17歳の時に書いた話

夜桜紅葉

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第三章

もしもし

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 僕たちに認められた後、松本は
「とりあえず、長居してもアレだし今日はそろそろお暇しようかな」
と言った。

松本が荷物を持って玄関に行こうとしたところで天姉が部屋から出てきた。

「あれ、もう帰っちゃうの? ご飯食べてけばいいのに」

「白石の手料理……いやいや、帰ります。お邪魔しました」
「そっか。じゃあまた学校でね~」

「松本殿。一応言っておくが、うちでの料理担当はこっちの恭介殿でゴザルよ。天姉は洗濯とか担当で拙者は掃除担当でゴザル」

「あ、そうなの? 佐々木君は料理ができるんだ。すごいな。なんか良いよね。俺も料理できるようになりたいなー。得意料理とかあったりするの?」

「そうですねー。肉じゃがとかでしょうか」
「へぇー!」

「私も料理できるよ。得意料理はお餅!」
「それ料理なの? 買ってきた切り餅焼くだけじゃん」

「うるさいぞ恭介! 私が焼いたらおいしくなるんだぞ!」
「あーそう」
「信じてないな貴様」

「ちなみに拙者の得意料理はインスタントラーメンでゴザル」
「それも料理じゃないと思うけど」
「拙者がお湯を注ぐとおいしくなるんでゴザルよ」

僕たちがそんな会話をしているのを苦笑いしながら見ていた松本は遠慮がちに
「えっと……それじゃ帰ります」
と言った。

「あ、ほったらかしにしてすみません」
「また遊びに来るといいでゴザルよ」
「じゃ~ね~。また明日」
「うん。またね」
今度こそ松本は帰っていった。


 松本が帰った後、三人で食卓に着いて今日のことについて話し始めた。

天姉が僕たちに訊いた。
「さて、初めての学校はどうだったかね。楽しかったかい?」

「うん。なんか新鮮だった。自分と同じくらいの年齢の人間があんなにたくさん一か所に集結してるのは面白いね」

「あー恭介たちからすればそういうことも珍しく感じるのか。私はなんか懐かしいなーって感じだったなー。けいはどうだった?」

「下駄箱っていう名前のくせに下駄を入れている生徒がいなかったでゴザルな」
「え、なにその着眼点……」

「あー。今朝、人の下駄箱勝手に開いて中身を確認してたのって下駄が入ってないか調べてたんだ」

「そうでゴザルよ。それ以外にどんな理由が考えられるんでゴザル?」

「いや、なんでそんな自分の行動が当たり前みたいな態度なの」

「なんか他にないの? まさか今日一日中下駄箱のこと考えてたわけじゃないでしょ?」

天姉に訊かれたけいは少し考えてから答えた。

「校長の話が長かったでゴザルな」
「それな」
天姉が素早く同意した。

僕も頷いて同意した。
「月見酒校長ね。確かにあれは長かった。っていうかあの謎の演出はなんなの」
「一人芝居してたでゴザルな」

「不思議な学校だよね~。ってか日向に連絡してなかった」

天姉がスマホを取り出してなにやら操作し始めた。

今日は日向も始業式だった。
日向もスマホを持たされているので、学校が終わったら連絡することになっていたのだ。

天姉が食卓の中央にスマホを置いた。
通話画面が表示されていてスピーカーがオンになっている。

「もしもしー」
天姉がそう言うとスマホから
「もしもーし」
日向の返事が返ってきた。

「そっちはどうや?」
「問題ないでゴザルよ。日向殿はどうでゴザル?」

「殿? ……まぁええわ。私の方も特に問題ないな。担任の先生はのんびりした感じやしクラスの子も元気があってええと思う。明日からも楽しみや」

「そりゃ良かった」
天姉が満足そうに頷いた。

それから少し話して、日向が
「桜澄さんたちと代わろうか?」
と言った。

「そこにいるんでゴザルか?」
「うん。三人ともおるで。あ、スピーカーにすればええんか」

そう言った後、すぐに
「お、これ聞こえとるんか。ん? おーい。聞こえとるかー。わしじゃ。わしわし」
げんじーの声が聞こえてきた。

「聞こえてるよー」
僕が返事すると、向こうから
「ちゃんと聞こえているみたいですね」
「ああ」
ゆずと先生の声も聞こえてきた。

「学校はどうだった?」
先生が訊いてきた。

「馴染めそうか?」
「多分大丈夫だと思います」

「友達はできそうか?」
「頑張って作るでゴザルよ」

「三人暮らしで何か不自由はないか?」
「今のとこ特にはなさそうですね~」
「……そうか」

向こうからゆずの小さな笑い声が聞こえてきた。
「どうしたゆず?」

先生が訊くとゆずは
「すみません。いえ、桜澄さんの緊張がやっと解けたので」

「俺は緊張してたのか? ……自分じゃ気がつかなかったが」
「お前、朝からずっとそわそわしてたぞ」

げんじーの声の調子から、顔が見えなくても今げんじーがどんな顔をしているのか容易に読み取れた。
絶対ニヤニヤしてる。

天姉もニヤリとして
「桜澄さんの自慢の子供たちは親元を離れても元気にやってますよ~」
とおちょくるように言った。

先生からの返事はなかったが、向こうでげんじーと日向の笑い声が聞こえてきた。

僕は先生が今どんな顔をしているのか想像して、天姉と同じようにニヤリとした。
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