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20、故郷ルグラン
しおりを挟むハリーと港に着くとすぐに乗船手続きを行い、間もなく船上の人になった。
辺りの人はまばらで、先ほど小耳に挟んだ他のお客さんの話によると、週末はルグラン行きはごった返しているらしい。今日は平日だけど無理してでも今日にしておいて良かった。と話す人が何名か居た。
舟に乗ってからはハリーは無口だ。
何か考え込んでいるかの様だった。以前のルグランの事でも思い出しているのだろうか?
「ハリー、ルグランは久しぶりだね。」と言いながら船の中の売店で買ったお茶を渡した。
ハリーはお茶を受け取りながら「ああ。この言葉使いを戻さないとね。一応俺は実家に行こうと思ってるんだ。」とお茶を持つ手元を見ながら話している。
「そうなんだ。家族水入らず、やるんだ。」と相槌を打った。
「お前はどうするんだ?良かったらお前の実家まで案内ぐらいはするぞ?一回見てみたいと言ってだろ?お前エメラルドに戻るのか?」とこちらを見ながら伺う様に聞いて来た。
「うん~。悩んでいる。結局は記憶が戻ってないから私の方は街で家族に会っても分からないんだ。ただお父様、お母様はどんな顔だったのか。兄妹っていたのかな?ぐらいは思うよ。」とハリーを見ながら話した。
「エメラルドは確か弟が居たよ。俺たまに遊んだし。」
「そうだったんだ。それすら知らなかったよ。思い出って無い物なんだよね。」としんみり話した。
「まぁ、着いたら一度お前が住んでいた屋敷へは案内してやるよ。辺りの様子を伺ってみると良い。とりあえずルグランの中心部に宿は抑えてあるから食う所と寝る所は心配するな。」
にっ!と笑いながらハリーがこちらを見て話した。釣られてハルも笑った。
「そうそう、お前は笑っていた方が何倍も良い。今のお前が一番自然だよ。」とハルの頭をクシャと撫でてそう言った。
「もう~。せっかくのセットが!!」と怒ると「悪い悪い。」と悪びれもせずに言った。
そんな事を話していたらあと少しで着岸するとアナウンスが入った。久しぶりのルグランだ。エメラルドの記憶がハルに懐かしい。と思わせている。
「おい、降りるぞ。」とハリーが手を差し伸べた。その手を掴みハリーに連れられる様に下船した。ハリーと一緒にかつてここを追われる様に来た事を思い出していた。
「とにかくまずは以前お前が育った屋敷に行ってみよう。俺の方でも実家は久しぶりだからこちらの情報は殆ど皆無だからな。」と呟くようにハルに言った。
港で馬車を手配して貰った。すぐに馬車を捕まえられたので乗車した。
港からどれぐらい乗っていただろう?
ハリーから「そろそろだぞ。」と言われるまで分からなかった。そりゃそうだよね。私がこの世界に来た時は独房だったもの。分かるわけない。
「着いたぞ。」と声をかけられハリーと共にある屋敷の前で降りた。大きなお屋敷だけど何だかちょっと。。。
ハリーがその屋敷を見た途端「えっそんな。。。」と絶句した。
思わず「どうしたの?何か有ったの?」と聞くと「この屋敷、無人だ。一体何があった?ハル、ちょっとここに居てくれ。近所に話を聞いてくる。」と言うと直ぐに近くの民家へ訪ねて行った。
あれこれ30分近くは待っていたと思う。
「ごめんハル。ちょっと場所を移動させよう。あっ、あそこにカフェがある。ちょっと一服しながら話そうか。」と道の向こうのお洒落なカフェを指差した。
2人で道を横断しカフェへ入った。個室があったので、少し混雑していたが無理を言って頼み2人とも個室へ入った。
「とりあえず落ち着いて聞いてくれ。」とひと言話すと店員さんを呼び出し自分とハルのオーダーを伝えた。
店員さんはせっせっとオーダーを伝票に書き「しばらくお待ちくださいね。」と厨房の方へ立ち去った。
「さっき近所で聞いて来た事を単刀直入に言うと、君の実家は爵位を返上されている。」ハリーがそう言った時に店員が注文したものを持ってきた。店員が部屋から出ていくのを確認してから再び話し出した。
「あの時、君が濡れ衣を着せられ国外へ出た後、その処分の一環で爵位を取り上げられたらしい。今とにかく分かっているのは君の弟、名前はキュリオスと言うんだが、母方の親戚に引き取られている。それが何処の親戚かまでは分からなかった。だがこの近くでないのは確かだ。」と話すとお茶をひと口飲んだ。
「それ以外は残念ながら。。。」と表情を曇らせた。
「私に弟が居るんだ。会ってみたかったなぁ。」でも余りに情報が無い。
「ハリーありがとう。弟が生きてるって分かっただけでもありがたいよ。私はこれから王立図書館へ行ってみる。貴族図鑑に何か載ってるかも知れないし。」と席を立った。
「そうしたらこれ持っていけよ。」とハルに今日泊まる予定の宿の住所が書いたパンフレットを渡してくれた。
ハルはその紙を大切にカバンにしまうとカフェを出た。ここからは王立図書館は徒歩10分と言った所だ。カフェを出てテクテクと歩き出した。
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