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22国興し

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 正式な耳長種族との本会談が始まり、マーガレットはパトラ等五人に、砦へ来た理由を訊ねた。
「今日はどの様な事で尋ねて来られたのですか?」
魔物の赤い石の話し合いであるのに、マーガレットはとぼけた質問をした。

「魔物の赤い石をお譲り頂きたいのです。」
既にパトラは赤い石への相談と伝えていたのだが、敢えて其はマーガレットに無視されたてしまった様であるので、正式に申し込むことにした。

 パトラはわが身と魔物の魔石の交換は、一族の長としての義務であるとの覚悟をしていたが、
ガイア様に愛された人が居るならば、九つの徳である【仁】、愛情をもって人を常に思いやる心を持っているであろうし、
猫亜人の言葉道理の人種なら人道的な対応を期待して、全てをありのままに話すべきとパトラは思った。

そして、その必要な理由をパトラは延々と語りだした。

 集落の近くに魔物が来て、散々に魔獣や獣を食い散らかして、食い散らかされた骸から病気の気が発生したので、多くの病人が出て困っていると訴えた。

病気を治すには、何千もの魔獣の赤い石を集めなければならず、その為の狩りに出たのであるが、思いの外集まりが悪いので困窮している。

 狩りの移動中に凄い地響きが轟き、何者達かが魔物と戦いしているのに気付いて、魔物が倒されたのではと五人は感じたので、魔物の赤い石の扱いに興味を持ったとの事である。

その時、遠くの丸太壁の上で、猫亜人たちが騒いでいるのを見て取り、魔物が倒されたとの事を聞いて、何千もの魔獣の赤い石を集めるより、魔物の赤い石なら一つで足りるので、何としても魔獣の赤い石を持ち帰りたいとの事である。

「要請は解ました。私たちにも魔物の赤い石は必要ですが、譲りましょう。」
マーガレットは病人の為にとの言葉を、わざと省いた。

 マーガレットの顔は、耳長種族の必要な理由の話を聞いていた間は、心配げな様子で聞いていたのだが、
パトラが赤い石の必要性を話し終わると、赤い石は自分たちにも必要だけど、耳長種族に譲るとの言葉中は、パトラに向ける目と顔は厳しい態度であった。

 パトラはマーガレットの変化の理由を知ろうと、マティーレをちらり見ると、先程までの和やかさはなく、ただ猫娘も厳しくパトラを睨んできた。

 パトラは、マティーレの目を避けるように、遠くのパンパを青々と茂らせている草原と太陽に目を移すと、重圧の苦しみに沈んでいた心に解放の希望の光を感じながら魔石に目を移した。

 魔物の赤い石は、一言も声を発しない若いカジマ提督の前に置いたままであるが、譲るとの言葉であっても、パトラはうかつに手を出せない状況である。

 金銭や品物での代償無しで譲り受けるのには、一族の族長家族である我が身と命の代償取引は致し方無い。

もう一つの代償無しで譲られる条件は、猫亜人と同じ条件で住民になり保護される事であるが、一族全員を保護の名分での奴隷では意味がない。

保護者は、絶対的に住民を守る義務があるが、しかしながら、保護者は魔法使いの人種である為に、個人的には抵抗があるが、耳長種族の為には魔物の赤い石を譲り受けなければならないので、猫亜人と同じ条件で耳長種族も保護されたのだと、一族に受け入れた理由を理解して貰わねば成らないだろうから、耳長種族の条件と人間達の条件を、なるべく猫亜人と同じ条件にしなければならない。

 魔物の石であるならば、耳長種族に何らかの負担があるだろうから、話し合わなければ成らないだろうとパトラは思い、出来れば条件の中身は、奴隷ではなく、互いの個人の尊厳を第一条件にしたいと思った。

