夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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二人の放課後

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 高校二年生
 秋も深まって、それぞれが各々の進路を決める時期。

 俺は相変わらず週に一回唯川にピアノを習い、週に三日バイトをして、時間があれば祖母の家でピアノを弾く生活をしていた。

 唯川自身がピアノを習うようになって、会える日が激減した。
 唯川が前を向いて進めるようになったことはとても嬉しい。
 ただ、寂しさを感じていた。

 音楽室でピアノを鳴らす。
 今日は楽器屋で買った、ゲームのサントラの曲だった。

 弾いていると、前田と長嶋が覗きに来た。

「あれ?唯川は?」
「今日は来ないよ」
「そうかー寂しいな。いぶき」
「うん」
「否定しないんだな」
「あ……」

 弾くのに集中していて、ついそのまま答えてしまった。

 前田が近寄ってくる。

「いぶきと唯川って、不思議な組み合わせだよな」
「そう?」
「放課後以外話してるところほとんど見ない」
「うーん」

 言われてみればそうだ。
 ただ、話したいことはスマホで言えば済む、週に一回練習で会える。
 だから日中話すことはない。

「てか最近、学校終わったら唯川迎えにくる女いるよな」
「高そうな車乗ってセレブみたいな奴な」

 前田と長嶋が興味津々に話している。

 それは唯川が最近ピアノを習っている、元ピアニストだ。
 コンクールで何度も入賞している有名な人らしい。
 唯川はその人に出会って見初められて、その人の家でほぼ毎日レッスンをしている。
 送迎付きだ。

「美人で年上の女とピアノのレッスンとか羨ましい」

 長嶋が呑気に言っている。

 深いため息をついてしまった。

「いぶき嫉妬した?」
 前田が俺を揶揄う。

「別に」
 前の唯川みたいな態度。

「俺たちが唯川の代わりに一緒にいてやるよ」
「お前らがいるとピアノに集中できない」

 暫くして二人は帰った。
 静寂に包まれて、俺は天井を見上げた。

 唯川は将来、ピアノの道を進むだろう。
 俺は何も考えてない。
 ピアノは好きだけど、ピアニストになりたいとか、そういう訳じゃない。

 将来に向かって歩き出す唯川。
 ただそれを見ている俺。
 それがとてももどかしかった。

 ──その時、音楽室のドアが開いた。

 唯川だった。

 すらっと背が高くて、サラッとした黒い髪。
 長いまつ毛、整った顔立ち。
 女子たちの人気の的だ。

「え?今日は唯川レッスンの日じゃ……」
「先生が用事で今日はなくなった」

 ほっとしたのと同時に、唯川と会えた喜びが湧いてくる。

「何弾いてるの?」
「ゲーム音楽」
「俺ゲームやってなかったから、聞いてみたい」

 俺は唯川にゲームの世界を披露した。

「よくない?」
「結構いいね」

 唯川が微笑む。

 その時、唯川がゆっくり近づいてきた。
 そして隣に座ってきた。
 その距離の近さに戸惑う。

「もっと聞かせて」
「うん」

 俺はまた別のを弾く。

「いぶきって呼んでいい?」
「え」
「なに?」
「いや、いいよ」
「二人でいるときだけにする」

 俺は、唯川を下の名前で呼ぶ勇気はない。
 何故だろう。

「いぶき、こっち向いて」

 恐る恐る、唯川を見る。
 唯川は俺をまっすぐに見る。

 そして、ゆっくりと唇が重なった。
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