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最終話
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コートから飛んできたボールが僕の足元に転がる。
屈んでバスケットボールを拾う。
顔を上げると、さっきの明るい髪の男の子が僕のほうへ駆け寄る。
僕は、そっとボールを手渡す。
「ありがと、バスケ一緒にする?」
目が合って、ニコ、と爽やかな笑みを見せる。
「っ、うん」
思わずそう返事して、自分でも驚いた。
明日美が横で信じられない、とでも言いたげに目を見張る。
明るい髪の男の子に腕を引かれて、コートへとついていく。
「ちょっと、!」
明日美が止めようとして僕に手を伸ばす。
振り返って、首を振って制する。
「大丈夫」
そう言うと、心配そうな顔で僕を見るけれど、明日美はそれ以上は何も言ってこなかった。
記憶ではバスケは初めてする筈なのに、何故かそんな気がしなくてコートに立つと懐かしい気分にさえなる。
ピーッと審判役の生徒が試合開始の笛を吹く。
上手なわけじゃない。でも一生懸命にコートを走って、パスされたボールをゴールに目掛けてシュートを打つ。
額を流れる汗が心地よい。
ゴールに吸い込まれるように入ったボールに、周りの生徒たちがわっ、と湧く。
嬉しさと同時に、視界がぐわんと揺れて気づいたら地面と天上がひっくり返っていた。
「康太……っ!」
倒れ込んだ僕に、明日美が慌てて駆け寄ってくる。
「だいじょぶ、ちょっと疲れただけ……」
ぼんやりとした意識が、たんだんとフェードアウトする。
ふわっと抱き上げられる感覚を最後に、完全に意識を手放してしまった。
******
ふと目が覚める。真っ白い天井にまさか病院に戻されたのかと焦って慌てて起き上がる。
「保健室か……」
まだ学校にいることに安堵する。
カーテンで仕切られていて、その向こうで人の気配がする。
カーテンの隙間からそっと覗くと、そこに居たのは先生じゃなくて、1人の男の生徒だった。
さっきバスケの時は居なかったはずだけど。
背は、180センチくらいありそうなくらい長身だ。
少し焦げた肌に、短く整えられた黒い髪、広い背中に精悍な身体付き。
「起きたか」
振り返ってそう言った生徒の、整った顔立ちにハッとする。
何処か見たことがあるような感覚に思考を巡らせる。
そうだ、自作漫画のキャラの聡介に似てるんだ。
本当にこんな人間存在するんだな、とまじまじと見つめて目を瞬く。
「なに?なんかついてる?」
首を傾げて、ぐ、と顔を近づけてくる。
「ああ、いや、ごめん……明日美は?」
「保健室の先生が居なかったから、呼びに行った。すぐ戻ってくるだろ」
「もしかして……あなたが運んでくれたの?」
「ああ。さっき体育館の2階で見てたんだ。いきなりぶっ倒れるからビビったよ。みんな心配してたぞ」
そう言いながらベッドの横に椅子を持ってきて座る。
「史(ふみ)、さっきの明るい髪の奴な。アイツあんたが体弱いの知らなったんだ。悪かったな」
その言い方に、おそらく史という生徒とか親しい間柄なんだろうな、と思う。
「ううん、僕1年はずっと入院してたし、僕のこと知ってる人ほとんどいないと思うから、しょうがないよ」
「体調はもう大丈夫なのか?」
そう言いながら、首を傾げて顔を覗き込むように近づけられる。
整った顔が近づいてきて、緊張して息を飲む。
頬にかかっていた髪を長い指で優しく払ってくれた。
「う、うん」
少し頬に触れた指に、体が熱くなる。
その感覚が妙に懐かしく感じて、不思議に思う。
「そうか、良かった」
心臓の鼓動が早くなる。
「なあ、変な話していいか?」
「なに……?」
「前世って、信じる?」
そう言って、ふ、と目を細めて笑う。
