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93ザツ村の惨劇

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 鹿島達の荷車が林に差し掛かる寸前で、
武装した兵の集団と鉢合わせになった。

「お前らは、ザツ村の者か?」
「我らは日出国の塩商人です。
ザツ村で水と食料を頼みに来たのですが、断られて引き返し中です。」 

「後ろの武装した男等と子供達は何だ!」
「武装した人達は護衛の傭兵で、
子供達と修道女は、孤児院からの移動中に知り合い、相席させました。」
と、
サスケは不審されないように、恙(つつが)なく応じている。

 高圧態度の男は、きらびやかな鎧をつけ、
その上に陣羽織を着込んでいた男の元に駆け寄り、
鹿島達の素性を説明している。

 何やら指示されたのか、再び高圧態度の男は引き返してきて、

「まさか、塩を亜人国に運ぶのではないのか?」
「塩の売り先はすでに決まっていて、
ゲルググ州のゲルググ商会です。毎回の取引先です。」

「亜人達が戦争を仕掛けて来そうなので、今亜人国との取引は禁止だ。」
「それでも我が国日出国の商人は、保護される権利があるはずです。」

「話はザツ村の用事が済んでから聞く。ザツ村に引き返せ!」

 鹿島が同意すると、
サスケは不満顔を高圧態度の男に向けてエミューを操り、
再びザツ村に向きを変えると、トーマス達も苦労しながら、
なんとか向きを変えることができた。

 高圧態度の男は、鹿島達が方向転換したのを確認すると、
十四、五人の兵を引き連れながら、ザツ村方向に駆け出して行った。

 ザツ村に着くと、
すでに村人全員が集められていて、村人の選別が行われていた。

 陣羽織を着込んでいる男はエミューを降りると、
エミューの手綱を隣の護衛らしき男に渡し、
護衛兵は自分の乗っていたエミューと一緒に、
既に囲い枠に繋がれている他のエミューの脇に向かうと、
それらエミューの手綱を囲いの枠に繋いだ。

 鹿島達は選別された集団手前で、全員荷車から降ろされると、
五人の男たちに囲まれた。
鹿島達は子供達と双子の修道女を、
家の壁に押しやり一塊にして周りを囲みだした。

「村長の娘が居ないぞ!」
と、陣羽織を着込んでいる男が叫ぶと、
三人の兵は一軒の家に駆け込んで行き、
暫く後に若い十六七歳位の美人顔娘の腕を掴んで連れて来た。

「床下に隠れていました。」
「隠れていただと!やましい事を隠しているかもしれん。しょっぴけ!」
と言って、陣羽織を着込んでいる男は叫びながら娘に近づき、
娘の頭に手を伸ばして髪の毛を掴んで引いた。
 
髪の毛をつかんだまま、鹿島達の方へ向かいながら、
「ロゾー。腕を縛って俺のエミューに繋いでおけ!」
と言って、娘の髪の毛を引くと娘は声を上げてよろけて倒れたが、
お構いなしにさらに強く持ち上げる様に髪を引いた。

「痛い、嫌だ!助けて!」
と娘が叫ぶと、ポールは走り出して行き、
陣羽織を着込んでいる男の腕を切り落とした。

「ぎえー。やっちゃった。」
と鹿島は驚き、心の中ではよくやったと、
「えらいやっちゃ~♪えらいやっちゃ~♪よいよい。」
と、喜びの踊りを頭上で感じた。

「踊る阿呆に~♪見る阿呆~♪」

 咄嗟に鹿島とトーマスは、自分達も踊りに加わると決めたのか、
鹿島達を囲んでいた五人の兵を身二つにした。

 鹿島とトーマスは更に、
陣羽織を着込んで腕を切り落とされて転げまわる男の周りに集まって来る、
抜刀した兵の中に駆け込んで、問答無用とばかりに切り倒しだした。

 鹿島達の素早い動きと切り込みに、
切りかかるタイミングをなくしていた兵を、
ポールも残らず切り倒していた。

 陣羽織を着込んで腕を切り落とされた男以外は、
すべて切り倒されてしまい、村の広場に静寂だけが漂い、
凍り付いたように動くものさえいない。

 腕を切り落とされた男も転げまわっていたが、
目の前の惨事に口と目を大きく開けて凍りていている。

「やっちゃった!」
と、
 鹿島は倒れている者たちを見てまたつぶやくと、
腕を切り落とされた男は、苦痛で顔を歪めながらも、

「お前らは何だ。何をした。俺はここの領主だぞ。」
 と我に返った男は叫んだ。

「俺達に危害を加えようとしただろう」
と鹿島はめんどくさそうな顔で応えると、
男の顔は真っ蒼になり、声をださないで口だけが動いている。

 静寂が終わり、
村人たちが騒ぎ立てている内側から、村長と呼ばれていた男は、
放り投げられた剣を拾い持ち、
顔を真っ蒼にして口だけ動かしている男に近付くと、
他の村人も落ちている剣を拾い村長の後を追った。

