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28、それぞれの対峙

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・・・・・・ピチャ。・・・・・・ピチャ。


ソフィアは先ほどまでカレンが横たわっていた泉のそばに佇んでいた。周囲は薄暗くほんのりとした照明のみが有るだけだ。


辺りを見渡せば見渡すほど不気味な泉だ。この教会は絶対この泉を中心にして建てたに違いない。


こんな泉が大教会の地下に横たわっているとは。一般の人々は全然気がつかなかっただろう。


ソフィアはアマデウスの剣を取り出してじっと眺めると「・・・ずいぶんたくさんの人の命を食らっていたみたいだな?」と部屋中に響くような声で誰と言う訳でなく話しかけた。


そう話し、しばらく沈黙しているとアマデウスの剣はゴオッと闘気を立ち昇らせ始めた。その様子に何かを感じ取ったソフィアは剣を構え腰を低くかがめ四方に集中した。


『ドクンッ』とわずかに足元が震え泉の中央の女神像が命を持ったように見えた。そう感じたのも束の間・・・・


『ーーーー憎い』

『ーーーー憎い、憎い、憎い!!』

男とも女とも取れるような声がソフィアの頭の中に激しく響く。その声と同時に泉の中央に置かれている女神像が目の前でうねうねと変形して行った。

その姿はすでに女神像の形ではなく、人ざらぬ物。物の怪。鬼。そう言った類のものだ。

女神像の変貌に合わせるかのように、ソフィアが立っている足元の泉はさっきまで透明な水を湛えていたはずなのに、気がつけばドキッとするような真っ赤な血の色に変わっていた。



ソフィアは身体の底から湧き上がる恐怖に負けじと歯を食いしばり剣を構えるとまっすぐ女神像を睨みつけた。


「やれやれ本性を現したわね??」そう呟くと闘気を練りあげ「やあっーーーー!!」と大声をあげながら女神像に向かって剣を振りおろした。もちろん光り輝く波動の剣だ。

しかし一瞬光ったと思うとアマデウスの波動はすぐに弾き返されていた。

「ーーーーふん!全然歯が立たないな。」手応えがあったのに女神像には傷一つ無かった。




『芳しい良い匂いがする。ふふっ久しぶりだ。こんな極上の乙女の血は』女神像だった物からそんな声が響いた。



『お前は憎くないのか??不吉だからと祖国を追われ、世間体の為に性別を偽らされ・・・』

『贅沢で何一つ不自由した事のない生活を終わらされて。本当に気の毒な娘よのう。』

『挙げ句の果てに、自分とほとんど関係ないこのような場所にまで来る事になった。』

『本来ならお前は年相応の貴族の娘としての幸せの真っ只中のはずだ。』




「ーーーーゴタゴタうるさい」




『お前をそんな立場に追いやった者達に復讐したくないか?』

『今まで味わった悲しさや悔しい想いを晴らしたく無いのか?』

『お前が望むなら望んだだけ力を貸してやる。』

『・・・・・・どうだ?悪い話ではないだろう?』



「生憎だな。私は今まで一度もそんな感情を持った事はない。そしてこれからも無い。」


『・・・・・・綺麗事を。人間として生まれたなら一度や二度はあるはずだ。』




「どうして私がそんな感情を持った事がないと言い切るのか分かるか?それはな、私は一度たりとも自分の矜持を曲げた事が無いからだ。自分の道は自分で決めて来たからだ!!いい加減にしろ!!」


「ーーーーアマデウス流奥義!!【精霊の稲妻】」

『なっ、何だこの光は??!!』

「何だって?元々アマデウスはお前らのような邪悪な存在を浄化し無に帰す流派。私が実際に奥義を使うのはこれが初めてだよ。光栄に思って欲しいもんだな。」



ソフィアがそう言い放つと元々白銀のアマデウスの剣が光を放ちつつ真っ赤に変化した。



「私はさっき生き別れの弟と会ったんでね。奴と話したい事がいっぱいあるんだ。悪いけどそろそろやらせて貰う。」

そう話すと同時に全身全霊の力で再び女神像だった物を切り裂いた。

『ーーーーっぎゃあーーーー!!』

真っ二つに避けて砕け散る女神像。そして轟々と不気味な音を立てて無くなっていく泉の水。

「・・・・・・まさかこんな事になってたなんてな。」


ソフィアがそう呟くとシュッ、シュッと剣を振りソフィアは剣をホルダーに納めた。そしてゆっくりとひざまづき手のひらを合わせお祈りを始めた。

泉の水が引いた後には、おびただしい数の白骨死体が出て来たのだ。もうぼろぼろで今にも崩れそうな物からまだ最近の物と思えるような生々しい物もある。

本当ならこの国の住民達にこの現実を伝えて弔ってもらう様にしたいが、既にこの教会にも火の手が回り始めている。きな臭い匂いが充満し始めた。

ソフィアは後ろ髪を引かれる思いでこの場所から抜け出し急いで地上に戻った。








地上ではキーン・バルデスを頭にリーベル騎士団が焼け落ちた王宮を前に、捕縛した国王とアルト王子を眺めていた。

キーン・バルデスは以前の内偵調査の時に王家の抜け道もおおよそ掴んでいたのだ。

抜け道を出て来たところを待ち構え、その場で王とアルト王子に付いていた護衛を皆殺しにしてこの2人だけ生かした。
その時、王が驚きと恐怖のあまり失禁したので王の衣類からは何とも言えない悪臭が漂っている。



バルデスは懐から書状を取り出すと2人に見えるように掲げ、2人に向かって声を張り上げた。


「初めてお目にかかる。私はリーベル騎士団参謀キーン・バルデスと言うものだ。リーベル国王に代わりこちらの国王からの書状を持って今回の侵攻の件を裁く。お前達は我々リーベルだけでなく、ヤプール国にも侵攻していた事は既にヤプール騎士団から報告を受けている。この件については申し開きは出来まい?」




「・・・・・・バッ、バルデス殿、私は罪を認めます。どうか命ばかりはお助け下さい。私はこの息子に騙されていました。」と自分の血を分けた息子を槍玉にあげた。

「ちっ、父上。私だけが悪者ですか!!それは違うでしょう。」


「大教会の話は既に調査済みだ。貴様らの身体はリーベルの牢獄へ一旦収容される。そののちヤプールと合同で裁判の流れとなった。ヤプール騎士団長ヨハン殿、それで宜しいかな?」


バルデスが後方に向かって声を掛けると騎士団の面々の中からヤプール国騎士団長ヨハン・モルガンその人が姿を現した。







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