桜の花が咲くような、繊細で優しい笑顔。
綺麗だな――。
そう思って、目が離せなくなった。
END
屈んでバスケットボールを拾う。
顔を上げると、さっきの明るい髪の男の子が僕のほうへ駆け寄る。
僕は、そっとボールを手渡す。
「ありがと、バスケ一緒にする?」
目が合って、ニコ、と爽やかな笑みを見せる。
「っ、うん」
思わずそう返事して、自分でも驚いた。
明日美が横で信じられない、とでも言いたげに目を見張る。
明るい髪の男の子に腕を引かれて、コートへとついていく。
「ちょっと、!」
明日美が止めようとして僕に手を伸ばす。
振り返って、首を振って制する。
「大丈夫」
そう言うと、心配そうな顔で僕を見るけれど、明日美はそれ以上は何も言ってこなかった。
記憶ではバスケは初めてする筈なのに、何故かそんな気がしなくてコートに立つと懐かしい気分にさえなる。
ピーッと審判役の生徒が試合開始の笛を吹く。
上手なわけじゃない。でも一生懸命にコートを走って、パスされたボールをゴールに目掛けてシュートを打つ。
額を流れる汗が心地よい。
ゴールに吸い込まれるように入ったボールに、周りの生徒たちがわっ、と湧く。
嬉しさと同時に、視界がぐわんと揺れて気づいたら地面と天上がひっくり返っていた。
「康太……っ!」
倒れ込んだ僕に、明日美が慌てて駆け寄ってくる。
「だいじょぶ、ちょっと疲れただけ……」
ぼんやりとした意識が、たんだんとフェードアウトする。
ふわっと抱き上げられる感覚を最後に、完全に意識を手放してしまった。
******
ふと目が覚める。真っ白い天井にまさか病院に戻されたのかと焦って慌てて起き上がる。
「保健室か……」
まだ学校にいることに安堵する。
カーテンで仕切られていて、その向こうで人の気配がする。
カーテンの隙間からそっと覗くと、そこに居たのは先生じゃなくて、1人の男の生徒だった。
さっきバスケの時は居なかったはずだけど。
背は、180センチくらいありそうなくらい長身だ。
少し焦げた肌に、短く整えられた黒い髪、広い背中に精悍な身体付き。
「起きたか」
振り返ってそう言った生徒の、整った顔立ちにハッとする。
何処か見たことがあるような感覚に思考を巡らせる。
そうだ、自作漫画のキャラの聡介に似てるんだ。
本当にこんな人間存在するんだな、とまじまじと見つめて目を瞬く。
「なに?なんかついてる?」
首を傾げて、ぐ、と顔を近づけてくる。
「ああ、いや、ごめん……明日美は?」
「保健室の先生が居なかったから、呼びに行った。すぐ戻ってくるだろ」
「もしかして……あなたが運んでくれたの?」
「ああ。さっき体育館の2階で見てたんだ。いきなりぶっ倒れるからビビったよ。みんな心配してたぞ」
そう言いながらベッドの横に椅子を持ってきて座る。
「史(ふみ)、さっきの明るい髪の奴な。アイツあんたが体弱いの知らなったんだ。悪かったな」
その言い方に、おそらく史という生徒とか親しい間柄なんだろうな、と思う。
「ううん、僕1年はずっと入院してたし、僕のこと知ってる人ほとんどいないと思うから、しょうがないよ」
「体調はもう大丈夫なのか?」
そう言いながら、首を傾げて顔を覗き込むように近づけられる。
整った顔が近づいてきて、緊張して息を飲む。
頬にかかっていた髪を長い指で優しく払ってくれた。
「う、うん」
少し頬に触れた指に、体が熱くなる。
その感覚が妙に懐かしく感じて、不思議に思う。
「そうか、良かった」
心臓の鼓動が早くなる。
「なあ、変な話していいか?」
「なに……?」
「前世って、信じる?」
そう言って、ふ、と目を細めて笑う。
桜の花が咲くような、繊細で優しい笑顔。
綺麗だな――。
そう思って、目が離せなくなった。
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