人生の続きは異世界で

木南 楠

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 新助は依頼人のおばちゃんの元へと向かう。


「お、無事だったみたいだね。」

 
 新助の姿を確認したおばちゃんが声を掛けてくる。


「おかげさまで。」
「何か変異種が出たとかって噂を聞いてさ。あんた大丈夫だったかなって思ってたんだよ。」


 新助は苦笑しながら、「まあ、色々と大変でしたよ。」と答えた。


「でも、黒鎧がいてよかったね。あんたじゃ絶対変異種なんて相手に出来ないもんね。」


 おばちゃんが笑ったので、新助もつられて笑い出す。


「あ、これ、月見草です。」
「確かに。ちょっと予定外の事とかもあったしさ。オマケしておくよ。」


 そういうとおばちゃんは報酬の銀貨5枚に3枚加えて新助に手渡す。


「え。いいんですか?」
「いいよいいよ。もらっときな!」


 おばちゃんから依頼終了の証としてサインを貰う。
 これをギルドに提出すれば依頼が終了だ。


 新助は冒険者ギルドに向かう。


「いらっしゃいませ。」


 冒険者ギルドに着くとシエラが挨拶してくる。


「依頼を完了したんですけど。」
「先日受けた依頼ですね。ご確認させて頂きますね。」


 シエラの前で依頼書を出す。
 シエラは依頼書と受付証を確認する。

 
「では、これにて完了となります。お疲れ様でした。」


 シエラはそう言い、スッと新助に耳打ちする。


「変異種、ご活躍でしたね。」


 ドキっとする新助だが、その様子を見ていたシエラはにこやかにしているだけだ。


「・・・どこまで知ってるんですか?」


 じとっとした目でシエラを見る。


「ご安心してください。ギルドの人間は口が堅いんですよ。」


 口元でしーっと人差し指を立てるシエラ。

 新助は敵に回すと怖そうだな・・・とこっそりと思う。
 まあ、敵に回すだなんてそんなことはないだろうが。


「そういえば、エリスさんは凄いですね。」
「そうなの?」


 新助はエリスの事を全然聞いてなかったなーと思い、シエラと話す。


「はい。次々と依頼を尋常じゃないスピードでこなしていっています。特に討伐系の依頼がすごいですね。」


 シエラは依頼内容などは明かせませんが・・・相当、難関な依頼をこなしてますね。と感心したように言う。
 シエラはまた小声にしながら


「変異種の件のあったときなんか、討伐依頼を3つこなした後であの事件に巻き込まれて・・・って感じだったみたいですよ?」
「あぁ~…」


 新助はあのときのことを思い出した。
 そういえば、コボルドと戦う前からエリスは血まみれだった。

 エリスは加えてコボルドたちの大量の血を浴びていたものだから、門番の兵士たちがエリスが大怪我を負ったもんだと勘違いして、ちょっとした騒ぎになった。


「あれは、勘違いしますよね。」
「兵士たちの問いに、大量に殺したからな、って言って笑ったそうじゃないですか。そのせいで《死神》だって言われてますよ。」


 奇しくもこの世界でも《死神》になったか・・・と新助は思った。


「でも、美人で強いのは最高じゃないかという話も出てて…。コアなファンが増えてきているとか何とか。」


 シエラは、でも、女性に死神とか失礼ですよね?と口にする。


(まあ、周りほど本人は毛ほども気にしていないだろう。だって、元死神だし。)


 シエラとの世間話を終え、何かいい依頼はないかなと見回すが、そこでイルミナとユリスに出会う。

 黒鎧全員で夕食を食べるようで、新助とエリスも誘われる。
 エリスにも相談するよ。と話し、宿に一旦帰ることにする。




「さて。メンバーも集まったことだし始めるか。」


 クルーゼは高々と麦酒の入ったグラスを持ち上げる。


「今回は覚醒した変異種との戦い、ご苦労だった。各々、更なる精進を決意したことだと思う。そして、多大なる助力をしてくれた2人にも感謝する。ささやかではあるが、楽しんでもらいたい。では、乾杯!」


