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第十六話
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ダンジョンの中は広く、道は人が二人位なら並んで歩ける程で、所々にある広場は家が丸ごと収まることだろう。
それらの至るところには横穴が存在していて、それぞれが複雑に入り組み繋がっていて、慣れた者でもいつも通る道以外はほとんど通らない。
そんな所を淀みなく進んでいたリリィの足が止まる。
怪訝に思ったアンジェルが後ろから話し掛ける。
「ちょっと、どうしたのよ?もしかして他の奴等を見つけたの? そんな気配は感じないけど」
不審がりながらも構えるアンジェルへ振り返ると、相変わらず感情を感じさせない声調で淡々と言った。
「道に迷った。ここはどこ」
「はぁ!? あんた、知らないで先頭を歩いてたの?」
「このダンジョンに来たのは初めて。魔物の気配のない方へ進んでたら、ここに着いた」
アンジェルは再び、頭を抱える。知らないダンジョンを感だけで進むなど、ただの自殺行為だ。あれだけ迷いなく進んでいただけに、そんな馬鹿な真似をしていたなんて夢にも思わなかった。
「はぁ。まぁいいわよ。幸い、来た道には目印を付けてきたし。ほら、こっちよ」
「おぉ」
戻り始めると後ろから、感心したような声が聞こえた。
こんな基本的な事で感心されるなんてと、肩を落としながらもどうにか戻るのであった。
知った道まで戻ることが出来た二人は改めて、花の群生地へ向けて進み始める。
道中、このダンジョンについて注意を促すことも忘れない。
「このダンジョンは罠は殆ど無いけれど、魔物は毒持ちが多いから注意してよ」
「分かった。ところで、そこにいるムカデは危険?」
えっと指を向けられた方へ振り返ると、少し離れた広場の真ん中に倒れた女性と今にも襲い掛かろうとしている人程の大きさはあるムカデのような魔物がいた。
急いでナイフを抜き、魔物に向けて構えるとリリィへ指示を飛ばす。
「私が引き付けるから、あの人を安全なところへ!」
「……拒否する」
思わぬ返答に振り返ろうとすると、脇をリリィが抜けて行った。その素早さから『氣』を纏っていることが分かる。
そしてその速度を保ったまま、魔物へ目掛けて飛び掛かった。
「ウォッチ流体術、抉貫の型」
次の瞬間、魔物の硬い甲殻をリリィの抜手が貫いた。
魔物が思わぬ痛みに金切声をあげながら、体を畝らせる。その様子を観察するかの様に眺めてから呟く。
「効果あり。連打」
次々とその体に穴が開いていき、その内に魔物はピクピクと痙攣すると動かなくなった。
完全に死んだのを確認すると、呆然としているアンジェルへ手招きする。
ようやく我に変えると急いで女性の駆け寄り、具合をみる。幸い、大きな怪我はないようだが麻痺毒を浴びたらしく、解毒薬を与えてから広場の脇へ移動させるとその場を離れた。
それからしばらく進むと、リリィがぽつりと謝ってきた。
「ごめんなさい。貴女の指示を無視した」
「別に気にしてないわよ。結局、あなたが動いたほうが早く倒せたもの」
まさか謝られると思わなかったので、手を振って断る。
「しかし、驚いたわ。まさか素手で『虫』に穴を開けるなんて。獣人族でもやらないわよ。あんな無茶」
「問題ない。あのムカデの体液には溶解効果がなかった。それにあれくらい出来ないと、怒られる」
「怒られるって。あなたの周りって凄い人ばかりなのね」
呆れるを通り越して笑い始めるアンジェルに、珍しく感情を浮かべた顔で頷く。とても苦々しい顔だった。
「そう、兄さんは凄い。ご主人はもっと凄い」
「へぇ、あなたってお兄さんがいるんだ。その顔から察するに、仲は良くないみたいだけど」
何気なく相槌を打っただけだったのだが、思ったよりも響いたらしく、リリィの口が回りだす。
