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プロローグ
しおりを挟む「本当に申し訳ありません。・・・・・・・・・当方としても良い縁談でしたのに。」目の前の貴婦人が優雅な手つきでハンドバックからハンカチを取り出し、うるんだ瞳にハンカチを当てている。
美しい庭園を望む煌びやかな応接室。この屋敷自慢の庭園はたまに王室の人間も気晴らしに訪れるほど良く整えられている。
この貴婦人は先ほどまで私の婚約者の母親だった女性だ。豊かな金髪を惜しげもなくまとめ上げ、薔薇色の頬に宝石を思い起こさせる大きな蒼い瞳。
さぞかし若かりし頃は男性から引くて数多だったろう。飾り気のないドレスを身につけてはいるが、今でも衰えない色気がこの女性から立ち昇ってくるようだ。
しかし女性が目にハンカチを当てているからと言って泣いているとは限らない事は私はよく知っている。
なぜなら私の縁談がこうして先方から断られるのは何も今回が初めてではないからだ。
「・・・・・・・・・お話は以上か?」と目の前の貴婦人に問いかけると大きな目をグッと見開きスッと細めた。
「えぇ、では失礼いたしますわ。貴方様のご武運を心よりお祈りしています。」そう話し優雅に一礼するとそそくさと屋敷を後にした。
貴婦人が帰っていく後ろ姿を見届けると
「おい、セバスチャン。そこにいるな??」と側に控えていた執事を呼び出す。
「もちろんですとも坊っちゃま。」
「・・・・・・うるさい、坊っちゃまと呼ぶな。そしていつまでも子ども扱いするな。あの女が帰ったあとに塩でもまいておけ。全く不愉快極まりない。」
「分かっておりますとも。セバスは幼少の頃からお世話をしておりましたからね。」
そう話すとセバスチャンは台所に塩を取りに行った。
モルガン公爵令息。名前はヨハン=モルガン。
彼はこの国ヤプールの最年少騎士団長である。
セバスチャンは彼が幼少の頃から仕えていて、現在は執事として日夜、彼のために身を粉にして働いている。
顔も身分も申し分ない。その上頭も切れる。
だが彼にはたった一つ残念な事があった。それは身長の低さだった。
『だって、私が夜会でヒールを履いたら私がエスコートしてるみたいじゃない』
婚約破棄されるのは最もこの理由が多い。
女性に慣れていないだけできちんと気遣いもできる。・・・・・・はずだ。セバスチャンはそう育ててきた。なぜだ?ご両親は高身長の方々なのに。塩の入ったポットを手に取り玄関へ向かう。
生まれ持った頭脳と運動神経の良さでここまで一気に上り詰めてきた。セバスチャンの自慢の主人である。
「身長だけが、身長だけが・・・・」と呟きながらセバスチャンは今日も玄関に塩を振るのだった。
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