 村長は目の前に居る男の首めがけて、力任せに剣を押し込んだ。

 周りの村人たちも所かまわず剣を男に差し込んでいく。

 顔を真っ蒼にして口だけ動かしていた男は、
六本の剣に刺されたまま、苦痛表情で目を開けて息絶えている。

 村長と村人たちの行動は、
鹿島達だけに罪を被せないとの意思表示であろう。

 再び静寂が襲った。

 突然サスケが、
「穴を掘れ!隠してしまおう!」
 と叫んだ。

 村人全員が我が家に駆け込み、其々鍬を手に持って現れると、
広場前の枯果てている耕作地に穴を掘りだした。

 穴は整地されて、耕された耕作地になっている。

 鹿島は土にしみ込んだ赤い血を、
手から水を噴射させて跡を消し去った。

 鹿島の噴射が終わると、
双子の修道女は村長と剣を差し込んだ男等を引き連れて来て、

「村人全員、神降臨街まで連れて行きたいのですが、どうでしょうか?」
「喜んで連れ所為しましょう。」
 と言って同意した。

 サスケを呼んで、
「サスケ殿、金貨十貨でわれらと村人全員を、
火の国の国境をゲルググ州まで超える手助けをお願いしたい。」

「無論そのつもりです。金は要りません。ジューベー様からの通達文で、
守り人様達は人ではないかもと、
伝えられていたようですが提督閣下殿達は人ですか?」
「先祖代々人を続けています。」
と、トーマスの言葉を拝借した。

「どんな修業を積めば、あのような動きが出きるのでしょう?」
「日々鍛錬。」
と笑って答えた。

 三十袋弱になった塩袋を、
領主たちの乗ってきた二十一頭のエミューに乗せ換えて、
荷車には子供達と歩くのが困難な老人を詰め込み、
ゲルググ州の国境を目指した。

 村人には身軽にしてもらうために、
持ち物は着替えと軽い夜具にスープ用のカップだけにしてもらった。

 二百人分の食事のできる、なるべく大きな鍋を集めると、
二十一頭の空いているエミューに其々乗せた。

 逃避行はなるべく街道を外れて、
遠回りでも人に見つからない道を選び、
集落の近くを通らなければならないときは、
夜間強行せざるを得なかった。

 そして、鹿島達の獲物狩りも忙しくなった。

 具合の悪くなった人には、
万能薬を与えたくても既に底をつき、
双子の修道女が代わり番に治術してくれた。

 七日目に要約国境詰所近くまで来たが、
かなりの数の衛兵が詰めていると、
調査に赴いたサスケが帰って来た。

「賄賂で如何にかならないか?」
「既に国境は封鎖されていて、
それに、詰めている衛士兵が多いのは異常です。
国境を越えるのが一日延びるが、
大変だけど安全の為に山越えをしましょう。」

 コーA.Iからの連絡で、かなりの数の越境者が、
詰所で足止めされているらしい。

 亜人協力国と火の国においては、自由貿易がなされていて、
亜人協力国中央銀行からは、白金貨二百貨幣をすでに貸し付けている。
来月の支払いは、白金貨百七貨幣のはずであるが、
貸付踏み倒しは間違いないだろう。

 火の国獅子丸大王と指導層者は信用できないが、
火の国で出会った平民の人々は、
カントリ国民の性格とは根本的に違い、
火の国民は義理と感謝する心を持ち合わせている。

 鹿島も自分の子供にも、
義理と感謝する心を持って生まれてほしいと願った。

 山越えだと荷車が使えなくなるので塩を諦めて、
力ない者たちをエミューに乗り換えてもらうと伝えたら、
ザツ村全員から反対された。

「私達は皆助け合えます。
亜人協力国では塩が足りないと知ってしまったのに、
その塩を捨てさせることはできません。
塩を優先に、絶対に運んでください。」
と申し込まれて、
鹿島の漫遊名分だけの塩を捨てられなくなったが、
鹿島は亜人協力国民に代わり、
ザツ村全員に塩が不足している為の運搬協力に感謝を述べた。