「兄さんは直ぐに怒る。この前も怒られた。お前はもっと頭を使えって」
「それには同感ね。大体、全員倒したいなら入り口に陣取るべきだもの」
「! 盲点」
目に見えて落ち込むリリィの様子から、もしかすると彼女は刺客ではないかもしれないと考える。さっきから彼女の言動には嘘を感じられない。
それに口調や表情の感情は乏しいが、全く無いわけでもない。
この手の人間には正直者が多いと経験から学んできた。もしかすると、それも演技かもしれないがそんな事を気にしながら進めるほど、ダンジョンという場所は甘くない。
少しでも相手を信用することが出来ると思えたならその気持ちに従うことが、ダンジョンのような危険な場所では重要だと、アンジェルは信じている。なので、彼女のことも信用しょうと決めたのだった。
「誰かが戦っている音がする」
リリィのその言葉に従って進むと、道中に様々な魔物の死骸が転がっていた。そのどれもが無惨にも腸や脳を飛び散らせている。その光景を抜けると広場に出た。
するとそこでは、『孤高』タイガと『恋する』サラがお互いに得物を手にして、睨み会っていた。
そして、サラの後ろには屋敷の時に一緒に連れていた女性達が血だらけで倒れている。その様子から、直ぐにでも治療をしなければ間に合わなくなるかもしれない。
「二人とも、何をしているの!?」
「アンジェルか! 後ろの二人を助けてやってくれ!」
アンジェルの怒声に反応したのはサラだけだった。タイガは相変わらずサラを睨んだまま、唸り声をあげる。
その様子に違和感を感じながらも、倒れている二人の治療を始める。
そうはさせまいとタイガが走ってくるが、リリィが進路に立ち塞がる。
タイガの標的が代わったことに安堵するサラに話し掛ける。
「一体、何が起きているの」
「さてね。ここに入った途端、彼女が襲い掛かってきたのさ。まるで、ここから先には行かせないとばかりにね」
そう言って、タイガの背後にある横穴を睨む。それは花の群生地へと繋がる入り口であった。
それらの至るところには横穴が存在していて、それぞれが複雑に入り組み繋がっていて、慣れた者でもいつも通る道以外はほとんど通らない。
そんな所を淀みなく進んでいたリリィの足が止まる。
怪訝に思ったアンジェルが後ろから話し掛ける。
「ちょっと、どうしたのよ?もしかして他の奴等を見つけたの? そんな気配は感じないけど」
不審がりながらも構えるアンジェルへ振り返ると、相変わらず感情を感じさせない声調で淡々と言った。
「道に迷った。ここはどこ」
「はぁ!? あんた、知らないで先頭を歩いてたの?」
「このダンジョンに来たのは初めて。魔物の気配のない方へ進んでたら、ここに着いた」
アンジェルは再び、頭を抱える。知らないダンジョンを感だけで進むなど、ただの自殺行為だ。あれだけ迷いなく進んでいただけに、そんな馬鹿な真似をしていたなんて夢にも思わなかった。
「はぁ。まぁいいわよ。幸い、来た道には目印を付けてきたし。ほら、こっちよ」
「おぉ」
戻り始めると後ろから、感心したような声が聞こえた。
こんな基本的な事で感心されるなんてと、肩を落としながらもどうにか戻るのであった。
知った道まで戻ることが出来た二人は改めて、花の群生地へ向けて進み始める。
道中、このダンジョンについて注意を促すことも忘れない。
「このダンジョンは罠は殆ど無いけれど、魔物は毒持ちが多いから注意してよ」
「分かった。ところで、そこにいるムカデは危険?」
えっと指を向けられた方へ振り返ると、少し離れた広場の真ん中に倒れた女性と今にも襲い掛かろうとしている人程の大きさはあるムカデのような魔物がいた。
急いでナイフを抜き、魔物に向けて構えるとリリィへ指示を飛ばす。
「私が引き付けるから、あの人を安全なところへ!」
「……拒否する」
