42 / 56
古代都市編
第35話 地に眠る繭
しおりを挟む
メンテナンスルームを出たアルケーはエレベーターに乗ると、下に向かって降りていった。
ルリや他の面々もアルケーについてエレベーターに乗りこんでいる。
70、60、50……と、階数表示版の数字がどんどん下がっていく。0を超えて-10を表示したが、まだ降りて行く。
「どこまで降りるんだ?」
「機密中の機密のあるところまでさ」
「機密?」
「知っているのは僕と数人しかいない。厳重に封印されている」
アルケーの低い声がいやでも緊張感を高める。
やがて、「チン」とベルの音がしてエレベーターの扉が開いた。
扉の先は天井が高く薄暗い通路が続いていた。通路に出ると空気が肌寒く、吐く息が息が白くなった。消毒液の臭いが微かに鼻をくすぐる。
「なんか、大きな病院の地下みたいだな……子供の頃を思い出すからあんまり好きじゃないや」
加藤が寒そうに肩を抱いて辺りをキョロキョロ見回して苦笑した。
「ふん、病院か。当たらずとも遠からずだな」
静かな通路に靴音だけが響く。
アルケーは大きな扉の前で立ち止まった。扉は見るからに厳重なロックがされており、まるで金庫のそれを思わせた。
アルケーが扉横のパネルに手を当てると、中からゴトゴトッと幾つものロックが外れる音がして、扉が滑るように両側に開いていった。
プシューッと空気の抜けるような音がする。
中は体育館ぐらいの広さの格納庫になっていた。格納庫の中央に置いてある物を見てノーマンが絶句した。
「あれは……クレードル!」
部屋の中央には、3機のクレードルが静かに横たわっていた。白い外殻は無機質に光を反射していたが、その沈黙はむしろ「棺」のようにも見える。
「ああ、全てはこれから始まったんだ……」
ノーマンの声は、広い格納庫に吸い込まれるように籠った。カーラは胸元を押さえ、小さく震える声で言った。
「ええ……そうね。でも、私は自分がどうやってクレードルに乗ったのかまでは覚えていないの」
カーラは悲しげな表情で顔を伏せた。
「無数の人の記憶は読めるのだけど、自分の記憶はまだ曖昧のまま。あの事故の後からの記憶がないわ」
「……君がどうやって一万年も眠りについたのか。本当に興味深い。だが、君自身が思い出せないのは惜しいな」
アルケーの言葉にカーラは力無く笑った。
「本当にあなたは、膨大や知識や知恵はあるのに私の心の中だけはわからないのね」
「人の心の中を完全に理解できる人間など居ないよ」
アルケーの言葉にカーラは目を伏せるとそっとため息をついて小さく呟いた。
「せめて理解する努力はして欲しい……」
「あ、あ。えーと。こんな場所に、なんで……? アルケーはこれを見せるために連れてきたのか?」
二人の雰囲気に堪らなくなった加藤がアルケーに聞いた。
「そうだ。ルミノイドの素体は3機作られた。そのうちの一機はカーラで、もう一機はルリにあてがわれた」
「最後の一機は?」
「まだ素体のままだ。ルミノイド化する人物は決定されていない」
「一つ空席があるということか……」
うーん、とノーマンが唸った。
「それで、わたくしが乗り越えなければならない事とは、なんの事ですの?」
「そうだな……説明するより見た方がいいだろう。気をしっかり持ってくれ」
そういうと、アルケーは一番左の機体の表面に触れた。
アルケーが触れたクレードルは「プシュー」という空気のぬける音がして、まるで二枚貝が口を開くようにハッチが開いていった。
クレードルが開くと中は無人だった。一人だけ横たわれるようなシートが設置されており、シートの周りには小型のモニターやスイッチ類が並んでいた。
「まるで戦闘機のコクピットのような……いや、もっと洗練されているか」
ノーマンは物珍しそうに中を見た。アクパーラ号で見た時はクレードルの中までは見ることが出来なかったので、興味深そうにシートやモニターを眺めていた。
「これにもあんまりいい思い出はないんだよな……」
加藤が苦虫を噛んだような顔で言うと、カーラがクスッと笑った。
「あら、あなた。アクパーラ号にいた頃と今では別人のようよ」
「ちぇっ、いうなよ」
加藤は頭を掻いた。
アルケーは次に真ん中のクレードルに触れて、ハッチを開けた。
「うわ! 誰かいる!」
中を覗いたノーマンが驚いて後退りした。
そこに座っていたのは人形のようなルミノイドの素体だった。肌も髪も白一色で、顔には目鼻が薄く刻まれているだけ。額に埋め込まれたオーブだけが、存在を主張するかのようにダイヤモンドのような鋭い光を放っていた。
「これはマインドアップローディングがされる前の、いわばルミノイドの素体だ」
アルケーが淡々と言う。
「俗な言い方をすれば、魂が入っていない状態だな」
加藤が眉をひそめる。
「なんか不気味だな……」
「カーラやルリは、この素体に生体の意識をインストールして生まれたのだ」
「……!」
ルリは思わず口元を押さえた。自分もこの無機質な器に閉じ込められているという事実に、震えを隠せなかった。
「最後の一機は?」
ノーマンが視線を隣のクレードルに向ける。
「そうだ。この一機のためにここに来たんだ」
アルケーは最後の一機の機体に触れた。
プシュッと空気の抜けるような音を立てて、ゆっくりとクレードルのハッチが開いていった。
「これは!?」
中を覗いたノーマンが絶句した。
