27 / 48
第27話 守りたい
しおりを挟む
社長室に呼ばれたのは、北海道出張の数日前だった。
重い扉を開けると、父はデスクの上の“何か”を眺めている。
机の上に一枚の写真が置かれている。
ラウンジで優美と向かい合って座る俺の姿。
この写真を撮ったのは……撮らせたのはこの人だ。
確信した。
「これはどういうことだ」
父の低い声に、俺は迷わず答えた。
「……真剣に付き合っています」
「真剣に、だと?」
父の眉がピクリと動く。
「借金を抱え、夜の店で働く女だぞ。お前はそれを承知で付き合っているのか」
「承知しています」
父の表情がさらに険しくなった。
「お前は副社長だ。そして将来この会社を背負う立場にある。そんな女と結婚などとなれば、株主や取引先にどう思われるか分からないのか」
結婚……。
その言葉に胸がざわついた。
まだ優美とそこまで話していない。
まだ俺たちはやっと恋人として歩み始めたばかりのようなものだ。
「よく考えろ。会社のことを第一に考えるのがお前の立場だ」
それ以上何も言えなかった。
父の前では、いつも子供の頃に戻ってしまう。
悔しさだけが胸に残った。
* * *
北海道出張。
予想外の大雪で、古い温泉旅館に泊まることになった。
優美と二人きりの部屋。
普通なら嬉しいはずなのに、父の言葉が頭から離れない。
『よく考えろ』
考えている。
ずっと考えている。
でも答えは変わらない。
俺にとって一番大切なのは優美だ。
会社も、跡継ぎという立場も、優美の前では色褪せて見える。
いっそ全部捨てて、優美と二人でどこか遠くに……。
気づけば口に出していた。
「優美、二人でどこかで暮らさないか」
優美の驚いた顔を見て、我に返る。
こんなことを言ってしまうとは。
「……冗談だ」
慌ててごまかした。
冗談、じゃない。
でも今の俺には、それが精一杯だった。
* * *
出張から戻った数日後。
俺が会議で外出している間に、優美が父に呼ばれたと父の秘書から聞いた。
血の気が引いた。
あの人と一人で戦わせてしまった。
俺は何をやっているんだ。
守ると言ったのに。
その日の夕方、社長室を訪れた。
「父さん、優美に何を言ったんですか」
「あの女のことか。なかなか面白い女だったな」
面白い?
「彼女はこう言った。『副社長の将来を決めるのは彼自身です。そして私の将来も私が決めます』とな」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
俺が父の前で言えなかった言葉を、優美は迷わず口にした。
一人で父と向き合って。
「強くなったな、優美……」
心の中でつぶやいた。
なら俺も、もう迷わない。
俺は父を見据えて言った。
「父さん、俺は彼女との関係を終わらせるつもりはないです」
「何だと?」
「会社がどうなろうと、俺の気持ちは変わりません」
父の顔が怒りで歪んだ。
もう後戻りはできない。
俺が守ると決めた。
この関係を、誰にも絶対に壊させはしない。
重い扉を開けると、父はデスクの上の“何か”を眺めている。
机の上に一枚の写真が置かれている。
ラウンジで優美と向かい合って座る俺の姿。
この写真を撮ったのは……撮らせたのはこの人だ。
確信した。
「これはどういうことだ」
父の低い声に、俺は迷わず答えた。
「……真剣に付き合っています」
「真剣に、だと?」
父の眉がピクリと動く。
「借金を抱え、夜の店で働く女だぞ。お前はそれを承知で付き合っているのか」
「承知しています」
父の表情がさらに険しくなった。
「お前は副社長だ。そして将来この会社を背負う立場にある。そんな女と結婚などとなれば、株主や取引先にどう思われるか分からないのか」
結婚……。
その言葉に胸がざわついた。
まだ優美とそこまで話していない。
まだ俺たちはやっと恋人として歩み始めたばかりのようなものだ。
「よく考えろ。会社のことを第一に考えるのがお前の立場だ」
それ以上何も言えなかった。
父の前では、いつも子供の頃に戻ってしまう。
悔しさだけが胸に残った。
* * *
北海道出張。
予想外の大雪で、古い温泉旅館に泊まることになった。
優美と二人きりの部屋。
普通なら嬉しいはずなのに、父の言葉が頭から離れない。
『よく考えろ』
考えている。
ずっと考えている。
でも答えは変わらない。
俺にとって一番大切なのは優美だ。
会社も、跡継ぎという立場も、優美の前では色褪せて見える。
いっそ全部捨てて、優美と二人でどこか遠くに……。
気づけば口に出していた。
「優美、二人でどこかで暮らさないか」
優美の驚いた顔を見て、我に返る。
こんなことを言ってしまうとは。
「……冗談だ」
慌ててごまかした。
冗談、じゃない。
でも今の俺には、それが精一杯だった。
* * *
出張から戻った数日後。
俺が会議で外出している間に、優美が父に呼ばれたと父の秘書から聞いた。
血の気が引いた。
あの人と一人で戦わせてしまった。
俺は何をやっているんだ。
守ると言ったのに。
その日の夕方、社長室を訪れた。
「父さん、優美に何を言ったんですか」
「あの女のことか。なかなか面白い女だったな」
面白い?
「彼女はこう言った。『副社長の将来を決めるのは彼自身です。そして私の将来も私が決めます』とな」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。
俺が父の前で言えなかった言葉を、優美は迷わず口にした。
一人で父と向き合って。
「強くなったな、優美……」
心の中でつぶやいた。
なら俺も、もう迷わない。
俺は父を見据えて言った。
「父さん、俺は彼女との関係を終わらせるつもりはないです」
「何だと?」
「会社がどうなろうと、俺の気持ちは変わりません」
父の顔が怒りで歪んだ。
もう後戻りはできない。
俺が守ると決めた。
この関係を、誰にも絶対に壊させはしない。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
「甘酒って甘くないんだ!」
ピュアで、
「さ、さお…ふしゅうう」
私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。
だけど、
「し、しゅ…ふしゅうう」
それは私も同じで。
不器用な2人による優しい恋愛物語。
果たして私たちは
「さ…ふしゅぅぅ」
下の名前で呼び合えるのでしょうか?
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる