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クリスタ公爵夫人

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 馬車がマージ公爵家の玄関先に着くと、真っ先にエドワード様が降りて私の手を取り馬車から降ろしてくれた。「ありがとうございますエドワード様。」と感謝を伝え、その足で馬車の前方に向かい御者の方へ同じ様に「お疲れ様でした。」と労を労った。

 そして何人か出迎えて下さった人々の前で「今日からこちらで暮らす事になったサラ様だ。皆んな宜しく頼むよ。」とエドワード様が紹介して下さいました。


 そしてエドワード様はその中でも1人の女性の前へ立ち

「サラ様、紹介致しますね。こちらが長年この屋敷のハウスキーパーを務めておりますベルです。」と歳は50代ぐらいか?目の大きな赤毛の女性を紹介された。

「サラです。暫くお世話になります。宜しくお願いします。またベル様がお気付きになられた事など有りましたら教えて下さると幸いです。」とサラの方から手を出して握手を求めた。

 ベルの方も微笑みながら「サラ様、こちらの方こそ宜しくお願いします。」とサラの手を握りしめた。

「さぁサラ様、先ほどからご主人様と奥様がお待ちです。急ぎましょう。」とエドワード様が先を急ぐ素振りを見せたのでサラも足早でその後を着いて歩いた。

 エドワード様が歩くのに合わせて歩いているのであまりゆっくり周りを見る余裕は無いが、この公爵家が財を成している家だと言うのがよく分かった。

 ピカピカに磨き上げられている真鍮類やシミ一つない壁紙。所々に飾られる美術品や工芸品。

 サラだって離宮とは言え一国の王宮に住んでいた事がある。芸術品を見る目はある程度はある。感覚でこれらの品々が只者では無いと感じた。

 廊下ですらそんな感じなのだからこの先目にする家具やリネン類、カトラリーなどの食器類のクオリティの想像が付く。

「着きましたよ。ここが今日からサラ様が過ごすお部屋になります。」とある部屋の前でエドワード様が足を止めた。ガチャとドアノブを開けると可愛らしい色調で整えられた部屋の様子が見えた。特に丸みを帯びたチェストやドレッサーが可愛らしいデザインだった。

「こちらの室内を整えられたのはクリスタ奥様です。私と歳の変わらない方が来られるのだから。と大変張り切っていらっしゃいました。」とエドワード様がその時の様子を思い出したのか緩く微笑んでいた。

「可愛らしいインテリアのお部屋ですね。心が和みます。ありがとうございます。」とエドワード様にお礼を言うと部屋へ入ってみた。グルリと見渡すと大きすぎず小さすぎず丁度いい。

「さぁ、荷物を置かれたら参りましょう。」と
エドワード様に急かされ再び廊下を歩き出した。

「ここでお待ちください。」とある部屋へ差し掛かると足を止めた。そしてエドワード様がドアをノックすると返事を待たずにドアを開けた。

「ご主人様、奥様お待たせ致しました。サラ様をお連れ致しました。失礼します。」と言うと先に自分が部屋に入りサラも続けて入った。

 部屋の中央には立派な応接セットが置かれソファには公爵家夫妻が腰をかけていた。大きな暖炉、高級感のある美術品の数々。贅を尽くした部屋だ。そして奥様を見ると大きなお腹を抱えてらした。やはりシンディさんに面影が似ており勝手に親近感を抱いてしまった。

 クリスタ様とシンディさんと大きく違う所はシンディさんは浅黒い肌の持ち主だったがクリスタ様の肌色はどちらかと言うと私たちの方に近い。

 ご主人様は椅子から立ち上がると「やぁ、きみがサラか。シンディさんからだいたい話は聞いてるよ。私はギルバート、見ての通り妻は妊娠中だから力になってやって欲しい。宜しく頼むよ。」と握手を求めて来られたので「私は奥様が快適に出産の日を迎えられる様に最大限に力を尽くします。宜しくお願いします。」とその手を握り返した。

 ご主人様は立派な体格の優しそうな男性だ。引き締まった口元には知性を感じる。クリスタ様を見る眼差しに愛情を感じた。


 そして奥様の方へ向かうとその場へひざまづき見上げる形で話しかけた。「奥様どうか姿勢はそのままでお気を楽に。初めまして私はサラと申します。お会い出来て嬉しく思います。これからどうか宜しくお願い致します。」とゆっくり話しながら奥様の目を見てお辞儀し挨拶した。


「サラさん、私はクリスタと言います。お母様から話は聞いております。こちらこそ宜しくお願いします。お母様からの経っての要望で勉強の話を聞いています。早速明日からマナー講師を手配しましたので、サラさん私と一緒に頑張って行きましょうね。」と笑っておっしゃった。

「ありがとうございます、助かります。」とサラもクリスタに笑って答えた。

 そこからはエドワード様との話になり食事は他の方々と一緒に食堂で取る事や、お出かけの際は奥様の隣に並んでも恥ずかしくない装いを求められるからそのつもりで。と言われて公爵家お抱えの針子を呼ばれてドレスの採寸をされた。


 その他の屋敷のルールや1日のスケジュールの事などを教えて貰った。


 話の最後に屋敷内の案内をして頂き図書室がある事を知った。ご主人様の了解の下でなら使用が可能らしくエドワード様に「サラさん、図書室を使われるのでしたら良かったら私から話をご主人様に通しておきますよ。」と言って頂けたのでお願いしておいた。

 正直言ってこれは嬉しかった。古城にも図書室はあったが蔵書数が少なく少し物足りなかったからだ。またここの図書室はどんな本があるのか時間を作って覗いてみよう。

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