アリステール

public p

文字の大きさ
上 下
11 / 55
???~少年期

家路

しおりを挟む

ソレはおよそ掴み取られるまで気付かなかったのか、さしたる抵抗も受けず捕縛に成功した
不意打ちではあるが無力化させられたことに気を緩めかけるが、思い直してその手を固定させる

その手から逃れるようにソレは必死に体をよじらせているが、びくともしないことにまた怒りを爆発させたかのように大きな吠え声を響かせる

「僕の声は聞こえる?」
もはや狂ったようにしか見えなかったが、少し冷静になった頭でもし知性のある魔獣であればわざわざ命をとらなくてもいいのでは、と期待して声をかけ続ける
手をかざせば抑えられた口を限界いっぱいまで開き容赦なくかみ砕こうと空を噛む
いたずらに吠えさせ続けて別の何かを引き寄せてはたまらない、ともう一つ手を作り口を抑えつけた

周囲を見渡すが似た姿は見えない
索敵魔法にもひっかかるものはない
群れからはぐれて一匹でここまでやってきたのか、ここの近くにいてたまたまここに来たのか
少なくとも、この秘密基地で魔法の練習を始めてからは一度も見たことはなかった

(もし群れがいるとしたら村が危ない。索敵魔法にもとくに引っかかるものはないけど、範囲外の可能性もある。
いなかったならそれで良い・・・けど、まずは父さんか母さんに相談したほうがいいかな)

最悪を考えろ、と意識を切り替える
素早く動けば万が一でも被害を抑えるなり街へ逃げ込むことも出来る

ソレの体と口を抑え込んでいた手を、ぞうきんを絞るかのようにして首を折る
グキッ、という骨が外れるような、グチッ、と肉がつぶれるような音が小さく鳴る
抵抗が少なくなったのを確認する
2,3分経ち、動きが止まる
亜空間倉庫へ収納しようと触れるが、まだ弱く脈をうっていた
その生命力に驚嘆するが、今はわずかな時間でも惜しい
放っておいても死に至るだろうけど、脅威を伝えるためにもこの魔物の死体は必要になる

躊躇は一瞬で捨てる

地面に手をあて、固めた土を尖らせ、地面から直接頭へ突き刺した

脈が触れないことを確認してから改めて収納する

索敵魔法を展開しつつ、地上に目を向けながら、空を飛んで家へ急いだ



「あら、おかえり。今日も薬草はとれた?・・・どうしたの、そんな顔をして」
家の扉を開けると、母さんが出迎えてくれた
今どんな顔をしているかは、よくわからない
「母さん、父さんはまだ帰ってない?」
「今日は寄り合いがあるから遅くなるって聞いてるわ。そんなことより」
「そんなことより!今すぐ伝えなきゃいけないことがあるんだ!」
「・・・落ち着いて。大丈夫、ちゃんと話を聞くから」

母さんの声は、どうしてこうも僕の心を落ち着かせてくれるんだろうか

「・・・ごめん、ちょっと、慌ててた」
「そうね。まずは、深呼吸して。大事なことならなおさら冷静に話さないと」
「・・・うん、もう大丈夫。まずは見てほしいものがあるから、庭まで来てほしい」
「わかったわ」

庭に出て、さきほどの魔物を取り出す

「え?これって、何?普通の動物とは違うみたいだけれど」
「このことが終わったら詳しく話すけど、森の中で魔法の練習をしていたときに食べられかけた。
いきなりだったし、何をしても襲って来ようとしたから、しょうがなく。頭の穴は僕が魔法で空けた」
「・・・そう。それで?」
「うん。多分、魔物なんじゃないかと思って。近くにはこいつしかいなかったけど、
もし群れがいてこいつがはぐれていたとしたら、と思って急いで帰ってきたんだ。
見たことのない動物?だったから、母さんたちに相談したくて」
「・・・そうだったの。疑うわけじゃないけど、ついさっきのこと?」
「うん。あと一応、帰る途中に他のは見かけなかった」
「そうなのね・・・この大きさで、口も体まで裂けてるような動物は、母さんも知らないわ。
ただ知らないだけかもしれないし、アリーの言う通り魔物か、魔獣の可能性だってある。
まずはお父さんにも話しましょう、これを持って・・・持ってっ・・・!」
「持ち上げるのはさすがに無理なんじゃ」
「・・・そうね。アリー、一緒に来て、もう一回説明してくれる?」

普段と変わらないような母の姿に、ふとのしかかっていた重圧が和らいだ気がした
しおりを挟む

処理中です...