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第11話 アミリア
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和哉とギルランスが拳を突き合わせ笑い合っていると、突然バンッと部屋のドアが開き、一人の美しい女性が入ってきた。
「あら!気が付いたのね?よかったわぁ」
そう言いながらその女性はつかつかと歩み寄り、ベッドを挟むようにギルランスの反対側に立つと、拳を突き合わせたまま驚きで固まっている和哉の手をギルランスから奪い取って握り締め、嬉しそうに微笑んだ。
年齢は和哉たちと同じくらいだろうか、淡い桃色の豊かな長い髪にサファイアのような青い瞳がキラキラと輝いている。整った顔立ちに人形のような可愛らしさがあった。
何より特筆すべきは、スタイルの良さだ。出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる、まさにボンキュッボンのナイスバディなのである。彼女はその豊かな胸を惜しげもなくさらし、大きく胸の開いた白いワンピースを着ていて、和哉が目のやり場に困る程だった。
どうやら彼女は和哉の無事を喜んでいるようなのだが……。
(え、誰!? めっちゃ可愛い――ってか、胸でっか! こ、この谷間はヤバいでしょ!)
急に視界に飛び込んできた可愛い女の子に、和哉は自分の顔が赤くなるのを感じつつ、驚きのあまり硬直したままでいた。そんな和哉の上から不機嫌そうなギルランスの声が降ってきた。
「おい、アミリア! コイツは怪我人なんだ、もうちっと静かに入ってこれねぇのかよ!?」
怒ったような口調ではあるが、本気ではなくむしろ親しみを感じる言い方だ。
「だって、ちゃんと治療したのに、この子全然目を覚まさないから心配してたのよ~」
そう言って上目遣いにギルランスを見上げる彼女の潤んだ瞳は、どこか色っぽさも感じた。二人のやり取りを唖然と見ていた和哉はハッと気づいた――。
(え、”アミリア”ってもしかして……小説の中でギルの恋人だったあのアミリアさん?うそ? ホントに? マジで? ――ってか、アミリアさんが僕の治療を!?)
予想外の展開に、驚きのあまり声も出せず口をパクパクさせている和哉に気付く様子もなく、頭上では二人の会話が続いていた。
「お前なぁ、こいつはまだ起きたばっかなんだ、もうちょっと気ぃ遣え」
呆れたように言うギルランスに対してアミリアはぷくっと頬を膨らませて抗議した。
「え~、そういうギルだって、治療している間ずぅっと『早くしろ』だの『大丈夫か?』だの騒いでいたくせに!」
(うひゃぁぁ! 何それっ!? それってつまりギルがめっちゃ僕の心配をしてくれてたってコトだよね!? 嬉しすぎるんですが!!)
和哉が一人で悶えている間も二人の言い合いは続く。
「う、うっせーな! んなこと言ってねぇだろうが!」
「言いました~! 私はちゃあんと聞いてました~!」
動揺しているのがバレバレのギルランスに対して、勝ち誇ったようにニヤニヤと笑いながら追い打ちをかけるアミリアの顔は、さしずめ可愛い小悪魔といったところだ。
「っ! だぁー! もうこの話は終わりだ!!」
ついに耐えきれなくなったのか、ギルランスは乱暴に話を打ち切った。しかめっ面で顔を背けるギルランスの様子にクスクス笑いながら、アミリアは和哉に向き直ると改めて話しかける。
「ふふっ、ごめんね? うるさくしちゃって。具合はどう? 大丈夫?」
優しく問われ、和哉はハッと我に返った。
「あ! は、はい! 全然大丈夫です!」
慌てて答える和哉に、アミリアはホッとしたように笑い、優しい眼差しを向ける。
「そう、良かったわぁ」
(うわぁぁ、もしかして女神様ですか……? それに、めっちゃいい匂いするし……)
鼻の下が伸びそうになるのを堪えつつチラッとギルランスのほうを見ると、彼は不機嫌そうなまま何か言いたげな様子で和哉を見下ろしていた。
そんなギルランスとアミリアを交互に見つつ、和哉はこの世界の顔面偏差値の高さに驚かされていた。
(さすが、小説の登場人物たちだけあるなぁ……)
などと呑気なことを考えている和哉に、アミリアが美しい微笑みを見せながら覗き込む。
「ところで、あなたの名前は? 私はアミリアよ! ギルとは幼馴染の腐れ縁ってやつかしら? よろしくね」
(えっ! 幼馴染?腐れ縁? 確か、小説ではアミリアさんはギルの恋人で婚約者だったはずだけど……。やっぱこっちの世界だと設定が変化してるのかな?)
