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9、カルス、モルガン公爵家にお世話になる。

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「おいしっかりしろ!!」

ここはカルスとモルガン騎士団長が流れ着いた川辺である。モルガン騎士団長は川から上がるとすぐに辺りを見渡し危険がない事を確認した。と言うのも一緒に転落したカルスは完全に意識を失っていたからである。


「ずいぶん流されたな。とりあえず引き上げるか。」そう考えた時に「モルガン団長、ご無事ですか!!」と遠くから自分を呼ぶ声がした。

ハウル副団長の指示で臨時で組まれた捜索班だった。地理に詳しい者や救護班の女性もいる。

「あぁ。来てくれて助かった。すっかりずぶ濡れだ。すまないが着替えを頼む。そしてこいつを引き上げてやってくれ。彼は私の命の恩人なんだ」とカルスを部下に頼むと自分は部下が用意した服をさっさと着替えて済ませ馬を借り、今回の事を早急に伝えるべく騎士団本部に帰った。


カルスは他の騎士たちにその場で引き上げられると「・・・・みんなちょっと待って!この人は怪我を見るついでに私が着替えさせるわ」と救護班の隊員が言い出した。名前はハンナといい、長年救護班を務めている30代後半の女性だ。


「みんなちょっと向こうむいてて。酷い怪我だとちょっとね・・・・」と話して一瞬で着替えさせた。初夏の気候で薄着だったのも幸いした。


「この人はモルガン団長の命の恩人って言ってたしモルガン家で面倒見て貰うわ。私が直接モルガン家に連れて行く。」そう話すとハンナは手際よくカルスを毛布にくるむと素早く馬に乗せ、モルガン公爵家に向かった。

(・・・・・・この子女性じゃないの。川べりで見たとき、胸に巻いたサラシが今にも外れそうだった。それにしても美しい子。モルガン家のセバスチャンに預けよう。彼ならきっとうまくやってくれるわ)

毛布に包んだカルスを気遣いながらハンナはモルガン公爵家に向かって更に馬を走らせた。









『ここは、どこだ?俺はもうあの世に行ったのか?それにしては妙にリアルだな・・・・』

カルスはぱっちりと目を開けた。体を起こそうとするがあちこちが痛い。

「く~、痛ったぁ~。」思わず涙ぐんだ。その時、部屋のドアが開き上品な初老の男が入ってきた。見た感じ執事という雰囲気だ。黒縁のメガネの奥の目が優しそうだった。


「大丈夫ですか?貴方は3日間も意識が無かったのですよ。」と近くのテーブルのコップに水をいれ、体を起こしてくれた。

「飲めますか?飲めそうならゆっくり飲んで下さい。しばらく何も口にしていませんのでね。」とコップをカルスの手に持たせた。

水を飲むと少し意識が浮上した気がする。

「すいません、ここはどこです??貴方は誰ですか?」とまずはもっともな疑問をぶつけた。


「まずは自己紹介を。私はこのモルガン公爵家にお仕えしておりますセバスチャンと言う者。ここはヤプール国の首都です。このモルガン公爵家は国の中でも指折りの公爵家です。」そう話すと「すいませんが貴方の名前を教えてもらえませんか?」とカルスに話しかけた。

「俺はカルス。名前はそれだけだ。」と布団をぎゅっと握りしめた。


ーーもうファースト家に迷惑かける訳にはいかない。


「おかしいですね。貴方は女性ですのに。」とセバスチャンがそう話しながらカルスの表情を覗き込んだ。



「ふっ、やはりバレてたか。」と苦笑いするカルス。

「そしてそれだけではありませんね??幻の『アマデウス流』の若き師範代?こう見えても私も剣士の端くれだった時代もあったのですよ。『アマデウス流』は知る人のみ知る流派。私も貴方の剣を見るまではとっくに忘れていたぐらいです。」

「それは光栄だ。世話になったな。俺はそろそろ失礼させてもらう。」そう言ってベッドから立ち上がった時だった。

「まぁ、せっかく助かった命だ。体が完治するまでゆっくりしていくといい。」と言いながらドアを開けて入ってきたのはモルガン公爵令息ことヨハンだった。

「ヨハン様、戻られていたのですか。」

「あぁ、今しがた戻った。セバスチャン、変わりなかったか?」

「見ての通りカルス様が意識を回復されました。」

「あぁ、気分はどうだ?あの時は助けて貰った。礼を言う。」と言ってカルスに軽くお辞儀をした。

「いいって事よ。こちらこそ世話になったな。それより、お前なんて気持ちの悪い物つけてるんだ?」とカルスがヨハンを見ながら話した。ヨハンとセバスチャンの目が大きく見開かれる。



カルスは視線をヨハンから一瞬も離さずに「ヨハンって言ったっけ?お前、呪いを受けてるぞ?心当たり無いのか?」と不思議そうな顔でそう話した。


・・・・あ~腹が減ったなぁ~と言うぐらいのノリで。
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