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17-2 前線の心得

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 床に寝ていた鹿島は床の毛布をたたみ、子供達を起こさないよう静かにドアを閉めて偵察拠点に向かった。

 外に出ると、ビリー陸曹とヤン陸曹にポール陸曹等の話し声に注聴させられた理由は、大声では無いがいつもよりも皆の声が高いので、緊張の抜けたやばい状態だと思ったようである。

 鹿島は、俺が敵なら今攻撃する、と感じていた。

 興奮しているか、落ち込んでいるか、本人たちは気が付かないが、外から見ると気が付く、その状態が彼らから感じられたようである。

 軍人の死亡フラグが立つとよく言われているが、あれは決して迷信事では無い事実だと鹿島は思っている。

 死亡フラグが立つとの話は、自身に嬉しいおめでさが起きる事や、身内の事で朗報や悲報が届いた等の時に発動するのは、死にたくないと思うと、どうしても守りに入るので、防御だけに専念してしまい、攻撃がおろそかになると何時までも敵を倒せない。

 諺に「攻めるが勝ち」と言う、攻撃は最大の防御とも言う。

 冷静さに掛けると、敵の実力が解らないまま、敵の防御力がある所へ、飛び込む事を無防(無謀)とも言う。

 作戦中は常に戦闘状態を維持して敵に備えていなければ成らないから、戦闘以外の浮世を思う余裕がなくなるので、その為か精神に異常をきたす人がいるのは残酷である。

それを防ぐのは、一人での長期のサバイバル訓練で、精神を鍛えなければ成らないが、ほかの方法も有る。

 それは緩和友情と呼ばれ、隊内でのコミュニケーションを欠かさない事で、一心同体の気持ちを持ち合う事が大事だ。

 仲間が倒れると自分も危ない、危険度はいつも仲間次第だが、しかしながら過ぎたるは猶及ばざるが如し、とも言う。

 今、三人は陸戦隊の仲間に合流出来ることに、舞い上がっているようである。

 通信をオープンにした事のデメリットが表れたと、鹿島は三人に感じていた。
この状態は誰かの落ち度ではないが、決して彼ら三人だけの落ち度でもない。

 トーマスもポットから出てきて、軍曹等の異様に気付いたようで、渋い顔を鹿島に向けた。

 鹿島の隊では、作戦中か防護服アーマーを着ている時は、誰も酒を飲まないのは別に決めごとではない、

「俺とトーマス曹長が今迄生きてこられたのは、運だけでは無い。何時でも戦闘状態を忘れないからだ。」
と、鹿島は、鉱山惑星での経験を戒めとしているために、前線においては、常に戦闘状態であると皆に理解させていたからである。

「隊長、彼等には、ガス抜きが必要でしょうか?」
「輸送艦に残った連中も、同じだろう。」

 鹿島はマーガレット総司令官と連絡を取り、陸戦隊司令官から輸送艦に残った陸戦隊全員に、二十四時間の作戦解除を通達して欲しいと要請した。

 その上で提督代理の立場から、輸送品の中にある酒類の保管場所を、全員に教えてくださいとも要請した。

その後に知る事になるが、彼等待機陸戦隊全員は酒には手を付けず、一本ずつ私物として保管していたのである。

シーラー陸士長に至っては、強行偵察隊全員分の六本をも保管していた。

鹿島は軍曹等を集合させて、三人には毒には毒で対応策を考えなければ成らないと思い、本日の予定を通達した後に、今日のパトロールは中止だと伝えた。

彼らには川での洗濯許可を出すと、身体の垢を落とす許可も与えたが、その際には、誰か一人は必ず川原で歩哨を立てる事を強調し義務付けた。

 三人は、自分達の状態に気付いたのか?鹿島に頭を下げて川原へと向かった。

子供達も起きて来ており、三人の後を追い一緒になって川原へ向かった。

 鹿島とトーマスはキャンプ場で歩哨に立って、三人の気持ちが落ち着くのを待つしかなく、今夜の輸送艦着陸に備えて、着陸灯の代わりに焚火で目印設置する事とした。 

 輸送艦の大きさは、全長三百五十メートル、横幅百八十メートル、超大型司令戦艦並みの大きさである。

 河原から艦首までの距離百五十メートル、左舷をポットから三十メートル位の置に設定し、艦首に一ヶ所及び左舷二ヶ所に、艦から二十メートル離れた所へ焚火の準備をした。

 夕方近くになってからは、三人は落ち着いたようで厳々と準備していて、舞い上がった気持は毒で制したようである。

 着陸予定三十分前、月が西の暗闇に沈みかけた頃に、輸送艦であろう少し南寄東側の空の星が、ゆっくりとした動きで、西側に流れているのが見て取れた。

ビリーとヤンは、赤外線機能付の遠視鏡を覗いて、周囲を監視している。

 時々ビリーは遠視鏡を覗いたまま、森沿いの方に数体の熱源確認を報告するが、動物らしきものはすぐに森の中へ帰っていったらしい。

 トーマスとポールは灯火に薪を加えている。

 鹿島は子供の頃から神に祈った事等々無かったが、輸送艦の無事な着陸をガイア様と呼ばれる女神様に、心の中で頼んでいると、赤い微粒子たちは鹿島の周りに集まると身体中に泊り宿った。

 着陸予定十五分前、雲の切れ間の中の星空から、一際大きな星が赤く輝き、西の方へゆっくりと移動しながら、頭上近く辺りで雲の中に消えていった。

 鹿島はトーマスとポールに、残りの全ての薪を灯火に加えるよう指示をした。

 着陸六分前、真っ暗であった頭上の雲が少しずつ白く明るくなりだした。
遂に、明るい雲の中からゆっくりと白い巨体が姿を現して、ゆっくりと無事に着陸した。

しかしながら、巨体は草原の地面では重たすぎて一メートル位沈んでいるようで、舷側から無数の足が伸びて地中深く差し込まれていった。

 艦首近くの入り口が開きスローブが伸びると、総司令官と後ろから待機陸戦隊が降りてきた。

「みごとな着陸、ご苦労様でした。」
「閣下、偵察任務と拠点確保、維持、ご苦労様でした。この後程、艦作戦室へお越し願えませんか?」

 待機陸戦隊は鹿島たちの二人の会話を無視して、トーマス達の所で隊員同士拳を合わせている。

鹿島が陸戦隊の居る所に向かうと、おどけものホルヘ陸士が、
「あ、スーパーヒーローマンの登場だ!」
と言いやがり、ほかの陸士からは、
「空を飛べるか、試しましたか?」
と、言いやがったので、
「川原の石で、遠くの山を平らにした。」
と、鹿島はいってやった。
「それ、ギャグコミックじゃん。」
と皆に、ハモリ言い返された。

 脳筋ムキムキ娘は、足元に落ちている石ころを拾って、
「試しに、月に向かって投げてみます?」
と、再会の喜びを表現するようにおどけていた。

 そんな中、キャンプ場が昼間のように明るいので、アーマートと妹のマクリーが起き多様である。

 二人は鹿島の後ろに回り、
「お兄ちゃん、あれ何?どこから来たの?誰かのお家ですか?それとも魔法のノアの箱舟なの?」
と、いろんなことを聞きたげの様子だが、二人は身を細めるように、鹿島の背中に隠れた。

 鹿島は、「魔法のノアの箱舟。」との言葉が胸に残ったが、
「あれはね、お兄さんたちが、遠い国から乗ってきた船だよ。」
と言うと、マクリーは心配そうに、
「お兄さん、帰るの?」
「帰れないから、船をここに運んで来たのだよ。」
と、説明した。

 そこに総司令官が現れて、たどたどしい子供達の言語で話しかけてきた。
「アーマートと妹のマクリーね?私はあの船の一番偉い人なので、船の中案内しましょうか?」
と、言いながら、マーガレットは子供達に寄ってきた。

 鹿島は子供達に、
「この女の人が、船の中を見たいのなら、船に来ないかと言っているので、一緒に行くかい?」
二人は、顔を見合わせると、マクリー不安な顔を鹿島に向けて、
「この人は、お兄さんのお仲間ですか?」
と言って、鹿島のアーマーを掴んだ。
「行きたい!」
と、アーマートが言ったので、
鹿島はマクリーに、
「やさしい人だから、大丈夫だよ。」
と言って、総司令官に子供達を預けた。

 鹿島は新たに偵察隊となった、隊員に向かい注意点を伝え、特に超火焔弾の使用は、火事を起こさないよう注意した後に、トーマスに、二班に分けた

 鹿島は、グループメンバーの編成と、順次休憩を取るように指示した。
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