「あ、はい! 僕は和哉といいます。よ、よろしくお願いします!!」
またまた愛読書と違った展開に戸惑いつつも、和哉が挨拶を返すと、アミリアはニッコリ笑って頷いた。
「カズヤね! よろしく!」
改めて握手を求められ、和哉も自然と手を差し出し握手を交わした。すると、二人のやり取りを黙って見ていたギルランスが、ふと思い出したように彼女に声を投げる。
「おい、アミリア、お前はもう大丈夫なのかよ? 魔力は回復したのか?」
「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう! でもそんなに心配してくれるなら、もう少し優しい言葉をかけてくれたっていいじゃない?」
そう言っていたずらっぽく笑うアミリアに対し、ギルランスは面倒くさそうに答える。
「けっ! 誰がてめぇなんか心配するかよ!」
また始まった二人のやり取りを聞き和哉は、はたと重要なことに気付く。
(ん? 魔力? 回復?……ハッ! もしかして……)
「あの……アミリアさん、魔力の回復って……もしかして僕の治療が原因、ですか?」
恐る恐る和哉が尋ねると、アミリアは「ん?」と一瞬首を傾げた後、笑って頷いた。
「ええ、そうよ。カズヤへの治癒魔法でちょっと魔力使い過ぎちゃったみたいだから、さっきまで休んでたの」
(うわぁぁぁ! やっぱり!!)
予想的中に和哉は焦った。ギルランスがアミリアの心配をするほどに彼女の魔力を治療で消耗させてしまったようなのだ。
「ご、ごめんなさい! 僕のせいで……」
慌てて布団に突っ伏す勢いで謝る和哉の肩に、アミリアの手がそっと置かれる。
「いいのよ、あなたが気に病む必要はないわ」
優しい声音に和哉が顔を上げると、アミリアは優しく微笑んで続けた。
「私の魔力量はかなり多いほうだし、一日休んだおかげでもうすっかり回復してるわよ! それにちゃんとギルから治療費も貰ってるから、カズヤは気にしないでちょうだいね」
そう言ってアミリアは茶目っ気たっぷりにウィンクして見せた。
「あ、ありがとうございます……!」
改めて礼を言う和哉に彼女は手をひらひらさせ、「いいのよ」と言いながら話を続ける。
「それにしても、あのギルから『助けてくれ』って連絡が来た時はびっくりしたわよ~。それで急いで来てみたら『こいつを頼む』とか言われてね。キレイな男の子が大怪我を負って血まみれで倒れてるんだもの、さらにびっくりよ!」
アミリアは大袈裟なリアクションで驚くような素振りを見せた後、チラリと横目でギルランスを見やると悪戯っぽく笑った。
「この人ね、戦闘能力にステータス全振りしちゃってるから、ヒーリングのほうは全然なのよねぇ~」
その言葉にギクリとしたように体を強張らせたギルランスは、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……うっせ、ほっとけ」
ぶっきらぼうに言ってそのままそっぽを向くギルランスに、アミリアはまた楽しそうにクスクスと笑った。そんな二人のやり取りを見ながら、和哉も思わずクスリと笑いを零す。
(仲いいんだなぁ……)
気の置けない友人同士のような会話に、和哉は二人を微笑ましく思うが、同時になぜかなんとなくモヤモヤした気持ちを抱いている自分に気が付き首を傾げた。
(あれ? なんだろ……この感じ……?)
和哉が自分でも理解できない感情を不思議に感じていると、不意にアミリアが間近に顔を寄せて覗き込み、まじまじと和哉の顔を見つめながら感心したように呟いた。
「それにしても、改めて見ると本当にキレイな顔立ちしてるわね~。女の私でも惚れ惚れしちゃうくらいだわ……ねえ、ギル?」
そう言ってギルランスに同意を求めるようにアミリアが水を向けた途端、彼はビクッと体を震わせた。そして、なぜか焦ったような口調になる。
「えっ!? そ、そうか?べ、べつに普通じゃねぇか?」
(んん?)
