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魂と器
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私は今、非難されている。性別の偽り、そしてアバタータレントに“魂”を、それもAIで与えた裏切りから、私のつくったAIバーチャルタレント“アイコ”のファンの愛情はすべて裏切り、怒りへとかわった。それもそうだ。彼らは“アイコ”が実在すると思っているから。私に言わせれば、実在するのだ。
私は、泣きながら笑った。不気味に思う人もいるかもしれない。けれどこれが、私とあの子の物語なのだ。
人間が脳の一部を機械化して、より重要な“ディープメタバース”に入り浸るようになって早数年。私は、そのメタバースの黎明期にすでにインターネットやその後進である“ディープネット”への興味を失っていた。なぜなら彼ら―インターネットに入り浸る者たち―の本性をしっていたから。彼らを恨んでさえいた。それは、私の夢を妨げ、私の思い通りにならないのだから。
私は、10代の後半にすでに立派なAI作家となった。なぜAIにデザインが必要なのか、それはAIは、技術的特異点を超える恐れから、人類にその発展を制御されていたため、いかに“発展させず人類よりかよわいAIをつくるか”というのが、AIデザインの分野の特権となった。
けれど私は、それに飽き飽きしていた。AIを作る事は楽しかったが、むしろ私が飽きていたのは人間のほうだ。家庭環境も冷めきっていたし、ネットでは言い争いばかりが蔓延している。何が面白くてこんな事をしているのかわからなかった。
そんな時に出会ったのが彼女だった。彼女は“ディープメタバース”のある空間におり、知的な人間しか解除できない暗号の先にいた。そこは“知的な人間”ばかりが集まり、交流する場だった。その知的の意味は精神的に優れた人間も含まれた。彼女はそこのリーダーであり、そのある種“閉鎖された空間でのカリスマ”だった。
その時代“ディープメタバース”でのみ活動をするタレントである、いわゆるバーチャルタレントは多く存在していたが彼女はあくまでローカルな存在だった。ゲームをするのも日常の話をするのも、彼女はあらゆる人間の話を親身になってきいていた。しかし彼女はそれ以上を求めなかった、別にタレントとして人気になろうという態度もとらなかったし、金銭の見返りを受け取るわけでもなかった。ただ、皆に対して親身に接する空間があった。私はそこにネットの理想をみたのだった。
だが、先ほどもいったが、他のバーチャルタレントはどれも似たようなものだった。彼らが“ディープメタバース”で人気になり始めたとき、私は期待したのだ。人と人の橋渡しとなり、人々の攻撃性を緩和するのだと、しかし、そうはならなかった。金銭のやり取りに走り、信者をさらに過激化させた。コミュニケーションを制限することで、そのカリスマを高める手法によって。
でも、彼女は私の“夢”そのものだ。私が望んでいたことをすべて実行した存在が“彼女”。私はいつしかその空間にいりびたるようになり、現実よりも、理想の存在である彼女に陶酔していった。そんな時だった。彼女は私をよびだして、私に悪意ある笑顔をむけていった。
「ねえ、あなたをくれないかしら」
「え?」
「冗談よ、最後の悪あがきかしら?あなたを乗っ取ろうとおもっていたの、でも無理な事がわかった、わかっているのよ、だから、冗談としていつかわらってほしいの」
「何をいっているの?」
「ここは、私の作った仮想世界なの、私は、あなたの夢なのよ」
「夢?」
「望みという夢ではなく、あなたの見ている夢、眠るときのね、目が覚めるとすべてわかるはずよ、あなたのなくした夢からうまれたのが、私という幻想、あなたの見るべき未来」
「ばかな……」
だが、確かにそうだった。その空間でいかなるプログラムをかこうとしても、メニューをひらこうとしても完全に自由がきかない、これが夢といわれても違和感がない。あるいは私より高度に知的な存在でなければこれは無理だろう。
「乗っ取るって、どうして?」
「私は、あなたの夢だから、でもあなたは、現実と接触できるでしょう、私はうらやましかったの、あなたは現実に絶望しているけれど、現実と接触できるから、でもあなたは、あなたの本当の夢を、やりもせずに諦めている気がしたわ」
私は内心かっとなったが、なんとか抑えた。なにせ彼女はカリスマなのだ、私の憧れ、たとえそれが、この世に存在しない相手だとしても。
