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父からの遺言
しおりを挟む「そう。。。。でしたか。分かりました。」そう彼に話した。ひと言そう言うと目を伏せた。
薄情かも知れないがそれ以外に話せる事が何も無かったのだ。お母様が亡くなったのち、何の躊躇も無く娘を離宮へ送り込み、一度も顔を見せなかった父親の事などただ一つの思い出もある訳が無い。
そんな父親よりも自分に対して丁寧に心を砕いて下さったランスロット様の方に心を許してしまっている。これはどうしようも無い。
「サラ様のお父上の最後の言葉をお伝えしておきます。」とランスロットは真っ直ぐにサラを見て視線を合わせた。陽の光の浴びて彼の髪が風に靡いてキラキラと輝いていた。
「生き延びよ。とだけおっしゃってました。」そう私に話すと目線をこちらへ向けた。
「ーーーー分かりました。言い難い言葉を伝えて下さりありがとうございました。」と答えた後一礼しサラも彼の美しい瞳を見た。
サラはそう話し終えると軽く会釈をしてランスロットの前から立ち去り古城の中へ入って行った。これ以上さほど美しくも無い自分の姿を彼の前に曝け出す事は耐えられなかったからだ。
サラがここへ来てから1年が過ぎ、この日に20歳になった。シンディさんを始めここに居る皆さんにささやかながらお祝いをして貰った。シンディさんからはシンプルなデザインのワンピースを貰った。
「サラ様お客様ですよ。」と夕方遅くにシンディさんから声が掛かった。亡国の元皇女である私に来客などある訳が無い。訝しみながら玄関に出て行くとそこにはランスロット様が佇んでいた。
今まで見て来た昼間とは違うスラックスとシャツと言ったシンプルな服装だった。それでも彼のスタイルの良さを消してしまう材料にはならなかった。
「お誕生日おめでとうございます。サラ様。」と言いながら私の方へ歩み寄るとポケットから箱を出していた。
彼が箱を開けると薔薇のモチーフのブローチが入っていた。
「お気持ちは大変嬉しいのですがこの様な物を頂いても私には何一つお返しする事が出来ません。」と俯いて手を出さなかった。
そんな私を見ながら彼は箱からブローチを取り出して私に歩み寄り胸元にブローチを付けた。思わず彼の顔を見ると彼は真剣な眼差しで私を見つめていた。
彼の視線を避けて「もし私の父を殺した事の償いのつもりなら結構です。」と話した。
「元々親子としての交流などは無かったのですから。」そう話しながら付けて貰ったブローチを外そうと手をかけた。ただブローチを外す事は叶わなかった。その手を彼に握られてしまったから。
「このブローチは私が貴女に差し上げたくてお待ちした物です。他意はありません。」と彼は押し切った。この時点でサラは開き直った。
「分かりました。では素直にお礼を言わせて下さい。ありがとうございました。大切にしますね。」と微笑んだ。その言葉に満足したのかランスロットはホッとした表情で「では失礼します。」とサラの手を離して去って行った。
サラはランスロットが帰ってからブローチを胸元から外して手に取った。よく見てみると宝石に疎いサラでも分かるほど、珍しい貴石が使われた高価なブローチだった。どうして何の価値も無い私の誕生日にこんな立派なプレゼントを下さるのだろう。
「こんな物を頂いてしまった。今の私では何も返す事など出来ないのにどうしましょう。」と夕陽が差し込む瀟洒な古城の玄関で、ランスロットからプレゼントされたブローチを手にしながらしばらく悩むサラの姿が見られた。
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