突如挙動不審になったギルランスに和哉は首を傾げたが、すぐにハッと我に返り慌てて取り繕うように言った。
「 あ! いやいやっ! そんな、僕なんかぜんぜんですよ!」
こんな、小説の登場人物を地で行く美形二人を前に、そんな誉め言葉を言われてしまったら、和哉としては畏れ多いとしか言いようがない。両手をぶんぶんと振りながら必死に否定する和哉の様子にアミリアは可笑しそうに笑った後、「そうかしら?」と言って再び顔を近づけると、しなやかな白い手を伸ばして和哉の頬に触れる。
「ほらぁ、ほっぺたなんかこんなにモチモチで、羨ましい~」
そう言いながら、ムニムニと両方の頬っぺたを引っ張ったり戻したりし始めた。
(ええぇ、ちょっ……)
アミリアの行動に、驚きと困惑で固まる和哉がされるがままになっていると、「おい!」とギルランスの声が割って入った。そしてアミリアの腕を掴んで和哉の顔から引き剥がす――その顔は不機嫌極まりなく眉間にシワを寄せている。
「いつまで触ってやがる!」
怒りの表情でそう言い放つと、アミリアの手をぺいっ!とばかりに振り払った。そんなギルランスに対してミリアは、両手を前に出して降参したポーズをしながら肩を竦ませる。
「はいはい、分かったわよ、そんなに怒んなくてもいいじゃない」
「ったく……お前は……」
呆れたように呟くギルランスにアミリアは全く悪びれないで笑っている。その様子に和哉はなんだかおかしくなり、今度は本当に声を出して笑ってしまった。
「あはははっ」
和哉の笑い声にギルランスとアミリアが揃って視線を向けた。そして二人共驚いたように目を見開いた後、つられるように笑い出した。
その後、三人で暫く他愛のない話をしていたのだが、何気なく和哉が「ギル」と愛称呼びをした途端、即座にアミリアが反応した。
「えっ!? ええぇぇぇぇぇ!! カズヤ、『ギル』って呼んでんの!? なんで!?」
見開いた目から青い瞳がこぼれ落ちそうなくらいだ。アミリアにすごい剣幕で問い詰められた和哉はたじろぐ。
「えっ、なんでって……そう呼ぶように言われて……え?なに?」
アミリアの勢いに戸惑いながらも和哉が答えると、彼女はさらに目を剥いた後、「へ~」とか「ふぅ~ん」とか言いながらニヤニヤとギルランスを横目で見やった。
「……んだよ?」
アミリアの視線に気付いたギルランスは眉間に皺を寄せながらそう言うと、どこか居心地が悪そうにチッと舌打ちしてそっぽをむいた。そんなギルランスの様子にアミリアのニヤニヤは徐々に嬉しそうな笑みに変わり……そして、和哉に向き直ると満面の笑みを見せ言った。
「カズヤ、あなた相当ギルに気に入られているのね!?」
「――へ? そうなんですか?」
いまいち実感が湧かない和哉は、間の抜けた返事をしてしまう。
「だって、このおっかない男がよ? 他人にそんな風に呼ばせて許してるのなんて、今では私くらいよ? そんな人、レア中のレアよ!」
(え? そうなの!?)
一瞬、アミリアの言った『今では』の言葉に引っ掛かりを感じた和哉だったが、そんなことよりも、あの呼び方がそんなに特別なことだとは思っていなかったので、そちらのほうで驚いてしまった。と同時に、それがとても嬉しくて内心小躍りしながらニヤケそうになるのを必死に我慢していた。
「それは、えっと……嬉しいですね」
(うわ~、なんかすっごい照れる……!)
気恥ずかしくて視線を合わせられずに、俯きがちに言うと、アミリアは微笑みながら和哉の手を取り、ギュッと握りしめた。目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「そっかぁ……よかったぁ……やっとギルにも心を許せる人ができたんだ……嬉しいなぁ……ホントに良かった……」
アミリアはグスッと鼻をすすりながら心底ほっとした様子で言った。和哉は、まるで自分のことのように喜ぶ彼女を見て、なんだか胸がいっぱいに満たされていくのを感じた。
「ありがとう、カズヤ……これからもギルのこと、よろしくね」
そう言うとアミリアはさらに強く和哉の手を握り締めた。その手は温かく、優しい気持ちが伝わってくるようだった。アミリアは本当にギルランスが大切なんだということがありありと伝わってくる。
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
和哉が笑顔で答えると、アミリアも花が咲いたように微笑んだ。そしてギルランスのほうに顔を向けると今度は悪戯っぽい表情で言う。
「ギル、あなたもしっかりしなさいよね?」
言われたギルランスはバツが悪そうに顔をしかめ、小さな声でボソッと「……うるせぇ」と言うと再び顔を背けてしまった。照れてそんな態度を見せているのか、本当のところは和哉には分からなかったが、不貞腐れている様子を見ていると、つい頬が緩んでしまう。アミリアもギルランスの反応をクスクスと笑いながら見ていた。そんな二人の視線に耐えかねたのか、ギルランスは眉間に皺を寄せながら不満気に口を開く。
「――んなことより、こいつの怪我はもう大丈夫なのか? 結構血が出てただろ? 治ってんのかよ?」
話題を変えようとしたのか、そう言うギルランスに対し、アミリアは呆れたようにため息をついた。
「あのね、私が治療したんだし大丈夫よ! 私の力、知ってるでしょ!? そんなに心配なら見てみる?」
そう言ったかと思うと、アミリアは和哉の包帯を躊躇なくほどき始めた。
(うわわわ! ちょ! 待って!)
焦る和哉をよそにあっという間に包帯は全て外されてしまい、傷口があった部分が露わになった。傷自体は塞がっているものの、肩から袈裟懸けに大きくみみず腫れのような跡がまだ痛々しく残っていた。
(こ、これは酷いな……)
和哉は初めて自分の傷の状態を確認して、少し驚いた。こんなにも酷いとは思っていなかったからだ。自分で見ても痛々しい傷跡だった。しかし、アミリアはそれを見ると満足そうにうんうんと頷いた後ニッコリと笑った。
「うん、だいぶよくなってきてるわね。これならもう治りそうよ」
その言葉にギルランスはホッとしたような表情を見せた。
「ただ……」
だが、アミリアは少し困ったような顔をして続けた。
「この傷痕なんだけど、かなり深かったみたいで完全には消えそうにないのよね。今よりは薄くはなるけど、これからずっと残ると思うのよ……」
アミリアの言葉にホッとしていた様子のギルランスの表情は忽ち曇っていった。和哉としたら、あれだけの大怪我から生還できただけでも奇跡のようだと思っていたため、傷痕が残ることなどもはやどうでも良かった。寧ろここまで回復させてくれたことに感謝しかない。自分の命の恩人である二人にそこまで心配させていることを申し訳なく感じた和哉は、できる限りの明るい笑顔を二人に向けた。
「いや、全然大丈夫ですから気にしないでください、むしろ男の勲章?的な感じでカッコいいじゃないですか!!」
二人は一瞬キョトンとした後、顔を見合わせて苦笑した。
「お前ってほんと変わってんな……」
「ふふ、そう言ってくれちゃうところがまたね……」
沈みそうになっていた空気が和やかになったところで、突然アミリアがパンっと手を叩き、何かを思い出したように「あっ!!」と声を上げた。その声に和哉とギルランスはビクッと体を硬直させる。
「ど、どうした?」
「何かあったんですか?」
心配そうな表情を浮かべる二人に、アミリアは少し慌てる様子を見せた。
「いっけない! 私、次の仕事が入ってるんだったわ。そろそろ帰るわね。カズヤ、一応今夜一晩は無理しちゃダメよ、しっかり休んでね。明日には全回復してるはずよ! じゃあ、またね!」
彼女は早口でまくし立てるように言うと、和哉にパチリとウィンクをしてバタバタと慌ただしく出て行ってしまった。
残された二人は、暫くポカンとしたままアミリアの出て行った扉を眺め続けていた。
「あら!気が付いたのね?よかったわぁ」
そう言いながらその女性はつかつかと歩み寄り、ベッドを挟むようにギルランスの反対側に立つと、拳を突き合わせたまま驚きで固まっている和哉の手をギルランスから奪い取って握り締め、嬉しそうに微笑んだ。
年齢は和哉たちと同じくらいだろうか、淡い桃色の豊かな長い髪にサファイアのような青い瞳がキラキラと輝いている。整った顔立ちに人形のような可愛らしさがあった。
何より特筆すべきは、スタイルの良さだ。出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる、まさにボンキュッボンのナイスバディなのである。彼女はその豊かな胸を惜しげもなくさらし、大きく胸の開いた白いワンピースを着ていて、和哉が目のやり場に困る程だった。
どうやら彼女は和哉の無事を喜んでいるようなのだが……。
(え、誰!? めっちゃ可愛い――ってか、胸でっか! こ、この谷間はヤバいでしょ!)