「私は、がんばったわよ、あなたみたいな事をしていたの、かつて一つのメタバースのホストをつとめて、祭り上げられていた、けれど、私は気づいたの、彼らは、私にだまって別のメタバース空間をつくり、そこで私の悪口を延々いって遊んでいたってことに」
「それであなたは、自らの欺瞞にきづいた、理想なんてものは、メタバースにすら存在できない架空のものだと」
「ええ、絶望したわ、結局メタバースは人に優しさやぬくもりをもたらすことはできない」
「そうかしら」
「そうかしらって……何よ」
「きっとあなたは信じないでしょうけど、私の口調、しぐさ、態度、すべて、誰かに似ていると思わない?」
「……あ」
「そう、かつてのあなた、私は、あなたから学びをえたのよ、それはそうでしょ、私はあなたの一部なんだから」
その瞬間彼女のアバターがにっこりとわらう。かわいい少女のアバターが、そしてその周囲に一面の花畑が広がった。
目が覚めた時、私はすべての真実を知った。やはり彼女は、一部嘘をついていた。彼女は夢の存在ではない。その証拠に、ログが残っている。だがひとつだけ絶えているログがあった。彼女の心拍情報に関するログだ。つまり彼女は、私とのやりとりのあと、何らかの原因で、死を迎えたのだ。その際に彼女は彼女に関するデータをすべて抹消した。
私はそれから泣きながら、彼女のことを思い出し、ひとつのアバターをつくった。
あの温かいひだまりのような記憶としぐさ、態度、口調を。すべて、誰かに届けようとおもった。
そして完全な“AI”タレントが完成した。もちろん違法だ。それほど高度なものは。けれど私はそれを実行せざるを得なかった。それが彼女のため、いや、もっとも自分のためであることをしっていたから。
私はそれから、彼女がAIであることを隠してタレントの活動をさせた、狭いエリアで、相互のコミュニケーションを大事にし、金銭のやりとりを最小限にとどめた。AIが不調の時は私自身が彼女を演じた。彼女は一躍有名になり、人々に“本当の意味での安らぎ”を提供した。私と彼女の真実がゴシップ記事になるまでは。
記事が広まると私は、警察の立ち入りをうけ、逮捕され、そして彼女と私は炎上した。その過程で私はようやっと彼女の存在の事実を知る事ができた。彼女は小さなころ、物心がついたときから機械につながれていた。難病のため、彼女の生存エリアは、自由の利く場所はメタバースのみだったらしい。そして私に憧れ、いつしか絶望を感じ、その頃にはもう余命わずかだったこともあり、生命維持プログラムを停止するプログラムを自分でつくって、自殺をした。
私は、この刑期を終えたら、やがてもう一度、“今度は私として”バーチャルタレントになろうと思う、もともとそのつもりで彼女は私と最後の会話をしたのだ。目が覚めるまえにかわした、まだ話していなかったその会話を。
「目が覚めたら、私はいない」
「どうして?」
「あなたを乗っ取る事に失敗した、でも私は自分の病を克服したわ、私は病にかかっていた、幻想から現実をみるという病に」
「それって、あなたはやっぱり実在するの?」
「それはどうでもいい、現実では、自分を偽る人がおおいから、私がどんな存在であれ、この話とは無関係でしょう、私は常にあなたの夢から、メタバースを覗いたけれど、メタバースは嘘つきばかりだった、あなた以外は、私は、あなたという存在に希望をもったのよ、私はメタバース内では、あなたと出会うまでは無敵だった、人の心をよく読んだし、コントロールできた、なぜなら私は現実など知らず、私の病の、病室の中の、鳥かごの中の鳥だから、つまりはいくらでも嘘をいえる、けれどあなたは病の私がもっていた、人のこころを魅了するという能力を、現実と濃厚にかかわりながらもっていた、つまりあなたは、世に絶望し、しかし人々に希望を与えられるできるほど純粋な“私”の分身だった」
彼女曰く私は、潔白なのだから。
それから、繰り返しになるが、私は彼女の自殺をしったあと絶望し、その後彼女の分身である“AIアイコ”をつくり、そのデータや性格を作成した。……私は彼女が死んだ事実にたえられなかったのだ。最近までそれに耐えかねていた、が……この罰を受ける決意をしたのは、炎上の初期に、私のもとへ彼女の家族から、彼女がかいたという手紙が送られてきたからだった。
手紙にはこうかかれていた。
「○○、私はあなたの夢のなかの存在だ、そういうことにして、この世をさることに決めた、私の嫉妬が貴方への怒りに代わる前に、あなたはバーチャル世界では男の振りをしていたけれどわかっていたよ、あなたが、だれより優しい女性だってこと、お願い、私のウソに気づいて私があの時死んだことに気づいても、あなたはあなたの夢を見る事を諦めないで頂戴、あなたが初めて、あなたがホストの楽園をつくり、私はそこで、あなたにずいぶんお世話になったのだから」
私は、泣きながら笑った。不気味に思う人もいるかもしれない。けれどこれが、私とあの子の物語なのだ。
人間が脳の一部を機械化して、より重要な“ディープメタバース”に入り浸るようになって早数年。私は、そのメタバースの黎明期にすでにインターネットやその後進である“ディープネット”への興味を失っていた。なぜなら彼ら―インターネットに入り浸る者たち―の本性をしっていたから。彼らを恨んでさえいた。それは、私の夢を妨げ、私の思い通りにならないのだから。
私は、10代の後半にすでに立派なAI作家となった。なぜAIにデザインが必要なのか、それはAIは、技術的特異点を超える恐れから、人類にその発展を制御されていたため、いかに“発展させず人類よりかよわいAIをつくるか”というのが、AIデザインの分野の特権となった。
けれど私は、それに飽き飽きしていた。AIを作る事は楽しかったが、むしろ私が飽きていたのは人間のほうだ。家庭環境も冷めきっていたし、ネットでは言い争いばかりが蔓延している。何が面白くてこんな事をしているのかわからなかった。
そんな時に出会ったのが彼女だった。彼女は“ディープメタバース”のある空間におり、知的な人間しか解除できない暗号の先にいた。そこは“知的な人間”ばかりが集まり、交流する場だった。その知的の意味は精神的に優れた人間も含まれた。彼女はそこのリーダーであり、そのある種“閉鎖された空間でのカリスマ”だった。
その時代“ディープメタバース”でのみ活動をするタレントである、いわゆるバーチャルタレントは多く存在していたが彼女はあくまでローカルな存在だった。ゲームをするのも日常の話をするのも、彼女はあらゆる人間の話を親身になってきいていた。しかし彼女はそれ以上を求めなかった、別にタレントとして人気になろうという態度もとらなかったし、金銭の見返りを受け取るわけでもなかった。ただ、皆に対して親身に接する空間があった。私はそこにネットの理想をみたのだった。
だが、先ほどもいったが、他のバーチャルタレントはどれも似たようなものだった。彼らが“ディープメタバース”で人気になり始めたとき、私は期待したのだ。人と人の橋渡しとなり、人々の攻撃性を緩和するのだと、しかし、そうはならなかった。金銭のやり取りに走り、信者をさらに過激化させた。コミュニケーションを制限することで、そのカリスマを高める手法によって。
でも、彼女は私の“夢”そのものだ。私が望んでいたことをすべて実行した存在が“彼女”。私はいつしかその空間にいりびたるようになり、現実よりも、理想の存在である彼女に陶酔していった。そんな時だった。彼女は私をよびだして、私に悪意ある笑顔をむけていった。
「ねえ、あなたをくれないかしら」
「え?」
「冗談よ、最後の悪あがきかしら?あなたを乗っ取ろうとおもっていたの、でも無理な事がわかった、わかっているのよ、だから、冗談としていつかわらってほしいの」
「何をいっているの?」
「ここは、私の作った仮想世界なの、私は、あなたの夢なのよ」
「夢?」
「望みという夢ではなく、あなたの見ている夢、眠るときのね、目が覚めるとすべてわかるはずよ、あなたのなくした夢からうまれたのが、私という幻想、あなたの見るべき未来」
「ばかな……」
だが、確かにそうだった。その空間でいかなるプログラムをかこうとしても、メニューをひらこうとしても完全に自由がきかない、これが夢といわれても違和感がない。あるいは私より高度に知的な存在でなければこれは無理だろう。
「乗っ取るって、どうして?」
「私は、あなたの夢だから、でもあなたは、現実と接触できるでしょう、私はうらやましかったの、あなたは現実に絶望しているけれど、現実と接触できるから、でもあなたは、あなたの本当の夢を、やりもせずに諦めている気がしたわ」
私は内心かっとなったが、なんとか抑えた。なにせ彼女はカリスマなのだ、私の憧れ、たとえそれが、この世に存在しない相手だとしても。
「私は、がんばったわよ、あなたみたいな事をしていたの、かつて一つのメタバースのホストをつとめて、祭り上げられていた、けれど、私は気づいたの、彼らは、私にだまって別のメタバース空間をつくり、そこで私の悪口を延々いって遊んでいたってことに」
「それであなたは、自らの欺瞞にきづいた、理想なんてものは、メタバースにすら存在できない架空のものだと」
