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二章 やっと始まるラウトの旅

22.拠点は欲しいよね

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俺たちは不動産を扱う店までやってきた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


俺たちが入店すると同時に店の人が出迎えてくれた。


「4人で住める物件を探しに来たんですけど、おすすめの家とかありますか?」


俺は4人を代表して答える。
買い物に関しての交渉は任せられている。


「なるほど、皆さん冒険者とお見受けしますが、腕に自信はお有りですか?」


店員は穂花と暎斗を知っているらしく、俺とルルも冒険者だろうと予測してそう尋ねてきた。


「まあ、平均よりはって感じですかね」


俺は3人を振り返りながらそう答える。
その視線の先で「お前は平均よりはって次元じゃないだろ」という言葉が聞こえてきそうな目で3人は俺を見てきた。

それは事実であるが、だからと言ってそれを公言する気はないので、その目線に俺は無視を決め込む。


「それでしたら、おすすめの物件がございます」


俺たちのやり取りに気づかない店員は俺が答えると、棚に置いてあった資料を見せてきた。


「こちらなんですが、この物件はスラムに面していまして、夜になると偶にスラムの住人が屋敷の物を盗もうと屋敷に入り込んでくる事があって、誰も買おうとしないんです。そのため、価格は大変お安くなっております」


なるほど、だから腕に自信があるか聞いてきたのだな、と納得する。


そこで俺は思考を広げる。

スラムと言えば、生活に困っている人々の住んでいる場所というイメージだ。
そんな人たちが襲ってくるとなると安心できないだろう、普通は。

しかし、こちらにはAランク相当の冒険者が3人と、自分で言うのも難だが、最強の冒険者が1人いる。

俺が結界を張れば、襲撃はおろか、侵入すら不可能だ。


それに考え方によっては、チャンスかも知れない。
ある意味では、何もしなくても人が集まってくるという事でもある。
しかも、仕事に困った人たちときた。


(これだけ条件が揃えば、あの計画が進められるな)


俺は頭の中で購入した後の算段をイメージして、買ってもデメリットは俺がメリットに変えられる事を確認した。

あとは、広さや立地の良さが気になるところではある。


「その物件を見ることって出来ますか?」


「はい、可能ですよ」


店員は、にこやかに答えた。


「見て良さそうであれば、買おうと思ってるんだけど、どう思う?」


俺は後ろで成り行きを見つめている3人を振り返って、意見を求める。


「こういう判断は、お前以上に信用できる奴は知らねぇ。お前が大丈夫だって言うなら文句ないぜ」


「暎斗に同じ」


「私も住めれば、どこでも大丈夫です」


全員そこまでこだわりがないのか、反対は出なかった。
なら、自由に決めさせてもらおう。
もちろん3人に不自由な生活はさせない。
それこそ、そこらの貴族よりいい生活を送ってもらうつもりだ。
家具や設備には魔法の応用が効くので、下水道や灯りを整備できるはずだ。

この世界の科学水準は低く、電気器具は発明されていないので、作れても使うわけにはいかない。

世紀の大発見だ、と騒ぎ立てられても困る。

しかし、電気器具を使わなくても魔力と魔法で補える。
よっぽどの贅沢を求めなければ、不自由を感じることはないだろう。


と言うわけで、店を出て物件を下見に行くことになった。


店員の案内の下、街の外壁沿いに歩くこと30分、目的の物件に着いた。
二階建ての割と新しめの外装の邸宅だった。


賑わう大通りからは少し離れていて、周りの建物も、比較的敷地が広く静かな雰囲気だ。


「こちらがその物件となります。自由に入って見ていただいて構いませんよ。きっと気に入ってもらえると思います」


店員は俺たちを家の敷地に招き入れた。


敷地は豪邸と言って差し支えないほどの広さがあり、庭もよく整備されていて、とても綺麗だった。


中にも入れてもらい、見させてもらった。
入ると正面に階段があり、左右には部屋が別れていた。
間取りは一階にリビングと客間、キッチンに浴室があり、二階には部屋が5つあった。
どちらの階にもトイレがあるので、男女を分けて使えるのも結構ありがたい。

内装も外と同様に整っており、非常に整備が行き届いている。


だからこそ、俺は変に思った。

ここにはスラムの住人が物を盗みに来るような場所のはずだ。

俺はもっと荒れているものと考えていた。

これだけ良い物が揃っていれば、盗んでくださいと言っているようなものだ。

だから、これほど良い状態で保たれているのはおかしいのだ。


「どうですか?お気に召しましたか?」


「はい、ここは整備がすごく良く整っていますね。頻繁に管理しているんですか?」


タイミング良く店員が尋ねて来てくれたので、聞いてみた。


「はい、その手の店と契約で、清掃と整備を依頼しております」


店員はニッコリ笑って答えた。

俺は確信する、これは罠であると。
スラムの住人に荒らされると分かっているにも関わらず整備をするとは考えにくい。
そうなると、人が住んでいる時だけスラムの住人は屋敷を襲撃すると言うことだ。

つまり、スラムの住人とこの不動産を扱う店はグルである可能性が高い。

一見、問題なさそうに見せて、屋敷を誰かが購入すると、スラムの住人が屋敷を襲撃し、屋敷を手放さざるを得ない状況を作り出すのだ。

そうすれば、店には不動産が、スラムには屋敷の設備が収入となり、一方的に利益を客から巻き上げる事ができるというわけだ。

なるほど、確かに美味い戦略だ。
最初にスラムの住人が屋敷を襲撃するかも、と警告しているため、文句もつけられない。


俺は隠れた店の意図に気づき、3人にその事を話した。


「これは多分、罠だ。しかし、それを踏まえてなお、俺はこの屋敷を購入しようと思う」


「どうしてですか?」


ルルは不思議そうに聞いて来た。


「まず、この設備は俺たちにとっても魅力的だ。屋敷自体に文句はない。そして唯一の懸念点であるスラムの住人も、俺の結界があれば入ってくる事はできない。だから、購入しても問題ないと思う」


「ラウトがいれば大抵の事はなんとかなりそうだし、俺も購入に賛成だな。確かに、この屋敷は住みやすそうだもんなぁ」


暎斗も同意する。


「私も賛成。冒険者ギルドから近いのも嬉しいよね」


穂花も賛成のようだ。
ちなみに、ギルドはここに来る途中で通っており、だいたい徒歩15分ほどの距離にあった。


「そうですね、私もここに住みたいです!」


ルルも屋敷の設備が気に入っていたらしく、最後に納得してくれた。

話が纏まったので、その旨を店員に伝える。


「見させてもらって、特に問題なさそうなので、購入したいと思うのですが」


「本当ですか!!では契約を行いますので、1度店まで戻りましょう。契約が終わればすぐに使っていただいて構いません。お支払いはいかが致しますか?」


店員は俺の言葉に喜んで応じた。
支払いは俺が立て替えて、後で3人から返してもらう感じにした。
まだ、収入が安定していないルルには、いつでも良いと言ってある。


「俺が払います」


「そうですか。では向かいましょう。お一人だけで結構ですので、他のお三方は屋敷をご自由にお使いください」


「だって、3人とも好きにしてて良いよ」


「了解ー!!」


穂花から返事があった。
しかし、3人は言う前からもう庭で遊んでいた。


(もう、我が家の如く使ってるし・・・)


「仲間がすみません」


俺はその様子を困ったように見て、店員に謝る。


「いえ、喜んでいただけて幸いです。ゆっくりしてくださいな」


店員は笑顔で答える。
言葉の最後に「今だけは」と聞こえて来そうなほど、わざとらしい笑顔だった。


そんなわけで、俺は再び店に向かった。
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