急に視界に飛び込んできた可愛い女の子に、和哉は自分の顔が赤くなるのを感じつつ、驚きのあまり硬直したままでいた。そんな和哉の上から不機嫌そうなギルランスの声が降ってきた。
「おい、アミリア! コイツは怪我人なんだ、もうちっと静かに入ってこれねぇのかよ!?」
怒ったような口調ではあるが、本気ではなくむしろ親しみを感じる言い方だ。
「だって、ちゃんと治療したのに、この子全然目を覚まさないから心配してたのよ~」
そう言って上目遣いにギルランスを見上げる彼女の潤んだ瞳は、どこか色っぽさも感じた。二人のやり取りを唖然と見ていた和哉はハッと気づいた――。
(え、”アミリア”ってもしかして……小説の中でギルの恋人だったあのアミリアさん?うそ? ホントに? マジで? ――ってか、アミリアさんが僕の治療を!?)
予想外の展開に、驚きのあまり声も出せず口をパクパクさせている和哉に気付く様子もなく、頭上では二人の会話が続いていた。
「お前なぁ、こいつはまだ起きたばっかなんだ、もうちょっと気ぃ遣え」
呆れたように言うギルランスに対してアミリアはぷくっと頬を膨らませて抗議した。
「え~、そういうギルだって、治療している間ずぅっと『早くしろ』だの『大丈夫か?』だの騒いでいたくせに!」
(うひゃぁぁ! 何それっ!? それってつまりギルがめっちゃ僕の心配をしてくれてたってコトだよね!? 嬉しすぎるんですが!!)
和哉が一人で悶えている間も二人の言い合いは続く。
「う、うっせーな! んなこと言ってねぇだろうが!」
「言いました~! 私はちゃあんと聞いてました~!」
動揺しているのがバレバレのギルランスに対して、勝ち誇ったようにニヤニヤと笑いながら追い打ちをかけるアミリアの顔は、さしずめ可愛い小悪魔といったところだ。
「っ! だぁー! もうこの話は終わりだ!!」
ついに耐えきれなくなったのか、ギルランスは乱暴に話を打ち切った。しかめっ面で顔を背けるギルランスの様子にクスクス笑いながら、アミリアは和哉に向き直ると改めて話しかける。
「ふふっ、ごめんね? うるさくしちゃって。具合はどう? 大丈夫?」
優しく問われ、和哉はハッと我に返った。
「あ! は、はい! 全然大丈夫です!」
慌てて答える和哉に、アミリアはホッとしたように笑い、優しい眼差しを向ける。
「そう、良かったわぁ」
(うわぁぁ、もしかして女神様ですか……? それに、めっちゃいい匂いするし……)
鼻の下が伸びそうになるのを堪えつつチラッとギルランスのほうを見ると、彼は不機嫌そうなまま何か言いたげな様子で和哉を見下ろしていた。
そんなギルランスとアミリアを交互に見つつ、和哉はこの世界の顔面偏差値の高さに驚かされていた。
(さすが、小説の登場人物たちだけあるなぁ……)
などと呑気なことを考えている和哉に、アミリアが美しい微笑みを見せながら覗き込む。
「ところで、あなたの名前は? 私はアミリアよ! ギルとは幼馴染の腐れ縁ってやつかしら? よろしくね」
(えっ! 幼馴染?腐れ縁? 確か、小説ではアミリアさんはギルの恋人で婚約者だったはずだけど……。やっぱこっちの世界だと設定が変化してるのかな?)
