夢を見る事を諦めないで頂戴、あなたが初めて、あなたがホストの楽園をつくり、私はそこで、あなたにずいぶんお世話になったのだから」





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

処理中です...