 グラスとグラスの当たる音が響く。

 ここはこの街────ヴィルヌーブの中でも高級地区の中にあるレストランだ。

 官僚などがこのヴィルヌーブに来たときに会議や会談で使うのもこの場所で、食事が素晴らしいのは勿論だが、その秘密保持力にも定評がある。

 店内は全て個室となっているのだが、そこには何重ものセキュリティがかけられている。

 たとえば、《防音》や《識別》の魔法などだ。

 《防音》は《黒鎧》の部屋と同じ力で、部屋から音が漏れることはない。
 《識別》の魔法はその人物が特定の個人であるかを識別する。

 つまり、魔法や変装でその人物に成りすましても、すぐにばれてしまうことになる。

 《防音》は今も存在すし、よく使われる魔法ではあるが、《識別》に関しては古い魔法となるので、それが使える人間は世界的に見ても数が限られる。

 他にも色々と保護するための魔法がかかっており、並大抵の人間ではそのセキュリティを突破することは出来ない。

 そういった意味から王家からの信頼も厚く、はるか昔から重宝されている由緒正しきレストランなのだ。

 そんなことを知らない新助は、ちょっと高そうなところだなあ、と暢気に構えている。

 黒鎧の面々はいつもの黒の鎧は身に着けておらず、全員がラフな格好をしているため、普段とは印象がかなり違った。

 食事はビュッフェ形式だったので、新助は手当たり次第に食べ物を確保しては口に運んでいた。


「味のほうはどうだ?」


 クルーゼが話かけてくる。


「美味しいね!・・・なんかこれ結構高そうだけど。」


 新助の感想を聞いて、クルーゼが笑う。


「まあ、安くはないな。」
「だよね?俺が言うのも変だけど、大丈夫なの?」
「その辺はお偉いさんが何とかしてくれるってさ。」


 クルーゼは笑う。


「シンスケ。自分の魔力がどのくらいかはわかるか?」
「え?限界値なんてわかるの?」


 新助に聞かれてクルーゼは頷く。


「ギルドで測りたいって言えば測らせてくれると思うが…。知っておいたほうがいいと思うぞ?」
「魔力の限界値ってなんか気にしなきゃいけないの?」


 クルーゼは真面目な顔になって答える。


「魔力って言うのは生まれながらにあるものなんだ。でも、人それぞれ限界値は違う。魔力が少ない人間は魔力を大きく使う魔法を使えない。」
「んー、なんかそれはわかる気がする。」
「たとえば、魔力の低い人間が使う灯りの魔法はうっすらとその辺りを灯すだけだが、魔力の多い人間が際限なしに魔力を消費して使えば、同じ魔法でも昼のようにまばゆい光が辺りを光らせる。」


(懐中電灯の光くらいの魔法が、使う人が使えば閃光弾みたいになるってことか。)


 新助は心の中で思った。


「あとは魔力は一定値以上を一気に使ってはいけない。」
「なんで?」
「人は魔力がなくなれば死ぬからだ。」


 新助は衝撃的な言葉を聞き、唖然とする。
 そういうことは早めに言っておいて欲しかった。


「俺、結構危なかった?」
「普通の人間であれば死んでる。」


 クルーゼは言った。
 新助はそう言ったクルーゼの眼が笑っていなかったことを憶えている。


「でもな、大丈夫だったから、笑い事で済む。」


 クルーゼは笑った。
 その笑いに他の感情があったような気がするが、新助はそれを知る由もない。


「まあ、気をつけるよ。それと早いうちに魔力を測ってもらおうと思う。」


 新助は話を終えようとそう言うと、「それがいい。」と言って、クルーゼは持っていた麦酒を一気に流し込んだ。

 そして、少しの間の後、口を開く。


「あのな、新助。こういったことを頼むのもアレなんだが・・・」
「ん?」

「もし、魔力を測ったときに・・・」


 クルーゼが言いかけたとき、場が騒がしくなる。
 騒ぎのあったほうに目を向けてみると、エリスがガウェインを投げ飛ばしていた。


「あー、くそ。やっぱりダメか。」
「大振り過ぎるし、遅い。」


 ガウェインにエリスが手を差し伸べる。


「・・・って言ったって、こっちはかなりコンパクトにすばやく打ってるつもりなんすよ。」
「もっと鍛えるしかないな。」


 エリスにそう言われて、悔しそうな顔をするガウェイン。


「何の騒ぎだ。」


 クルーゼがユリスに声をかける。


「ガウェインがエリスさんの強さを確認したいって。」
「強いの重々承知だろう。」
「わかってるけど、一度、手合わせしてみたかったみたい。」


 ユリスはクルーゼにはそう言ったが、実は自分も手合わせしてみたかった。

 黒鎧というエリート集団に入ることが出来て、それなりに依頼や使命をこなしてきたつもりだ。

 自分では強くなったつもりでいた。
 いや、確かに強くはなっていた。

 しかし、その一方で天狗になっていた部分もあるのかもしれない。

 エリスの存在がユリスの心に静かに火をつけていた。


「とはいっても、わざわざ今やることはないだろう。」
「すみませんね。すぐにでも挑戦してみたかったもので。」


 ガウェインがにかっと笑う。


「エリスさん、今度黒鎧の面々ときちんと手合わせをしてもらえないだろうか?」


 ナッシュがエリスに言う。


「暇なときならね。」


 エリスはグラスのワインを一気に飲む。


「シンスケさん。」


 新助を呼んだのはイルミナだ。


「改めて、助けて頂き有難うございました。」


 イルミナは新助にお辞儀をした。


「もういいですよ。」


 新助は顔を上げてくださいと言う。


「体調とかは変わりはないですか?」
「うーん…特に変わりはないかと思うんですけど。」


 新助は腕を回してみたりするが、異常は見当たらない。


「ちょっと失礼しますね?」


 イルミナは新助の前に立ち、《診断》と言った。


「特に異常は見当たりませんね。」
「へえ…そういったことも出来るんだ。」
「ええ。でも、レベルが足らないとわからないこともあるんですけど…。」


 イルミナは新助にそう言った。


「なるほどなー。」
「人に黙って《診断》をかけてしまうと失礼に当たりますので注意してくださいね?それと人によっては非公開にしていることもあります。」
「じゃあ、わからないんだ?」
「その場合は冒険者レベルや《診断》のレベルやによって変わってきます。その差が大きければ大きいほど、情報を見られてしまうので、情報を隠したいのであれば《診断》の熟練度が必要になってきます。」 

(てことは、《診断》のレベルが高くないと異世界から来たっていうのがバレちゃうのか。)


 新助がそんなことを考えている間に、別のテーブルでは今度は腕相撲なんかが始まっていて、終始賑やかな雰囲気で会は幕を閉じた。

《踊る仔兎亭》の自分の部屋に帰った新助はベッドに倒れこみ、夢の世界に誘われながら、あのときクルーゼが言いかけたことってなんだったんだろう・・・と思いながら、眠りに落ちた。




 翌朝、新助は冒険者ギルドへ向かう。
 昨夜、クルーゼに言われたとおり魔力の測定をしてもらうためだ。

 ギルドのドアを開けると、もはや顔なじみになったシエラが出迎えてくれる。

 事情を説明すると、15センチほどの大きさの鉄板が目の前に差し出される。


「何これ?」
「これが魔力を測るものです。水晶のときと同じですけど、手を添えてもらえれば、魔力値応じて色が変わりますよ。」


 シエラの説明ではこうだ。

 黒の鉄板は魔力が高ければ高いほど、黒、茶、緑、青、赤、黄、白と変化していく。
 濃い黒に近ければ近いほど魔力が低く、白に近付けば近いほど魔力が高い。

 参考までに黒のままなら魔力はほぼない。

 一般的な人間は茶色くらいで、普段使いの灯りの魔法や掃除の魔法くらいなら扱えるが、攻撃魔法や支援魔法などは扱うことが出来ない。
 一方、魔力が高いと言われている人間でも青~緑くらいで、大賢者と呼ばれている伝説の偉人でも赤くらいだったのではないかと言われている。


「へえー、じゃあ、やってみようかな。」
「では、手を置いてください。」


 新助はそっと鉄板に手を触れる。

 少しすると一瞬に黒から茶へと変化した。
 その後も鉄板は変化し続ける。

 シエラはギルドにとって有能な人材だ。
 何かあったときでも、冷静に対応できるのだ。

 シエラはぱっと確認すると、鉄板を誰にも見付からないようにすぐにしまった。


「…」
「…」


 気まずい沈黙が流れる。


「…なんかすみません。」


 新助はシエラに謝罪した。


「…もう一体どうなってるんですか。」


 シエラは深い深い溜息をつく。


「一応、これはマスターに報告しておきますからね。」
「あ、はい。」
「私は本来こういうことは言いませんが…訳わからないですよ、本当。」


 シエラは呆れた顔で新助を見た。

 新助が触った後、鉄板はすごい勢いで色が変わり、赤を通り過ぎて白になった。
 シエラが知る限り、白の魔力を持つ人間は存在しない。

 伝説級以上の魔力だ。

 新助は、心の中で口外しないほうがいいだろうと察した。


「お手数とらせてすみませんでした。」
「いいえ。ある意味、お2人が規格外なのがよくわかりました。」


 満面の笑みを浮かべるシエラ。

 新助は気まずそうに笑みを浮かべる。


「わかってるとは思いますが、口外はしないようにしたほうが良いです。面倒事に巻き込まれるかもしれませんし、命にも関わるかもしれませんよ?。」
「肝に銘じます。」


 そう言ってシエラと別れた新助はふと、ショートソードを買いに行ってない事に気が付き、武器屋へと向かう。


「お。いらっしゃい。今日はどうした?」


 武器屋の店主が挨拶をしてくる。


「すんません。武器壊れちゃったんで、他のもの、見繕ってもらっていいすか?」
「え?もう壊れたのか?数日しか立ってねえぞ?」
「…ん、まあ、色々とあったんです。」


 仕方ねえな・・・と言いながら、店主は同じようなショートソードを持ってきた。
 新助はすぐにそれを購入し、前回同様、調整してもらう。


「一体、どういう使い方をしたらこんなんになるんだよ。」
「本当、いろいろあったんですよ。」


 ったく、と言って、店主はショートソードをいじる。


「あんたに魔力がたくさんあればな。魔剣でも手に入れれば壊れることなんかほとんどないけどな。」
「魔剣?」
「過去の遺産だよ。伝説級とか希少級とかそういったレベルのものだから、そう簡単には手に入らないぜ?」


 まあ、あんたじゃ使えないか。と店主は笑いながら、新助の肩をバンバン叩いた。


「安心しな!それに手に入れたところで、魔力吸われて終わり。それか、もし魔力が残ってたとしても、兄ちゃんの腕じゃ魔剣が泣くね。」


 そう言われて、新助は魔剣のことを考えてみる。

 少し惹かれる気もするが、そもそも今のままじゃ扱いきれないなと思い、新助はショートソードを腰に身につけ、店を出た。

 新助はショートソードを手に入れたので、街をふらついてみることにした。

 ここに来てから数日経つが、行くところは決まっていて、ゆっくりと見て回ってはいなかったので、今日は観光がてら散策しようと思ったのだ。

 大通りには色々な店が出ていて、地球では見たことのないものが並んでいた。
 興味深く色々なお店を見て回り、小腹が減ったので、近くの屋台で串焼きを買って食べる。

 話によると魔物の肉らしいが、食感や味わいは牛肉に近く、非常に噛み応えがあって、新助にとっては満足の一品だった。

 串焼きを食べて、歩き出す新助だったが、路地裏に続く小道で気になるものを発見し、ふと足が止まる。


「ん…?」


 一人の中年男性が路地裏に消えていくのを見た。
 なんとなくその男性の顔が強張っていたような気がして、気になって後を追う。

 男は裏通りにある一軒の館の前で立ち止まる。

 新助はこっそりと影から様子を見ることにした。
 どうしようかとしばらく迷っていたようだが、意を決して男はドアをノックした。


「…あん?」


 館の中から現れたのは明らかに性質の悪い男だ。


「頼む!娘を返してくれ!」

「ホークさん、人聞きの悪いこと言わないでくれよ。あんたの娘は自分の意志でここにいるんだ。それを返してくれだなんて、俺があの子をさらったみたいじゃないか。」
「実際、さらったようなもんじゃないか!私たちは今まで幸せに暮らしていたのに!」
「あんた、バカだな。幸せだと思っていたのはあんただけだ。娘はそうじゃなかったってよ。」
「そんなはずはない!娘はお前に…」
「うるせえジジイだな!いい加減黙れっ!」


 そういうとホークと呼ばれた男性は男に思い切り殴られる。


「…うっ!」


 殴られて倒れこんだところに、男が腹に蹴りを入れる。


「あ、兵士さん、こっちですよー!暴行事件、暴行事件!」


 さすがに見ていられなくなった新助は大声で叫んだ。

 それを聞いた男はホークに唾を吐きかけ、館の中へと戻っていく。
 新助はホークの近くに寄ると、ホークを起こしてあげた。


「大丈夫ですか?」
「あ、有難う。」
「事情はよくわかりませんが、兵士たちにでも相談してみたらいかがです?」
「そんなことをしたら、娘は殺されてしまう!」


 そういうとホークは泣き出してしまった。
 新助は場所を変えましょう、と言ってホークを抱えて、その場を後にした。

 ホークに肩を貸して歩きながら、新助は思う。

 これ…絶対に面倒事に巻き込まれたよね…
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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.14 花雨

作品登録しときますね♪ゆっくり読ませてもらいます(^^)

木南 楠
2021.08.14 木南 楠

有難うございます(*´ω`*)

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