「あ、はい! 僕は和哉といいます。よ、よろしくお願いします!!」
またまた愛読書と違った展開に戸惑いつつも、和哉が挨拶を返すと、アミリアはニッコリ笑って頷いた。
「カズヤね! よろしく!」
改めて握手を求められ、和哉も自然と手を差し出し握手を交わした。すると、二人のやり取りを黙って見ていたギルランスが、ふと思い出したように彼女に声を投げる。
「おい、アミリア、お前はもう大丈夫なのかよ? 魔力は回復したのか?」
「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう! でもそんなに心配してくれるなら、もう少し優しい言葉をかけてくれたっていいじゃない?」
そう言っていたずらっぽく笑うアミリアに対し、ギルランスは面倒くさそうに答える。
「けっ! 誰がてめぇなんか心配するかよ!」
また始まった二人のやり取りを聞き和哉は、はたと重要なことに気付く。
(ん? 魔力? 回復?……ハッ! もしかして……)
「あの……アミリアさん、魔力の回復って……もしかして僕の治療が原因、ですか?」
恐る恐る和哉が尋ねると、アミリアは「ん?」と一瞬首を傾げた後、笑って頷いた。
「ええ、そうよ。カズヤへの治癒魔法でちょっと魔力使い過ぎちゃったみたいだから、さっきまで休んでたの」
(うわぁぁぁ! やっぱり!!)
予想的中に和哉は焦った。ギルランスがアミリアの心配をするほどに彼女の魔力を治療で消耗させてしまったようなのだ。
「ご、ごめんなさい! 僕のせいで……」
慌てて布団に突っ伏す勢いで謝る和哉の肩に、アミリアの手がそっと置かれる。
「いいのよ、あなたが気に病む必要はないわ」
優しい声音に和哉が顔を上げると、アミリアは優しく微笑んで続けた。
「私の魔力量はかなり多いほうだし、一日休んだおかげでもうすっかり回復してるわよ! それにちゃんとギルから治療費も貰ってるから、カズヤは気にしないでちょうだいね」
そう言ってアミリアは茶目っ気たっぷりにウィンクして見せた。
「あ、ありがとうございます……!」
改めて礼を言う和哉に彼女は手をひらひらさせ、「いいのよ」と言いながら話を続ける。
「それにしても、あのギルから『助けてくれ』って連絡が来た時はびっくりしたわよ~。それで急いで来てみたら『こいつを頼む』とか言われてね。キレイな男の子が大怪我を負って血まみれで倒れてるんだもの、さらにびっくりよ!」
アミリアは大袈裟なリアクションで驚くような素振りを見せた後、チラリと横目でギルランスを見やると悪戯っぽく笑った。
「この人ね、戦闘能力にステータス全振りしちゃってるから、ヒーリングのほうは全然なのよねぇ~」
その言葉にギクリとしたように体を強張らせたギルランスは、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……うっせ、ほっとけ」
ぶっきらぼうに言ってそのままそっぽを向くギルランスに、アミリアはまた楽しそうにクスクスと笑った。そんな二人のやり取りを見ながら、和哉も思わずクスリと笑いを零す。
(仲いいんだなぁ……)
気の置けない友人同士のような会話に、和哉は二人を微笑ましく思うが、同時になぜかなんとなくモヤモヤした気持ちを抱いている自分に気が付き首を傾げた。
(あれ? なんだろ……この感じ……?)
和哉が自分でも理解できない感情を不思議に感じていると、不意にアミリアが間近に顔を寄せて覗き込み、まじまじと和哉の顔を見つめながら感心したように呟いた。
「それにしても、改めて見ると本当にキレイな顔立ちしてるわね~。女の私でも惚れ惚れしちゃうくらいだわ……ねえ、ギル?」
そう言ってギルランスに同意を求めるようにアミリアが水を向けた途端、彼はビクッと体を震わせた。そして、なぜか焦ったような口調になる。
「えっ!? そ、そうか?べ、べつに普通じゃねぇか?」
(んん?)
突如挙動不審になったギルランスに和哉は首を傾げたが、すぐにハッと我に返り慌てて取り繕うように言った。
「 あ! いやいやっ! そんな、僕なんかぜんぜんですよ!」
こんな、小説の登場人物を地で行く美形二人を前に、そんな誉め言葉を言われてしまったら、和哉としては畏れ多いとしか言いようがない。両手をぶんぶんと振りながら必死に否定する和哉の様子にアミリアは可笑しそうに笑った後、「そうかしら?」と言って再び顔を近づけると、しなやかな白い手を伸ばして和哉の頬に触れる。
「ほらぁ、ほっぺたなんかこんなにモチモチで、羨ましい~」
そう言いながら、ムニムニと両方の頬っぺたを引っ張ったり戻したりし始めた。
(ええぇ、ちょっ……)
アミリアの行動に、驚きと困惑で固まる和哉がされるがままになっていると、「おい!」とギルランスの声が割って入った。そしてアミリアの腕を掴んで和哉の顔から引き剥がす――その顔は不機嫌極まりなく眉間にシワを寄せている。
「いつまで触ってやがる!」
怒りの表情でそう言い放つと、アミリアの手をぺいっ!とばかりに振り払った。そんなギルランスに対してミリアは、両手を前に出して降参したポーズをしながら肩を竦ませる。
「はいはい、分かったわよ、そんなに怒んなくてもいいじゃない」
「ったく……お前は……」
呆れたように呟くギルランスにアミリアは全く悪びれないで笑っている。その様子に和哉はなんだかおかしくなり、今度は本当に声を出して笑ってしまった。
「あはははっ」
和哉の笑い声にギルランスとアミリアが揃って視線を向けた。そして二人共驚いたように目を見開いた後、つられるように笑い出した。
その後、三人で暫く他愛のない話をしていたのだが、何気なく和哉が「ギル」と愛称呼びをした途端、即座にアミリアが反応した。
「えっ!? ええぇぇぇぇぇ!! カズヤ、『ギル』って呼んでんの!? なんで!?」
見開いた目から青い瞳がこぼれ落ちそうなくらいだ。アミリアにすごい剣幕で問い詰められた和哉はたじろぐ。
「えっ、なんでって……そう呼ぶように言われて……え?なに?」
アミリアの勢いに戸惑いながらも和哉が答えると、彼女はさらに目を剥いた後、「へ~」とか「ふぅ~ん」とか言いながらニヤニヤとギルランスを横目で見やった。
「……んだよ?」
アミリアの視線に気付いたギルランスは眉間に皺を寄せながらそう言うと、どこか居心地が悪そうにチッと舌打ちしてそっぽをむいた。そんなギルランスの様子にアミリアのニヤニヤは徐々に嬉しそうな笑みに変わり……そして、和哉に向き直ると満面の笑みを見せ言った。
「カズヤ、あなた相当ギルに気に入られているのね!?」
「――へ? そうなんですか?」
いまいち実感が湧かない和哉は、間の抜けた返事をしてしまう。
「だって、このおっかない男がよ? 他人にそんな風に呼ばせて許してるのなんて、今では私くらいよ? そんな人、レア中のレアよ!」
(え? そうなの!?)
一瞬、アミリアの言った『今では』の言葉に引っ掛かりを感じた和哉だったが、そんなことよりも、あの呼び方がそんなに特別なことだとは思っていなかったので、そちらのほうで驚いてしまった。と同時に、それがとても嬉しくて内心小躍りしながらニヤケそうになるのを必死に我慢していた。
「それは、えっと……嬉しいですね」
(うわ~、なんかすっごい照れる……!)