ルリや他の面々もアルケーについてエレベーターに乗りこんでいる。
70、60、50……と、階数表示版の数字がどんどん下がっていく。0を超えて-10を表示したが、まだ降りて行く。
「どこまで降りるんだ?」
「機密中の機密のあるところまでさ」
「機密?」
「知っているのは僕と数人しかいない。厳重に封印されている」
アルケーの低い声がいやでも緊張感を高める。
やがて、「チン」とベルの音がしてエレベーターの扉が開いた。
扉の先は天井が高く薄暗い通路が続いていた。通路に出ると空気が肌寒く、吐く息が息が白くなった。消毒液の臭いが微かに鼻をくすぐる。
「なんか、大きな病院の地下みたいだな……子供の頃を思い出すからあんまり好きじゃないや」
加藤が寒そうに肩を抱いて辺りをキョロキョロ見回して苦笑した。
「ふん、病院か。当たらずとも遠からずだな」
静かな通路に靴音だけが響く。
アルケーは大きな扉の前で立ち止まった。扉は見るからに厳重なロックがされており、まるで金庫のそれを思わせた。
アルケーが扉横のパネルに手を当てると、中からゴトゴトッと幾つものロックが外れる音がして、扉が滑るように両側に開いていった。
プシューッと空気の抜けるような音がする。
中は体育館ぐらいの広さの格納庫になっていた。格納庫の中央に置いてある物を見てノーマンが絶句した。
「あれは……クレードル!」
部屋の中央には、3機のクレードルが静かに横たわっていた。白い外殻は無機質に光を反射していたが、その沈黙はむしろ「棺」のようにも見える。
「ああ、全てはこれから始まったんだ……」
ノーマンの声は、広い格納庫に吸い込まれるように籠った。カーラは胸元を押さえ、小さく震える声で言った。
「ええ……そうね。でも、私は自分がどうやってクレードルに乗ったのかまでは覚えていないの」
カーラは悲しげな表情で顔を伏せた。
「無数の人の記憶は読めるのだけど、自分の記憶はまだ曖昧のまま。あの事故の後からの記憶がないわ」
「……君がどうやって一万年も眠りについたのか。本当に興味深い。だが、君自身が思い出せないのは惜しいな」
アルケーの言葉にカーラは力無く笑った。
「本当にあなたは、膨大や知識や知恵はあるのに私の心の中だけはわからないのね」
「人の心の中を完全に理解できる人間など居ないよ」
アルケーの言葉にカーラは目を伏せるとそっとため息をついて小さく呟いた。
「せめて理解する努力はして欲しい……」
「あ、あ。えーと。こんな場所に、なんで……? アルケーはこれを見せるために連れてきたのか?」
二人の雰囲気に堪らなくなった加藤がアルケーに聞いた。
「そうだ。ルミノイドの素体は3機作られた。そのうちの一機はカーラで、もう一機はルリにあてがわれた」
「最後の一機は?」
「まだ素体のままだ。ルミノイド化する人物は決定されていない」
「一つ空席があるということか……」
うーん、とノーマンが唸った。
「それで、わたくしが乗り越えなければならない事とは、なんの事ですの?」
「そうだな……説明するより見た方がいいだろう。気をしっかり持ってくれ」
そういうと、アルケーは一番左の機体の表面に触れた。
アルケーが触れたクレードルは「プシュー」という空気のぬける音がして、まるで二枚貝が口を開くようにハッチが開いていった。
クレードルが開くと中は無人だった。一人だけ横たわれるようなシートが設置されており、シートの周りには小型のモニターやスイッチ類が並んでいた。
「まるで戦闘機のコクピットのような……いや、もっと洗練されているか」
ノーマンは物珍しそうに中を見た。アクパーラ号で見た時はクレードルの中までは見ることが出来なかったので、興味深そうにシートやモニターを眺めていた。
「これにもあんまりいい思い出はないんだよな……」
加藤が苦虫を噛んだような顔で言うと、カーラがクスッと笑った。
「あら、あなた。アクパーラ号にいた頃と今では別人のようよ」
「ちぇっ、いうなよ」
加藤は頭を掻いた。
アルケーは次に真ん中のクレードルに触れて、ハッチを開けた。
「うわ! 誰かいる!」
中を覗いたノーマンが驚いて後退りした。
そこに座っていたのは人形のようなルミノイドの素体だった。肌も髪も白一色で、顔には目鼻が薄く刻まれているだけ。額に埋め込まれたオーブだけが、存在を主張するかのようにダイヤモンドのような鋭い光を放っていた。
「これはマインドアップローディングがされる前の、いわばルミノイドの素体だ」
アルケーが淡々と言う。
「俗な言い方をすれば、魂が入っていない状態だな」
加藤が眉をひそめる。
「なんか不気味だな……」
「カーラやルリは、この素体に生体の意識をインストールして生まれたのだ」
「……!」
ルリは思わず口元を押さえた。自分もこの無機質な器に閉じ込められているという事実に、震えを隠せなかった。
「最後の一機は?」
ノーマンが視線を隣のクレードルに向ける。
「そうだ。この一機のためにここに来たんだ」
アルケーは最後の一機の機体に触れた。
プシュッと空気の抜けるような音を立てて、ゆっくりとクレードルのハッチが開いていった。
「これは!?」
中を覗いたノーマンが絶句した。
0
あなたにおすすめの小説
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる