取引先のエリート社員は憧れの小説家だった

七転び八起き

文字の大きさ
22 / 33

第22話 知りたい

しおりを挟む
 夢を見ていた。

 私がまだ高校生くらいの時だ。
 私はバスケ部のマネージャーをやっていた。
 その時、男子バスケ部の先輩に恋をしていた。

 でも、思いを伝える勇気なんてなくて、部活の時に必要最低限の会話をしただけだった。
 その先輩が卒業する時、私に制服のボタンを くれた。
 それが何を意味しているのか私にはわかった。
 あの時、勇気を出して言葉にしていたら何か変わったかもしれない。

 その先輩がいなくなった寂しさを埋めるように、小説を読んでいた。
 特に、翠川雅人という小説家のストーリーは心に響いた。

 翠川雅人の新刊を本屋に行った日の事だった。
 本を手に取って、レジにすぐに行こうとした時、年上の男性に声をかけられた。

「その作家の本どう思う……?」

 いきなり話しかけられてびっくりした。

 なぜそんな事を知らない人に突然聞かれるかわからなかったけど、

「私の一推しの作家さんです」

 って言ったら、その人は少し笑顔になって

「ありがとう」

 と言って去って行った。

 その人の顔はぼんやりしか覚えてなかったけど、今ならわかる。

 ──私は目を覚ました。

 朝の光が窓から降り注ぐ。

 ベッドの隣では橘さんがスヤスヤ寝ている。

 無防備な寝顔だ。

 起き上がってコーヒーを飲んだ。

 好きな人と同じ朝を迎える幸せに浸っていた。

 スマホで色々ニュースを見ていると

「おはよ」

 橘さんがいつの間にか背後にいて抱きしめられた。

「おはようございます」

 何故か照れてしまう。

 橘さんにもコーヒーを淹れて渡した。

 寝癖がついたまま寝ぼけ眼の橘さん。

「あ、あの、私思い出しました」

「何を?」

「橘さんが昔本屋で会った女の子の話で、橘さんはその子を私だって言ってたけどハッキリ覚えてなかったんです。でも今日夢でその日の事を思い出しました」

「うん、よかった。覚えてて」

「突然大人の男の人に話しかけられてびっくりしましたけどね」

「イケメンだからいいだろ」

「自分でイケメンって言うんですね……」

 翠川雅人が、まさかあの男の人で、夜にバーで再会して、取引先の人で、こういう風な関係になるなんて、思ってもいなかった。

 橘さんに膝枕をしながら、色々コンテストの事を調べていた。

「美鈴、サークルまだ続けるの?」

「はい、そうしたいです」

「三浦と仲良くしたいんだな」

「違います!!」

 昨日ちゃんと気持ちを言ったのに…!

「相手は高校生ですし」

「年齢なんて関係ない」

 大人気なく嫉妬している橘さんは可愛いけど、私はもっと色んな人と関わって、色んな世界を知りたい。

「それより、どんなコンテストに応募すればいいでしょう……」

「……よく考えたけど、出版社主催のものはハードルが高いから、ネットとかで手軽に参加できるものからやってみろ」

 確かに、投稿サイトのコンテストの方が、応募しやすい。

 受賞できるかは別だけど……。

「はい、とりあえず、できそうなやつからやってみます!」

 目標ができて気合が入った。

 その後、橘さんは書斎に行って執筆作業をしていた。

 そっとまたゆっくり近づいて、何を書いてるか見ようとしたけど、

「見るな!!」

 って追い出されてしまった。

 実は今日はサークルの日だった。

 また黙って行くとトラブルになると思ったから一応伝える事にした。

「翠川雅人先生、私今日サークルの日なので行ってきます!」

 ドア越しに言った。

「……また三浦と会うのか」

「三浦さんだけじゃないですよ」

 ドアが開いた。

「余計にまた不安になってきた」

 深く深くキスをされて、座り込んだ私をそのままにしてまた部屋に戻ってしまった。

 気持ちを言ったらもう書けなくなるんじゃないかって不安になってたけど……逆にちゃんと言葉にできてスッキリした。

 橘さんに後ろ髪を引かれるように、サークルに行った。

 ◇ ◇ ◇

 会場の前に、また前と同じメンバーが集まっていた。

「こんにちは~」

 中に入ると、三浦さんもいた。

「あ!神谷さん!また持ってきてくれた??」

「え、何をですか?」

「作品に決まってるでしょ」

「えっと……ちゃんとしたストーリーのはまだなくて」

「あれはちゃんとしてたよ?」

 私達が色々話してると、他の人達も聴きにきてしまい……。

「神谷さんどんなの書くの?」

 ……言えない

「神谷さんの作品は、複雑な心理描写の中に…」

「三浦さんそこまでにしてください!」

 気をつけないと言ってしまうこの人!

 その後は、テーマを決めて皆でストーリーを作る話になった。

「今回のテーマは『思い出』にしようか」

 リーダーの人が言った。

 思い出……。

 うーんと悩んでノートに書いていると、三浦さんが覗き込んできた。

「なんか浮かんできた?」

「いえ……まだ全然。三浦さんは?」

「俺はね、少し思いついた」

「気になります!」

「次までに書くから、それまで待ってて」

 書く前からネタバレするわけないか。

 私も考えよう。

 その後サークル活動が終わって、片付けを手伝ってた時、うっかり指を切ってしまった。

「神谷さん大丈夫??」

「ちょっと切っただけなので大丈夫ですよ」

 割と深かったのか血が出てきてしまった。

 三浦さんが絆創膏を持ってきて指に巻いてくれていた。

 その時、他の人達は帰ってしまって、二人きりになってしまった。

「三浦さんありがとうございます。そろそろ帰りましょうか」

「……ねえ、翠川先生が神谷さんとの事を『大人の関係』って昨日言ってたけど……恋人って事?」

 まさかそこを聞かれるとは思わなかった。

「いや……冗談で言ってるだけですよ!よくそうやって揶揄われるんで」

 とりあえずこれで乗り切ろう。

「ずっと気になってたけど……襟から何か、痕が見えるんだけど」

 最悪だ……。

「これは……あまり気にしないでください……不快だったらすみません」

「あの小説さ、翠川先生が関係したりする?」

 橘さんが余計な事言ったから、三浦さんにバレてしまう……。

 どうしよう!

「翠川先生はあんな作品書くタイプじゃないですし、関係ないですよ」

 三浦さんに暴かれていくのが怖くて部屋を出ようとしたら、手を掴まれた。

「あの小説に書いたようにされるのが、神谷さん好きなの?」

 何言ってるのこの人……。

「あれは私の単なる妄想です……」

 その時、三浦さんが手を伸ばしてきて、私の耳に触れた。

 かっと体が熱くなってしまった。

「……本当なんだね」

 恥ずかしくて顔を見られなかった。

 こんな年下の男の子がこんな事してくるとは思わなかった。

「揶揄わないでください!」

 手を振り払った。

「揶揄ってないよ。知りたいんだよ」

 三浦さんの瞳は真剣だった。

「もっともっと知りたい。神谷さんのこと」

 三浦さんの瞳は興味なのかわからないけど、いつもと違う雰囲気だった。

 私は思わず部屋を飛び出した。

 心臓がドキドキしていた。

 怖いのかわからないけど……

 あの人は小説だけじゃなく、私自身の事を知りたいのだと、感じた。

 次会う時、何を言われるのか不安になった。

 あの熱い不思議な眼差しで──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。

久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

親愛なる後輩くん

さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」 雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。 同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。 さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

処理中です...