「ええ、絶望したわ、結局メタバースは人に優しさやぬくもりをもたらすことはできない」
「そうかしら」
「そうかしらって……何よ」
「きっとあなたは信じないでしょうけど、私の口調、しぐさ、態度、すべて、誰かに似ていると思わない?」
「……あ」
「そう、かつてのあなた、私は、あなたから学びをえたのよ、それはそうでしょ、私はあなたの一部なんだから」
その瞬間彼女のアバターがにっこりとわらう。かわいい少女のアバターが、そしてその周囲に一面の花畑が広がった。
目が覚めた時、私はすべての真実を知った。やはり彼女は、一部嘘をついていた。彼女は夢の存在ではない。その証拠に、ログが残っている。だがひとつだけ絶えているログがあった。彼女の心拍情報に関するログだ。つまり彼女は、私とのやりとりのあと、何らかの原因で、死を迎えたのだ。その際に彼女は彼女に関するデータをすべて抹消した。
私はそれから泣きながら、彼女のことを思い出し、ひとつのアバターをつくった。
あの温かいひだまりのような記憶としぐさ、態度、口調を。すべて、誰かに届けようとおもった。
そして完全な“AI”タレントが完成した。もちろん違法だ。それほど高度なものは。けれど私はそれを実行せざるを得なかった。それが彼女のため、いや、もっとも自分のためであることをしっていたから。
私はそれから、彼女がAIであることを隠してタレントの活動をさせた、狭いエリアで、相互のコミュニケーションを大事にし、金銭のやりとりを最小限にとどめた。AIが不調の時は私自身が彼女を演じた。彼女は一躍有名になり、人々に“本当の意味での安らぎ”を提供した。私と彼女の真実がゴシップ記事になるまでは。
記事が広まると私は、警察の立ち入りをうけ、逮捕され、そして彼女と私は炎上した。その過程で私はようやっと彼女の存在の事実を知る事ができた。彼女は小さなころ、物心がついたときから機械につながれていた。難病のため、彼女の生存エリアは、自由の利く場所はメタバースのみだったらしい。そして私に憧れ、いつしか絶望を感じ、その頃にはもう余命わずかだったこともあり、生命維持プログラムを停止するプログラムを自分でつくって、自殺をした。
私は、この刑期を終えたら、やがてもう一度、“今度は私として”バーチャルタレントになろうと思う、もともとそのつもりで彼女は私と最後の会話をしたのだ。目が覚めるまえにかわした、まだ話していなかったその会話を。
「目が覚めたら、私はいない」
「どうして?」
「あなたを乗っ取る事に失敗した、でも私は自分の病を克服したわ、私は病にかかっていた、幻想から現実をみるという病に」
「それって、あなたはやっぱり実在するの?」
「それはどうでもいい、現実では、自分を偽る人がおおいから、私がどんな存在であれ、この話とは無関係でしょう、私は常にあなたの夢から、メタバースを覗いたけれど、メタバースは嘘つきばかりだった、あなた以外は、私は、あなたという存在に希望をもったのよ、私はメタバース内では、あなたと出会うまでは無敵だった、人の心をよく読んだし、コントロールできた、なぜなら私は現実など知らず、私の病の、病室の中の、鳥かごの中の鳥だから、つまりはいくらでも嘘をいえる、けれどあなたは病の私がもっていた、人のこころを魅了するという能力を、現実と濃厚にかかわりながらもっていた、つまりあなたは、世に絶望し、しかし人々に希望を与えられるできるほど純粋な“私”の分身だった」
彼女曰く私は、潔白なのだから。
それから、繰り返しになるが、私は彼女の自殺をしったあと絶望し、その後彼女の分身である“AIアイコ”をつくり、そのデータや性格を作成した。……私は彼女が死んだ事実にたえられなかったのだ。最近までそれに耐えかねていた、が……この罰を受ける決意をしたのは、炎上の初期に、私のもとへ彼女の家族から、彼女がかいたという手紙が送られてきたからだった。
手紙にはこうかかれていた。
「○○、私はあなたの夢のなかの存在だ、そういうことにして、この世をさることに決めた、私の嫉妬が貴方への怒りに代わる前に、あなたはバーチャル世界では男の振りをしていたけれどわかっていたよ、あなたが、だれより優しい女性だってこと、お願い、私のウソに気づいて私があの時死んだことに気づいても、あなたはあなたの夢を見る事を諦めないで頂戴、あなたが初めて、あなたがホストの楽園をつくり、私はそこで、あなたにずいぶんお世話になったのだから」
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