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19 魔物現る

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 猫亜人の移住に多忙を極めているマーガレットは、そんな折、魔物と呼ばれている大型爬虫類が石切場に現れたと、監視衛星からの通信が入った。

 鹿島は外壁の外回りを巡回中であったが、マーガレットからの無線が入り、石切場に大型爬虫類が現れたとの知らせに、直ちに大型エアークラフトが用意されて、隊員達五人と共に石切場へと向かった。

 大型爬虫類はティラノサウルス型の体系で、背中に三角の棘が並び、腰から尾にかけては鱗に覆われているうえに、尾の先には長い鋭い刃が三本生え出ている。

 ティラノサウルス型の高さは十三メートルもあり、尾の先には長さ五メートル、幅一メートルの刃を三本生やしていた。
爬虫類は尾の鱗部位を加えると十五メートル尾の怪物である。

 ティラノサウルス型は、近くを動き回る石運搬車両の厚さ十センチの荷台鋼鉄を、腕の爪で一メートル位切り裂くと、荷台鋼鉄ごと握りつぶしてしまった。

 更にティラノサウルス型は、動き回る石を乗せた鉄製の無人運搬車両を、赤く発動した尾刃で一振りして切断すると、更に他の無人運搬車両を腕の一振りで十メートルも飛ばしてしまった。

 鹿島たちは、エアークラフト搭載のレールガンで二十ミリの銃弾を打ち込んで見たが、全ての銃弾は跳ね返されてしまった。
二十センチレザー砲は、体を赤く染めただけで傷付ける事も、苦しがらせる事も無かった。

 鹿島はトカゲモドキと違い、弱点を見つけられないのはやばい強敵だと感じた。
「これが、魔物か?」
誰も勝てないと言われた通りに、防御力は強いと思った。

 魔物はエアークラフトに気づくと、傍に散乱している石を掴み取り、エアークラフトに向かって石を投げてきたが、コントロールは余りいいとは言えなかった。
しかしながら頭は回るようである。

 魔物はエアークラフトを威嚇する様に雄叫びを上げながら、森の中へ入っていった。
その後、二日三日の間隔で石切場近くに現れるようになり、石切作業が出来なくなった。
 
 そんな中で猫亜人の長老たちが現れて、昔話として語りだした。

 遥か昔、魔物を一万の軍勢で谷に追い込み、矢で目を潰す事ができて、谷の上から大石で頭も潰したが、尾刃は何時までも動き続ける為に、近寄る事が出来ずにいたら、しばらくの間に顔も目も復活したとの言い伝えを話した。

 赤い石を取り出さなければ魔物は死なないと言い、魔物を倒す事が出来るのは魔物だけとも言った。

 それが事実なら、いや事実だろう。

 鹿島は、出会う爬虫類どもは、何で復活できるのだと不満を述べながらも、赤い石を取り出すのには、尾を封じなければ勝てないと悟らされた。

 魔物を観察した鹿島は、コーA.Iの協力で衛星画像とエアークラフトから映した魔物の動きを参考に、仮想シミレーションプログラムを作成してもらい、対魔物戦闘訓練を始めた。

 コーA.Iの作製したいろんなシミュレーションで、陸戦隊全員で訓練を始めていたが、訓練後の結論は、陸戦隊だけでは無理であると判断した鹿島は、航宙軍に戦闘に加わるよう要請して総動員戦闘作戦を決めた。

 鹿島は立っている魔物に近寄る事はできないと判断して、転ばす作戦から進める事とした。

先ずは転ばす事、超熱弾丸で所構わず焼き、爆裂砲で頭も腕も足と尾までも千切り飛ばす。

 コーA.Iにこの作戦で可能かどうか、シミレーションするよう伝えたら、表皮の部分は可能であるが、うろこの部分はかなりの強度なので、爆裂砲だけでの攻撃では、尾を千切り飛ばす事は可能性が低いと返答された。