 サスケの案内で、
鹿島は先頭で枝木を払いながら獣道を作り、山越えに挑戦した。

 陽も暮れかけてきたが、まだ登り最中に思える。

 コーA.Iに頼んでおいた獲物がようやく見つかり、
トーマスとポールが狩りに向かった。

 鹿島は村人たちと協力して、
足場の悪い森の中でキャンプ場に整地してかまどを作り、
集めた枝木に着火した。

 トーマスから連絡があり、仕留めた獲物は百キロ以上あり、
二人だけでは運べないと言ってきた。

 鹿島は仕方なしに、タブレットパソコン片手に、
トーマス達を探し出して、獲物を見ると絵本に乗っている顔である。

 前回の二角獣よりもかなり小型だが、同じ種類である。
鹿島は獲物に近付いて、ポールの持っているレーザー銃を借りて、
その顔を蒸発させた。

「隊長。何で顔を蒸発させたのですか?」
「あの顔は子供のころのトラウマ。」
「子供の頃?
隊長にもトラウマになるような、子供時代があったのですか?」
 と、いつも一番の寡黙なポールが笑いこけた。

「俺だって子供時代はあったし、今でも怖いものだらけだ!」
 と、怖いと感じるのは、子供だけではないと反論した。

「今でも?怪物になった今でもですか?」
「俺は怪物ではない。神になる見習い中だ。」
 と言うと、二人は高笑いしだした。

 二人とも鹿島が既に人間だとは、信用してないようである。

 おまけに神様見習いでなく、怪物呼ばわりである。

 鹿島は修行中の身なので、ここは笑い返しておこうと笑いに加わった。

 今回の逃避行では、髪を引っ張られていた娘がポールになつき、
その娘は本来明るい娘であったようで、
ポールの顔をいつも笑い顔にしている。

 鹿島は、軽口も叩ける明るくなったポールにも、
春が来てほしいものだと天に願ってみた。

 すでに赤い石と内臓は除去されていて、
前足と後ろ足の真ん中で二つに切り裂き、
更に前足部分を左右に分けた。

 鹿島は後ろ足全部を担ぎ、
トーマスとポールは左右の前足部を其々に担当した。

 鹿島の担当部分は七十キロぐらいに感じた。

 キャンプ場ではすでに、
キノコやら山菜らが多く入れられたスープが出来上がっていて、
鹿島達の到着を待っていた。

 鹿島達は、
「俺らより、先に子供達にスープだけでもあげてもよかったのに。」
「子供だから、けじめの仕方を教えねばなりません。
命の恩人で、これから我らは亜人協力国の民となるので、
我らの指導者様達を敬う事と、
感謝と共に尊敬する心をも教えるのが親の義務です。」

 どうやら、鹿島達の素性をばらした奴がいるようだが、
修行中の身だから寛大な心で、これもまた詮索はしないでおこうと、
鹿島はそれ以上の詮索をやめた。

 その夜は、
鹿島とサスケがコンビを組んで、夜中までの歩哨を担当した。

 焚き火を囲んで、サスケにショーセツのことを尋ねた。
「自分の立場上色んな噂を集めていますが、
彼の噂は、私が知りえた事では、悪い噂だけです。」

「悪い噂?」
「自分の配下だけで父親の船に乗り、遠洋航海に出て、
毎回積み込んだ量は少ない商品だったらしいが、
商取引をしてきたと言って、
多くの品物とお宝を稼いでくるらしいが、
彼らの船を見かけた地域で、
彼らの船に似た帆船が、倭寇と呼ばれながら村や町を頻繫に襲い、
さらに海賊被害も出たとの噂です。あくまでも噂です。
確認はされていませんので、誰かのひがみかもしれません。
だけど、彼のいい噂話は聞いたことがありません。」

「農地改革や文盲撲滅は?」
「他国では、何故かそんな噂があるようですが、
あれはほかの人が提案した事を奪った。彼にはそんな器量はありません。」

 鹿島はショーセツという男は裏の顔がありそうで、
ジョシュー知事とキョクトウ知事の受けた懸念は、本物だろうと思えた。

 夜中にトーマスとポールが起きてきて歩哨を代わり、
鹿島は大き目の立木に背を預けて、
遠洋航海に出たヤンの状況が気になるが、
未だコーA.Iからの連絡がないので、今は安心して眠りについた。

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