 パトラは少し間をおいてから、
「何か条件は?」
と、パトラは不安交じりに尋ねた。

パトラにすれば、代価を求められたら、魔物の赤い石の価値は国をも買えると言われているが、そんな金など耳長種族には出せない。

 マーガレットは、「何か条件は?」との返事をどの様に引き出すか、考えに考えて言葉を選んで会談に挑んだのだが、パトラの返事を聞いたときに報われたと思った。

 そしてここからが本番だと、マーガレットはパトラの条件との言葉にわざと考え込むように、顎に手を添えて席から立ち上がり外の景色を眺めた。

強者立場からの条件を切り出したら、善意と受け取って貰えないだろし、下手すれば反発されるだろう。

対価無しで魔物の赤い石を渡すには、あまりにも芸がないし、惜しいと既に考えていたのである。

 マーガレットは窓から草原を見渡していたが、色白美貌なパトラ耳長種族女性に向き直して、
「条件ではなく、希望なら有ります。耳長種族の移住です。大河の近くに石の壁を造っています。あなたたちは、そこまでの草原を自由に使えます。我々はこの船で遠い国から来たのですが、私たちの代ではもう帰れません。我々人間と亜人が協力し和える国を興しませんか?」

 マーガレットの賭けは、条件でなく希望と言って、国興しの発案を提示した。

 パトラは「条件でなく希望」と言われたことに、一瞬身体を硬直させたが、断れないとの意味か、断ってもよいとの意味か、パトラは解らず身構えてしまった。

 マーガレットの希望内容は、耳長族の悲願でもあるパンパを、安全な場所にして住みたい事である。

 魔獣と魔物の住むパンパは、豊かな牧草地だが危険度が高くて誰もが住めなかったが、
砦の人種は、魔獣と魔物を倒せる強力な魔法の武器を多数持っており、猫亜人は砦の人間を信頼しているとの事なので、パトラは同意したいが、魔法を操る人種に対しては、まだ気持ちが抑えられている。

 亜人と人種合同国を興したいとの事でもあるが、耳長種族の悲願である亜人国興しを、人間種族が言い出したこのことは驚愕であり、パトラは全く予想などしていなかった。

国を興すことは軍隊を持ち、戦士を育てる事でもあるが、猫亜人に戦う事は無理なことであり、その役割はパトラ耳長種族の役割であろう。

パトラは黙想した後に、何処までこの人種を信用できるか考えて、ガイア様に愛されたという指導者を暫く観察すると、確かに妖精が寄り添っているので本物だろうと思った。
カジマ提督と目が合ったパトラは、マーガレットはキツイ眼差しであるが、その目は慈愛と優しさがあった。

 鹿島はマーガレットとパトラのやり取りを、他人事のように聞いていたが、パトラの強い視線を感じて、マーガレットの美しさは、観音菩薩を感じさせるが、パトラの完ぺきといえる美形顔は、美のビーナスをも感じさせられた。

 鹿島は、危うくパトラの視線を受けて、二人の外交戦に引き込まれそうになったが、何とか踏ん張って、口は開かなくても、スマイル外交に徹する事にした。

 鹿島と目を合わせたパトラは、異国から来た個人の尊厳を尊ぶ人間種となら、我ら耳長族とも理解し手を取り合えれば、国を興す事が出来るかも知れないとの思いが、強くパトラの胸にこみあげてきた。

彼等は魔法の武器を持ち、最強の魔物も倒し、ガイア様に愛された指導者もいる。

 パトラは周りの従兄弟達の顔をきつい目で覗くと、四人共に歯を食いしばっているのは、国を興すことに賛同したい顔であるようだ。

パトラは従兄弟達の気持ちを確認するために、従兄弟達に頷くと矢張り四人は頷き返してきた。

 皆は一族一家をなす六百余の指導者に準じる者たちなので、三千余の一族はまとまりやすいと思えて、戦士としての役割をも含んでいるだろうが、魔物の赤い石を含めた耳長種族の悲願すべてを手に入れる為に、パトラ達五人は共に国を興そうとの提案した砦の人種にではなくて、興した国に忠誠を誓う事にした。

「個人の尊厳を国是として、皆が互いに尊び合うのであれば、我ら耳長種族は国興しに参加します。」

「有難うございます!提督閣下を頂点に、猫亜人の代表はマティーレで、耳長種族代表はパトラ殿で宜しいでしょうか?人種の代表は私マーガレットです。三人の運営委員会を立ち上げましょう。」