 体全て凍りつかせて、動きを止める必要が有るのだが、液体窒素を搭載できる三台有るポンプ車を稼働しても、巨体の魔物を凍らせるのに時間が掛かる上に、魔石を取り出さなければ、いつ回復するか予想できないので、尾と下半身だけを凍らせる事が時間的にベストだとコーA.Iは答えた。

 赤い石は、心臓の裏側で肋骨に守られているので、尾の動きが止まった時間内に、早く取り出す工夫をしなければいけないだろうから、陸戦隊はそれを重点課題とした。

 ジープ二台に貫通超熱弾丸を撃てるレール砲、貫通爆裂砲積載の二台の装甲車と、航宙隊員に任せた三台の放水車に液体窒素を搭載して、其々運転手と射出者を組ませた。

 エアークラフトは操縦士が二人だけなので、二機それぞれにミサイルを装備し、レール砲に爆裂弾丸と超熱弾丸を搭載して、空から攻撃する事にした。

 マーガレットの担当は、エアークラフトにレール砲を積み、超熱弾丸を魔物へ打ち込み、そして陸戦隊四人を横倒しになった魔物に降下させることが任務となった。

 コーA.Iは、それぞれに攻撃点に標準合わせる事と、攻撃手をサポートする事とした。

 マーガレットの操縦するエアークラフトには、鹿島とトーマスとビリーにヤンが乗り、赤い石を取り出すこととした。

 ビリーはエアークラフトから飛び降り、重力任せに肋骨沿いに肉を切り裂き、鹿島は切断された肉から肋骨を引きはがし易い様に、反対側の肉を削ぎ落とす。

トーマスは、飛び降りる勢いで肋骨を叩き切ると、鹿島が掴んでいる肋骨を外に蹴りだす役割で、ヤンがかぎ爪を使い、心臓裏にある赤い石を取り出す。

陸戦隊はこの間の時間を、少しでも早く終わらせることの訓練に明け暮れた。

 毎日の訓練を続けていた甲斐があって、シミュレーションにおいては、完璧な討伐可能とのお墨付きを貰ったころ、監視衛星から石切場近くの草原に魔物が現れたとの連絡があり、魔物討伐隊は攻撃に向かった。

 魔物討伐隊が石切場に着くと、既に石切場近くの草原に魔物がいた。

 魔物は逃げ惑う三匹のダーホーを尾の先で両断すると、それらを丸飲みしているが、矢張り尾刃の切れ味は鋭いようなので、鹿島は一番危険部位だとの確認を航宙技官らに知らせると、液体窒素を搭載したポンプ車は慎重に攻撃するように伝達した。

 全員が位置に付いたとの連絡で、二発のミサイル発射を合図に一斉に攻撃した。

 射撃の効果を確認する為に全面攻撃を始めたが、然し魔物は無傷なのか仁王立ちのままである。

 怒った魔物は一列前面に整然と並んだ陸戦隊に突進したが、陸戦隊は訓練通り退散しながらも、次の攻撃に備えUターンしている。

 次の狙いは魔物の足元狙いなので、皆は訓練通りの動きで、自分の担当位置に向かっている。

魔物の右足が上がり、踏み込む直前に、
「今!」と、鹿島は叫んだ。

 爆裂弾丸とミサイルが、魔物の足元で炸裂して、五メートル位の穴ができたところへ、魔物は踏み場をえぐられたために、踏み場がないので勢い激しく右側を下にして倒れた。

 マーガレットは魔物が倒れて行くのを確認すると、魔物の胸の位置にクラフトしながら、乗務している陸戦隊に降下準備を伝えた。

 降下準備との合図に、機動車輌に乗っている陸戦隊は、顔への攻撃を始めた。

 顔への超熱弾丸と爆裂弾丸にミサイル等の集中攻撃である。
目と口からは爆裂の炎が噴き出した。

 十分間の攻撃が止んだ時は、首から上の肉は削ぎ出されていて表皮だけが残っていた。

 それでもなお尾刃は激しく周りを払っているので、尾の動きを止めるために、放水車は激しく動く尾刃先が届くギリギリの距離で、尾の根元に液体窒素を掛けているが、尾刃の動きは所かまわずに周りの岩をも切り割っている。

