あなたと秘密の吉原で

蝶々

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銀嶺の章

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ピチチチチ
朝日が私をかすめた気がした。いつもと変わらない夜明けの空。心は重く最悪なのに窓から見える夜明けの空はいつだって清々しいくらい綺麗だった。あれ?でも…窓が…ない?障子…あぁ、そうか。ここは
「…吉原なんだ」
暖をとってあるこの部屋はとても暖かく、なんだか落ち着かない。私の『部屋』はいつだって寒く寂しい場所だったから…何処か自分の居場所ではない気がして。そもそもここは『吉原』だから、自分の居場所も何もないけれど。このままだと自分が自分じゃいられなくなりそうで。私は布団から起きると扉に手をかけた。少しは自由が利きそうな体を『いつも通り』動かした

「駄目ですよ」 

突然後ろから降ってきた声に体を止める。聞き覚えのある声だからなのか恐怖は感じないが体はやはり震えた。『部屋の中』で『後ろから』声をかけられるのは苦手なのだ
「そう怯えなくても大丈夫。私はあなたに酷いことは何もしませんよ。今は布団に戻りましょうか。まだ出歩けるほど回復してはいないでしょう?」
やはりその声は聞き覚えのある暖かい声
「柳…様?」
記憶に残るその人は優しく笑う
「はい。覚えていてくれたんですね」
その笑顔に私の震えはすぐに止まりほっとした。けれど『私自身』を殴りたくもなった
柳様…あなたは知っているだろうか。ここに来て記憶は朧気でも確かに優しくされた…してくれたあなたたちに私がどれだけ救われたのか。そして…それなのに…それなのにそんな人たちの声で『怖い』といつも通り反応してしまったこの身体がどれほど憎らしいのか。あなたに『怯えている』と思わせてしまったことが…どれほど悔しくてしょうがないのか
「ごめ…なさい…」
私は柳様に向き合って言葉をこぼした
「…なぜ謝るんですか?」
柳様はただ私に優しく問いかけた。私の行動を言葉を肯定も否定もせず。ただただ見ていた。私の言葉を待っていた
「怖くはありません…あなたに怯えたわけじゃないんです…でも、ごめんなさい。身体が言うことを効かなくて。もう…止まったから」
だから…もうそんな悲しそうな顔しないで下さい…そう言いたかったが言葉が続かない。言いたいこと、伝えたいことは確かにあるのに胸が苦しくつかえて上手く話せない。こんなに人と話したのはいつぶりだろう。こんなに伝えたいと願ったのはいつ以来だろうか
「大丈夫、落ち着いて。あなたが謝ることは何もありません。ゆっくり話して…あなたの思いが言葉になるまでいくらでも待ちます。だから急がなくてもいい。焦らなくてもいい」
その言葉にはきっと…何でも受け止めるという意思があるように思った
「この部屋に閉じ込めたいわけでもありません。私はただ休んでほしいだけ。あなたはまだ外を出歩けるほど回復してはいないんです。私はあなたが大切です。だからもう少しこの場所で体を休めて下さい」
その暖かさに力が抜ける。身内にすらかけてもらえなかった言葉を他人のはずのこの人から聞くことになるなんて。この人もさっきの人たちも変だ。他人の私にどうしてここまでできるのか。
「ありがとう…ございます。いつもなら…このくらい大丈夫なはずなんです。もっと酷くても動けてたのに。おかしいです。今日は全然思うようにいかなくて」
今日はおかしい。この生温かい気持ちも思い通りに動かないこの体も。
「おかしくないですよ。『それで』動けないのはあたりまえです。動ける方が不思議なくらい。あなたは今休まないと行けない…それほどの状態です」

…そっか。『普通』はそうだ。あんなことされて、体は痛くて…こんなに体調悪かったら。普通はそうだよね。今までが普通じゃなかっただけで。
「柳様…私、休んでもいいですか?」
こんなこと聞くなんておかしい。だけど…
「はい。どうぞ」
あなたはそう言ってくれると思ったから

「おやすみなさい」
こんなに安心して眠れる日はいつぶりだろう
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