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第17話
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美術の授業で、なぜだか校庭に出るよう促されて上履きを履き替えて皆ぞろぞろと外に出る。
美術教師が言うには、何でも好きなものをデッサンしてください。との事だった。
一人は中庭の花を描いたり、一人は校舎自体を描いたりしている。
僕は校庭をうろうろしながら描くものを探す。
特に描きたいものが見当たらないなあ。
ふと、校庭の端に目をやると他クラスの生徒が体育の授業でサッカーをしている様だった。
そこに一際目立って活躍している生徒がいる。
圭太だ――。
圭太は中学までサッカー部だった。
全国まで行った事がある強豪中学出身で、プロを目指している程の実力があり、サッカー強豪チームのある高校に推薦も決まっていた程だ。
だけど、中学3年の時に信号無視の車に轢かれ大怪我をする。
その時に足を怪我して推薦の話は無くなり、今の高校へと進学することになったのだ。
ゴールに点を入れる度、調子よくコートを走り回る。ポーズを決める圭太に、同じチームの仲間が圭太を称えた。
楽しそうだな。
描きたい、と思った。
木陰に座って、試合を続ける圭太の様子を観察しながらスケッチブックに描き始める。
走る圭太。
ゴールを決める瞬間の圭太。
そして、楽しそうに全力で笑う圭太。
描き始めると僕も楽しい気持ちになる感じ。
久しぶりに絵を描くのは、すごく心地良かった。
「あー!やばい」
大きな声が校庭に響く。
ボールが大きく弧を描いて、こっちに飛んできた。
ちょうどいい位置にボールが来たせいで、急いで立ち上がってボールをキャッチしようとするけど、やっぱり間に合わなくて避けるしか無かった。
ちょっと僕、ダサいな、と自分でと思う。
ボールもキャッチ出来ないなんて、柊、お前どれくらい運動神経悪いんだよ。
まあ、前の僕の康太だって、そこまで運動神経がいい方では無かったけれど。
急いで立ち上がったせいでスケッチブックが地面に落ちる。
「ごめーん、ミスった!てあれ、柊くん?」
「ああ、うんキャッチしようと思ったんだけど間に合わなくて」
「あはは、あるある。ごめんね、スケッチブック汚れちゃったかな」
圭太は落ちたスケッチブックを拾って土を払っていると、その絵に気づいてじっと見つめている。
「……これ、もしかして俺?てか俺だよね」
「ああ、美術の授業で好きな物を描くように言われたんだよね、それで描かせてもらってたんだけど……嫌だった?」
「ええ?俺?ははっ、俺なんか描いてくれるんだ。嬉しいな。てか絵めっちゃ上手いね。すげー」
おーい、とチームに呼ばれて、圭太が手を上げる。ボールを地面に置いて数歩下がり、軽く助走をつけて思い切り蹴ると、ボールがまた弧を描いてコートまで飛んだ。
そして、そのまま僕の隣に座り込む。
「戻らなくていいの」
「んー、疲れたから休憩」
相変わらず、自由な性格だな。
「サッカー好きなんだね。見てたら分かるよ、すごく楽しそうだったから」
「ああ、まあね、中学の頃は本気でやってたからなあ。プロとか目指しててさ。ま、事故で怪我したのがきっかけで辞めちゃったんだけどさ」
「そっか……」
僕が描いた設定。
だけど圭太の口から告げられると一気に現実の重みがのしかかる。
圭太は昔の僕、康太の気持ちを背負っているキャラだと、今は考えればそう思う。
当時描いている時は、思いもしなかったけど、人生を諦めていた康太の気持ちを圭太に反映させていたんだと思う。
美術教師が言うには、何でも好きなものをデッサンしてください。との事だった。
一人は中庭の花を描いたり、一人は校舎自体を描いたりしている。
僕は校庭をうろうろしながら描くものを探す。
特に描きたいものが見当たらないなあ。
ふと、校庭の端に目をやると他クラスの生徒が体育の授業でサッカーをしている様だった。
そこに一際目立って活躍している生徒がいる。
圭太だ――。
圭太は中学までサッカー部だった。
全国まで行った事がある強豪中学出身で、プロを目指している程の実力があり、サッカー強豪チームのある高校に推薦も決まっていた程だ。
だけど、中学3年の時に信号無視の車に轢かれ大怪我をする。
その時に足を怪我して推薦の話は無くなり、今の高校へと進学することになったのだ。
ゴールに点を入れる度、調子よくコートを走り回る。ポーズを決める圭太に、同じチームの仲間が圭太を称えた。
楽しそうだな。
描きたい、と思った。
木陰に座って、試合を続ける圭太の様子を観察しながらスケッチブックに描き始める。
走る圭太。
ゴールを決める瞬間の圭太。
そして、楽しそうに全力で笑う圭太。
描き始めると僕も楽しい気持ちになる感じ。
久しぶりに絵を描くのは、すごく心地良かった。
「あー!やばい」
大きな声が校庭に響く。
ボールが大きく弧を描いて、こっちに飛んできた。
ちょうどいい位置にボールが来たせいで、急いで立ち上がってボールをキャッチしようとするけど、やっぱり間に合わなくて避けるしか無かった。
ちょっと僕、ダサいな、と自分でと思う。
ボールもキャッチ出来ないなんて、柊、お前どれくらい運動神経悪いんだよ。
まあ、前の僕の康太だって、そこまで運動神経がいい方では無かったけれど。
急いで立ち上がったせいでスケッチブックが地面に落ちる。
「ごめーん、ミスった!てあれ、柊くん?」
「ああ、うんキャッチしようと思ったんだけど間に合わなくて」
「あはは、あるある。ごめんね、スケッチブック汚れちゃったかな」
圭太は落ちたスケッチブックを拾って土を払っていると、その絵に気づいてじっと見つめている。
「……これ、もしかして俺?てか俺だよね」
「ああ、美術の授業で好きな物を描くように言われたんだよね、それで描かせてもらってたんだけど……嫌だった?」
「ええ?俺?ははっ、俺なんか描いてくれるんだ。嬉しいな。てか絵めっちゃ上手いね。すげー」
おーい、とチームに呼ばれて、圭太が手を上げる。ボールを地面に置いて数歩下がり、軽く助走をつけて思い切り蹴ると、ボールがまた弧を描いてコートまで飛んだ。
そして、そのまま僕の隣に座り込む。
「戻らなくていいの」
「んー、疲れたから休憩」
相変わらず、自由な性格だな。
「サッカー好きなんだね。見てたら分かるよ、すごく楽しそうだったから」
「ああ、まあね、中学の頃は本気でやってたからなあ。プロとか目指しててさ。ま、事故で怪我したのがきっかけで辞めちゃったんだけどさ」
「そっか……」
僕が描いた設定。
だけど圭太の口から告げられると一気に現実の重みがのしかかる。
圭太は昔の僕、康太の気持ちを背負っているキャラだと、今は考えればそう思う。
当時描いている時は、思いもしなかったけど、人生を諦めていた康太の気持ちを圭太に反映させていたんだと思う。
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