気恥ずかしくて視線を合わせられずに、俯きがちに言うと、アミリアは微笑みながら和哉の手を取り、ギュッと握りしめた。目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「そっかぁ……よかったぁ……やっとギルにも心を許せる人ができたんだ……嬉しいなぁ……ホントに良かった……」
アミリアはグスッと鼻をすすりながら心底ほっとした様子で言った。和哉は、まるで自分のことのように喜ぶ彼女を見て、なんだか胸がいっぱいに満たされていくのを感じた。
「ありがとう、カズヤ……これからもギルのこと、よろしくね」
そう言うとアミリアはさらに強く和哉の手を握り締めた。その手は温かく、優しい気持ちが伝わってくるようだった。アミリアは本当にギルランスが大切なんだということがありありと伝わってくる。
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
和哉が笑顔で答えると、アミリアも花が咲いたように微笑んだ。そしてギルランスのほうに顔を向けると今度は悪戯っぽい表情で言う。
「ギル、あなたもしっかりしなさいよね?」
言われたギルランスはバツが悪そうに顔をしかめ、小さな声でボソッと「……うるせぇ」と言うと再び顔を背けてしまった。照れてそんな態度を見せているのか、本当のところは和哉には分からなかったが、不貞腐れている様子を見ていると、つい頬が緩んでしまう。アミリアもギルランスの反応をクスクスと笑いながら見ていた。そんな二人の視線に耐えかねたのか、ギルランスは眉間に皺を寄せながら不満気に口を開く。
「――んなことより、こいつの怪我はもう大丈夫なのか? 結構血が出てただろ? 治ってんのかよ?」
話題を変えようとしたのか、そう言うギルランスに対し、アミリアは呆れたようにため息をついた。
「あのね、私が治療したんだし大丈夫よ! 私の力、知ってるでしょ!? そんなに心配なら見てみる?」
そう言ったかと思うと、アミリアは和哉の包帯を躊躇なくほどき始めた。
(うわわわ! ちょ! 待って!)
焦る和哉をよそにあっという間に包帯は全て外されてしまい、傷口があった部分が露わになった。傷自体は塞がっているものの、肩から袈裟懸けに大きくみみず腫れのような跡がまだ痛々しく残っていた。
(こ、これは酷いな……)
和哉は初めて自分の傷の状態を確認して、少し驚いた。こんなにも酷いとは思っていなかったからだ。自分で見ても痛々しい傷跡だった。しかし、アミリアはそれを見ると満足そうにうんうんと頷いた後ニッコリと笑った。
「うん、だいぶよくなってきてるわね。これならもう治りそうよ」
その言葉にギルランスはホッとしたような表情を見せた。
「ただ……」
だが、アミリアは少し困ったような顔をして続けた。
「この傷痕なんだけど、かなり深かったみたいで完全には消えそうにないのよね。今よりは薄くはなるけど、これからずっと残ると思うのよ……」
アミリアの言葉にホッとしていた様子のギルランスの表情は忽ち曇っていった。和哉としたら、あれだけの大怪我から生還できただけでも奇跡のようだと思っていたため、傷痕が残ることなどもはやどうでも良かった。寧ろここまで回復させてくれたことに感謝しかない。自分の命の恩人である二人にそこまで心配させていることを申し訳なく感じた和哉は、できる限りの明るい笑顔を二人に向けた。
「いや、全然大丈夫ですから気にしないでください、むしろ男の勲章?的な感じでカッコいいじゃないですか!!」
二人は一瞬キョトンとした後、顔を見合わせて苦笑した。
「お前ってほんと変わってんな……」
「ふふ、そう言ってくれちゃうところがまたね……」
沈みそうになっていた空気が和やかになったところで、突然アミリアがパンっと手を叩き、何かを思い出したように「あっ!!」と声を上げた。その声に和哉とギルランスはビクッと体を硬直させる。
「ど、どうした?」
「何かあったんですか?」
心配そうな表情を浮かべる二人に、アミリアは少し慌てる様子を見せた。
「いっけない! 私、次の仕事が入ってるんだったわ。そろそろ帰るわね。カズヤ、一応今夜一晩は無理しちゃダメよ、しっかり休んでね。明日には全回復してるはずよ! じゃあ、またね!」
彼女は早口でまくし立てるように言うと、和哉にパチリとウィンクをしてバタバタと慌ただしく出て行ってしまった。
残された二人は、暫くポカンとしたままアミリアの出て行った扉を眺め続けていた。
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