と、マーガレットの独断で国の運営権は、マーガレットとマティーレにパトラ三人による運営が決められた。

「魔獣の赤い石が無ければ、われら一族も、耳長種族も皆が滅びます。パンパに住むのは夢でもあり、ガイア様に誓い、この砦に移住して、移住者一族郎党三千人は国に忠誠を誓います。」

五人は椅子から立ち上がり、片足を床に突き胸に拳を当てて頭を下げた。

潔い態度であるが、しかしながら、これ以上の条件を拒否する態度でもある

 マーガレットは決定事項を確認するように、マティーレに顔を向けると、
「耳長種族はガイア様に誓うと、運営委員会の事や、忠誠を誓いをも、裏切りません。」
と、強く頷いた。

 魔物の肉を食すれば、精力と療養と養命なので塩漬保存を進めたら、パトラ等にも分けてくれると言い。
用意された肉には、見たこともない透明な防水物の中に、焦がし肉に貴重な塩がたっぷりと、肉の切れ目の中へ押し込まれている。
 
 そして、パトラは想像もできない面白い出来事を見た。
肉を持ってきた甲冑姿の少年が、遠くの窓際で猫娘に聞いたことない言葉で、何かを懇願しているようだが、猫娘に拳でボディブローされた。

それに気づいたカジマ提督は、甲冑姿の少年にやはり聞いたことのない言葉で注意しているようであり、少年は直立姿勢で頭を下げて、一緒に肉を運んで来た者たちの所へ行き、又そこでも、頭を小突かれているばかりか、小柄な者に尻に蹴りを入れられた。

 蹴りを入れたのは甲冑姿の人種女性であるが、驚いた理由は猫娘が人間を殴り、他の人間も少年を庇う事無く少年に注意をしている。

 闇の樹海に住む砦の人間は、他の人種と違い亜人を差別することのないようで、この人間達となら、人種の垣根は無くなるだろうと、他種多様な者たちと国を興せる人種だとパトラは確認した。

 人口の少ない種族も、他の種族と共にこの人間たちと、国家を興せるとパトラは強く思った。

 魔物から取れる加工品について、色白美貌な耳長種族パトラは、
「魔物の肉は、精力が付き身体の体力を高め、表皮とは防具に適し、どんな刃物も通用し無い硬い楯になり、鱗の鎧は加工しやすいうえに、更に軽くて硬いので丈夫な甲冑ができる。
更に、尾刃は勇者の剣と言われているが、加工の仕方は知りません。」
と進言してきた。

そして、表皮と鱗は取って置き、肉はなるべく多く塩漬した後に保存を進められた。

 更に、万能薬の秘造と残りの薬も届けるとの事で、魔獣の赤い石と塩漬肉を持って耳長種族は砦を去った。

 マーガレットは、マティーレからの事前に得た事情聴取の中で、耳長種族は牧畜民である事を知らされていたので、会合場所に草原を一望できるVIP展望台を選んで正解であった。

 マーガレットはパトラとの後日談で、支族全体で移住を決めた理由について、改めて訊ねた。

パトラは耳長種族の病気を治す為に、魔物の赤い石を持って帰れたのは、移住が条件であると、耳長種族全員に説明をしたとの事であり、移住は決定事項であるとも伝えたらしい。

 魔物を倒したのは人間であるが、この大陸の人でなく遠い国の人らしいが、亜人を差別しない人種であると伝えたとの事である。

なぜ人間と約束したのか?との質問に対しては、
猫亜人は既に三百人が住民として、闇の樹海を切り開いた跡地で、高さ十メートル以上の幅広い、二メートルの大木で囲まれた砦で豊かに暮らしている。

 石の壁が出来たら更に、大勢の猫亜人を呼ぶようであり、猫亜人からの信頼は高いので、信用できると断言した。

 ガイア様に愛された指導者は伝説の伝え通り、妖精が安心して彼の傍にいるので、信用できると確信したとも付け加えた。

 移住の場所は、すでに工事にかかっていて、幅広五メートルの石で十五メートルの高さに工事中だとも説明した。

 何よりも、亜人との協和を持ち合う国造りを目指していると、マーガレットが約束した事は、耳長種族との交渉で、保証人である噓をつかない猫亜人の信頼は、絶大なる事も証明された。
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