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禁断の口づけ

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 ランスロット様はノイマン様が来られた日よりちょうど1週間後にこちらの古城へ来られた。

 いつもの薔薇園ではなく、古城の玄関に佇む姿は自分はその城の主であると口に出して主張せずとも周りの雰囲気がそう醸し出していた。

 シンディさんからランスロットの来訪を告げられて玄関ホールへお迎えに上がった時の私を見る彼を見た時に、今日はいつもと雰囲気が違う。どう違うのかは表現出来ないが何かが違う。と肌で感じた。


「サラ様、先日ノイマンからお聞きになられたと思います。」応接室にお通し開口一番の彼のセリフだった。

「ーーーーはい。お聞きしました。あの。私は一体どうすれば良いのでしょうか?ノイマン様から聞いた日から夜も眠れていません。」

ーーーーこれは正直な気持ちだ。ランスロット様の婚約者として望まれた事が有ったにしろ、この国では私はあくまで敗戦国の皇女。ましてやろくな教育もされず外交も出来ず今日まで生きてきた。

 それにいきなり女王などと言われてもそんな自分を理解してくれる人などいやしないだろう。こんな時は1人はやはり惨めだ。


 思わず下唇を噛んだ。この方の前で悲しい顔を見せたく無いからだ。

「ーーやめて下さい。」その声を聞くと同時にサラの口元にランスロットの手が押さえられた。

「そんな表情をさせる為に私はここに居るのでは無い。」と真っ直ぐにサラの目を覗き込んだ。

 このランスロット様の目は不思議な目だ。海の奥深い深海のひやりとした感情を讃えているのかそれとも真夏の灼熱の太陽の様な熱を込めているのか?

「ここを出ませんか?」とランスロット様が私に問いかけている。ここを?この真綿に包まれた心地よいこの場所を?出る?そう言われたと理解した時に瞬時に出た答えはNOだった。

「ーー無理なんです。ランスロット様。」そう呟くとその悪魔の様な美しい目元から目線を外してソファから立ち上がり窓辺へ向かった。


 この窓辺からは湖がよく見える。天気が良い日は透明度が高いのか小魚が群れているのが見えたり、その四季折々の水鳥達が私の目を楽しませてくれる。

「私はこの今の生活から抜け出せないのです。恐ろしいのです。今まで朝から晩まで薔薇の手入れをして一日中過ごして来たのです。もしご迷惑なら出て行きますがその時は市井に下がります。そしてハリストン国の再興は一切考えておりません。」と湖を見つめながら話した。

 その時に信じられない事が起こった。ランスロット様がソファから立ち上がるとゆっくり歩いて私の側まで来た。その圧倒的な雰囲気に思わず何故か後退ってしまい部屋の隅へと体を移動させてしまった。

「何を、何をなさるのですか?ランスロット様。」壁を背にした私の頭を挟み込む様に無表情で両手を着くと「さぁ、私にも分からないのです。この気持ちが何なのか。私は貴女に何をしたいのか?」と耳元で囁いた。ゾッとするほど悩ましく艶の有る声だった。

 なのに怖い。ランスロット様を美しいと思った事は数知れずあるがこんなに怖いと思ったのは初めてだった。彼の表情を見たいのに怖くて目を合わせられない。


「サラ様、私は初めて貴女にお会いした時からこうしたいと強く思っていました。貴女のその唇はどれほど柔らかく甘いのか。」と話すと素早くかがみ込み口づけられていた。

 逃げようと彼の胸を押してみるが彼のスレンダーな体の何処にそんな力があるのか?全然びくともしなかった。

「ランスロット様やっ、やめて。。。」と言おうとしたがその口が空いた瞬間彼の舌が潜り込んで来たので最後まで話せなかった。

 でも。。。。

 私はそう思いながらも彼の口づけに応えしまっていた。お互いに抱きしめ合いどちらとも体を放そうとせず、時よ止まれとばかりに古城の応接室に長い間、艶めかしい水音が聞こえていた。
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