思わぬ返答に振り返ろうとすると、脇をリリィが抜けて行った。その素早さから『氣』を纏っていることが分かる。
そしてその速度を保ったまま、魔物へ目掛けて飛び掛かった。
「ウォッチ流体術、抉貫の型」
次の瞬間、魔物の硬い甲殻をリリィの抜手が貫いた。
魔物が思わぬ痛みに金切声をあげながら、体を畝らせる。その様子を観察するかの様に眺めてから呟く。
「効果あり。連打」
次々とその体に穴が開いていき、その内に魔物はピクピクと痙攣すると動かなくなった。
完全に死んだのを確認すると、呆然としているアンジェルへ手招きする。
ようやく我に変えると急いで女性の駆け寄り、具合をみる。幸い、大きな怪我はないようだが麻痺毒を浴びたらしく、解毒薬を与えてから広場の脇へ移動させるとその場を離れた。
それからしばらく進むと、リリィがぽつりと謝ってきた。
「ごめんなさい。貴女の指示を無視した」
「別に気にしてないわよ。結局、あなたが動いたほうが早く倒せたもの」
まさか謝られると思わなかったので、手を振って断る。
「しかし、驚いたわ。まさか素手で『虫』に穴を開けるなんて。獣人族でもやらないわよ。あんな無茶」
「問題ない。あのムカデの体液には溶解効果がなかった。それにあれくらい出来ないと、怒られる」
「怒られるって。あなたの周りって凄い人ばかりなのね」
呆れるを通り越して笑い始めるアンジェルに、珍しく感情を浮かべた顔で頷く。とても苦々しい顔だった。
「そう、兄さんは凄い。ご主人はもっと凄い」
「へぇ、あなたってお兄さんがいるんだ。その顔から察するに、仲は良くないみたいだけど」
何気なく相槌を打っただけだったのだが、思ったよりも響いたらしく、リリィの口が回りだす。
「兄さんは直ぐに怒る。この前も怒られた。お前はもっと頭を使えって」
「それには同感ね。大体、全員倒したいなら入り口に陣取るべきだもの」
「! 盲点」
目に見えて落ち込むリリィの様子から、もしかすると彼女は刺客ではないかもしれないと考える。さっきから彼女の言動には嘘を感じられない。
それに口調や表情の感情は乏しいが、全く無いわけでもない。
この手の人間には正直者が多いと経験から学んできた。もしかすると、それも演技かもしれないがそんな事を気にしながら進めるほど、ダンジョンという場所は甘くない。
少しでも相手を信用することが出来ると思えたならその気持ちに従うことが、ダンジョンのような危険な場所では重要だと、アンジェルは信じている。なので、彼女のことも信用しょうと決めたのだった。
「誰かが戦っている音がする」
リリィのその言葉に従って進むと、道中に様々な魔物の死骸が転がっていた。そのどれもが無惨にも腸や脳を飛び散らせている。その光景を抜けると広場に出た。
するとそこでは、『孤高』タイガと『恋する』サラがお互いに得物を手にして、睨み会っていた。
そして、サラの後ろには屋敷の時に一緒に連れていた女性達が血だらけで倒れている。その様子から、直ぐにでも治療をしなければ間に合わなくなるかもしれない。
「二人とも、何をしているの!?」
「アンジェルか! 後ろの二人を助けてやってくれ!」
アンジェルの怒声に反応したのはサラだけだった。タイガは相変わらずサラを睨んだまま、唸り声をあげる。
その様子に違和感を感じながらも、倒れている二人の治療を始める。
そうはさせまいとタイガが走ってくるが、リリィが進路に立ち塞がる。
タイガの標的が代わったことに安堵するサラに話し掛ける。
「一体、何が起きているの」
「さてね。ここに入った途端、彼女が襲い掛かってきたのさ。まるで、ここから先には行かせないとばかりにね」
そう言って、タイガの背後にある横穴を睨む。それは花の群生地へと繋がる入り口であった。
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