蒼海のシグルーン

田柄満

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古代都市編

第42話 ヤハタインダストリアル

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「私的利用以外にも、貴殿には横領の疑いもある!」

 ダコメ議員は声を張り上げ、ざわつく議場を一喝で沈黙させると、ホログラムパネルをもう一枚増やした。

「これは議会で承認されたルミノイドシステム開発の議案書だ! 3体の製造を前提に予算承認を取っているのはわかるな」

 指を三本出して議場の議員達に大袈裟に手を振って見せた。

「承認されたのは3体だ! だがしかし、現在5体のルミノイドが確認されている! これはどういうことだ」

 ホログラムパネルに3体のルミノイドの画像が浮かぶ。

「まず、暴走して行方不明中の1体。凍結中の1体、そして製作途中のものが1体。ここまでが報告書の記録にあり、議案書とも一致している3体だ。しかし!」

 戦闘中のカーラとルリの画像が表示される。

「記録上、稼働しているルミノイドは暴走中の1体のみのはずだが、目の前には記録にない2体が完全稼働している! これはどういうことか!」
 
「この2体は完全なイレギュラーだからです」

 アルケーがこともなげに言ってのけると、ダコメは手に持っていた書類を机に叩きつけた。

「そんなことがあるか!」

 ダコメの怒号が雷鳴のように響く。スピーカーがハウリングを起こし音が割れた。

「ルミノイド1体の製作にどれだけの予算が必要か貴殿が知らぬわけがあるまい! 2体を作ったその予算はどこから出た? クラウドファンディングとかいう方便ではあるまいな!」

 そのとき、議場の後ろで手を挙げる者がいた。歳の頃は30ぐらいの濃紺のメタリックスーツを着こなした女性だ。切れ長の目がいかにも仕事が出来そうな雰囲気を醸している。
 女性が立ち上がり、マイクを取って話すとハスキーながらも良く通る声がスピーカーから流れた。

「私はヤハタインダストリアルのハズキ・キクヤマと申します。議長、発言してよろしいですか?」

「発言を許可します」

「ありがとうございます。今、ダコメ議員がおっしゃっていたルミノイドの意見について補足をしたくマイクを取らせていただきました」

 議場から議員や記者たちのヒソヒソ声がする。
「ヤハタインダストリアルだと?」
「あの300年前の移民船を作った会社だよ。以来、ラウルスシティの工業を担っている複業企業だ。議会の発言力は大きいぞ」
「ついに出たって感じだな……」
 
 ハズキはアルケーを見ると「安心しろ」と言わんばかりに一瞬だけ微笑んで、マイクを口に近づけた。

「ルミノイドの製造についてですが、アルケー室長がどれだけ天才であろうと、ヤハタインダストリアルの技術協力なしに個人で作ることは到底不可能です。それについては保証します」

「保証しようとしまいと、2体の不明なルミノイドが存在している事実に変わりがあるまい」
 ダコメは意外な横槍に戸惑いながらも、不機嫌さを隠さずに怒鳴った。

「はい、その2体ですが、実は製造記録があるのです」

「なんだと?」

 今度はマスコミがざわついた。
「謎のルミノイドの製造記録があるって」
「ヤハタインダストリアルがあると言う以上、作ったのはヤハタしかないだろ?」
「いや、でもなんのために?」
「まさか、ヤハタとアルケーが共謀したのか?」

 ハズキは議場が静まるのを待つと、ゆっくりと口を開いた。

「コードRMD-01とRMD-02及びRMD-03は議案書にもあるルミノイドです。弊社の協力の下、高次物質科学研究機構で作られました。ここまではお判り頂けると思います」

 カーラとルリが横たわっている画像に重ねてコードなどのスペックがホログラムパネルに表示されて頭上に現れた。
 続けて、戦闘中のカーラとルリの画像が表示される。

「こちらの2体のルミノイドですが、確認した結果、この2体もコードはRMD-01とRMD-02なのです。一致していたのはコードだけではありません。外装部品に刻まれた製造番号、内部信号識別、さらには出力プロファイルに至るまで、完全に同一です」

「つまり、どういう事だ?」

 ダコメ議員の表情には信じ難いものを見るような色が浮かんだが、それでも彼は、議場を圧する政治家の風格を手放さなかった。

「同じ個体が同時に存在しているという事ですよ……」

 アルケーがやれやれといった表情で、話に入ってきた。

「まるでコピーでもしたかのように同じなのです。私も初めて見た時は驚きを隠せませんでした」

 ダコメ議員は顔を真っ赤にすると、アルケーに殴りかかる勢いで怒鳴った。隣の議員が思わず手でダコメを制止しようとするほど激怒していた。

「貴様らそんな戯言で騙せると思っているのか! 2体同時に存在しているだと! コードが同一? そんなもの誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化せるだろう!」

 ダコメの怒声は議場の外にまで轟き、通行人が驚いて議場の体育館を見上げるほどだった。
 アルケーはそれでも全く動じずにマイクを取った。

「そう考えられるのは無理もないと思います。しかし、事実なのですよ。奇妙に思われるかもしれませんが、彼女らは我々の未来、一万年後の世界から戻ってきた存在なのです」

「言うに事欠いて馬鹿な事を言うな!」

「正確に言うと、このラウルスシティで生まれ、一万年の時を経た後に現在の我々の時代に戻って来たのです」

 ダコメの怒りの形相とは逆に、ハズキは身を乗り出して聞いてきた。

「ヤハタインダストリアルの力を持ってしても、3体のルミノイドを作るのが精一杯の状況で、なぜ2体のルミノイドが現れたのか。非常に興味がありますね、是非聞かせて欲しいですわ」

「これはラウルスシティの存続をも左右する、重大かつ禁忌に触れる話だ。それでも聞く覚悟がおありでしょうか?」

 アルケーの瞳はハズキとダコメを射抜くように鋭い光を放った。

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