 魔物の左腕が上がり、脇がさらされたのをコーA.Iは見逃さなかった。
「左腕の脇に!爆裂弾丸と、ミサイルの集中攻撃!」
コーA.Iの声が聞こえた。

作戦にない行動命令であるが、しかしながら機動車輌陸戦隊は、脇がさらされたのを確認して素早く行動した。

 岩に絡んだ尾の動きが弱く見えた時だったので、鹿島は丁度ビリーの肩を叩く寸前だったが、コーA.Iの攻撃命令でビリーへの飛び降りる合図を停止した。

 マーガレットは突然にコーA.Iからの、魔物の脇下攻撃命令に伴い、爆風による機体を揺り動かされたが、直ぐに元の位置へ戻った。

 魔物の左腕が吹き飛んだ後に、赤い石を取り出す組の安全援護する為か、車輌組は車輌から飛び出して、魔物の爪を避けるために、右腕の関節を攻撃し始めたが、最初はかなり苦戦していたが、脳筋娘の捨て身の差し込みが致命傷であったのか、右腕の動きが止まり、全員の剣は関節に差し込まれて、魔物の右腕の関節を切り落とした。

 鹿島は放水車の液体窒素が、尾刃の動きを封じた事を確認すると、ビリーの肩を叩いた。

ビリーは頭から垂直降下して飛び出すと、心臓を庇っている肋骨沿いに刃を刺して、頭を下にしたままで落下しながら、ゴツゴツした怪物の出っ張った表皮を蹴る様に、怪物の胸を無理やりに裂いて行った。

 魔物の首から大量の泡が噴き出てくると、泡の中から魔物の頭が復活しだした。

 と、同時に、尾刃は、液体窒素による凍結をたたき割ると、鹿島達の載っているエアークラフトに向かってきた。

「魔物の核が、頭に移動した。眉間に剣を差し込んで、核を破壊せよ!」
と、鹿島の頭の中で誰かが叫んだ。

 鹿島は、頭の中の声に背中を押されて、エアークラフトから落とされた。

 鹿島は、眼前に魔物の顔が迫る中で、チェーンソー剣を抜いて魔物の眉間に深々と差し込むと、蒸気音と共に、得体の知れない悪寒を感じた。

 復活途中の頭と首は泡と共に消滅した。
鹿島は、深々と首の肉に刺したチェーンソー剣にぶら下がっていた体を、チェーンソー剣を抜いた反動で魔物の方に飛び乗ると、魔物の尾刃はエアークラフトを操るマーガレットによって避けられたのか、虚しく空を切ると勢いなく地面に刺さった。

 ビリーの裂いた傷跡から噴き出ていた泡は、真っ赤な鮮血となって噴き出している。

トーマスも肋骨を切断したようで、身体は骨ごと表皮の外へ出た。

 血の雨が降り、鹿島が下を向くとヤンとトーマスが、かぎ爪を握ったまま落ちて行った。

鹿島はガイア様からの授かった驚愕力のおかげで、トーマスによって切断された肋骨に随伴していた肉を引きはがすように外へ広げた。

 鹿島が骨を突き出すように押したためか、トーマスとヤンは地面に叩き付けられることなく、ヤンは骨沿いの肉に刺さり、トーマスは外向きであったので、内臓の内へと落ちた。

 二人とも無事であったが、ただ魔物の心臓を破いた為に血のシャワーを浴びて、アーマーの隙間からしみ込んだ魔物の血により、下着までもが真っ赤であったとの事であった。

 そして、赤い石は内臓深くに落ちていたが無事に取り出された。

「隊長。無茶な飛び出しなどして、おかしくなったのですか!」
と、トーマスは返り血のまま真っ赤な顔で怒鳴った。
「誰かに押された。」
「誰も押していません。が、隊長が落ちたときに、背中に大量の赤い微粒子がたかっていました。」
と、不思議そうにヤンは、既に赤い微粒子が飛散してしまっている鹿島の背中を覗き込んだ。
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