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121街を捨てる住民
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家の入口のドアが烈しく開くと、
「叔母さん。耳の長い人がドアの前にいるよ!」
と先程まで泣いていた男の子が部屋に駆け込んできた。
男の子は母親の姿に気づくと、報告を忘れてしまったようで無口になって満面の笑顔で母親に抱き着いた。
ポールは男の子の騒がしさと満面の笑顔に気遣うように、
遠慮気に椅子から立ち上がり入口付近に顔を向けると、
エミュー隊の耳長種族の男と軽機動車輌の運転をしていた小隊長が、
ドアの向こうに立っていた。
エミュー隊の耳長種族の男は、
ポールが民間の家に入り込んでいるのを訝しい顔しながらも平素を装い、
「ポール司令官殿、街の外回り様子を調べましたが、
モーゴー国軍は一兵も見当たりませんでした。
もう少し範囲を広げて調査しても宜しいでしょうか?」
「いや。必要ない。街の各出入り口で通行を邪魔しないように、
モーゴー国軍が現れないか警戒していてくれ。
そして、決して街中には入らないように、全員に通達してくれ。」
ポールは自分の本来の使命に気が付いた様子で、
再度姉妹二人に向き直った。
「布の街長老と会見したのですが、
布の街の住人は、我らの援助を必要と思ってないのでしょうか?」
「長老様は婿殿を殺されてしまい、
三人の綺麗だった娘たちは多くの男たちに辱めを受けたのちに自害したので、
長老様は生きた屍に成ったとの噂です。
食料を必要と思っていても、思考は完全に停止していたかもしれない。
私たちを含めて、皆も食料を必要と思っているのは確かです。
次の食糧が届くまで持たない人は、
ここの姉の家族を含めてかなり居るでしょう。」
「布の街の裁判所は機能していますか?」
「裁判官は長老様だけではないので、機能していると思います。」
「他の裁判官に会うには、処へ行けばよいのでしょうか?」
「案内します。お姉さん、坊やをお願い。」
と言って、恰幅の良い妹らしき女性は姉に赤ん坊を渡そうとしたが、
「坊やの授乳の時間でしょうから、
私も運動がてら歩きたいので私が行きます。」
「病み上がりで大丈夫ですか?
せっかく治ったのに、また再発などしないでよ。」
「だいぃじょうぶ。大丈夫!」
と姉はきれいな顔をさらに引き立てるように微笑んだ。
ポールは軽機動車輌の助手席に、きれいな姉を乗せようとしたが、
「これは荷車のようだけどな~に~?動くの?私は歩いて行けますが?」
と、如何ぶんだ。
「魔法の荷車です。」
と、ポールはニヤッとした。
ポールはきれいな姉に助手席に乗るよう何度か催促して、
何とか納得させきれた様子で出発した。
きれいな姉の案内で裁判官の住んでいるらしい玄関前についた。
「あれ。これから見舞いに行こうと用意していたのだが、
ミーテラ病気は治ったの?」
「はい!お義兄さん。エルフの万能薬をいただいて治りました。」
「え!エルフの万能薬を頂いた。誰に?」
「神降臨街のポール司令官様に頂きました。」
「神降臨街のポール司令官様?」
と言っている側に、奥の部屋からミーテラによく似た姉らしき女性は、
駆け出したままの勢いでミーテラに抱き着いた。
「うそ~。でもうれしい~。何で治せたのどうして。
医者の話だと、今日か明日には危ないと聞いていたのに、
奇跡が起きたの。でもよかった、嬉しい。」
と、一気にしゃべりながら、顔中に大粒の涙を流して大声で泣きだした。
「お姉さん!お客様をお連れしました。私の命の恩人です。」
と、ミーテラは言いながらポールの手を握った。
「綺麗な甲冑姿だけど、また新しい略奪者?」
「略奪者ではありません!神降臨街の施し人です!」
「神降臨街の施し人?」
ポールは進み出て、
「亜人協力国軍の第七師団長ポールです。
今日伺いましたのは、モーゴー国軍の将軍を捕らえました所、
布の街でかなりの犯罪行為がなされたようなので、
こちらの裁判を受けさせようと思い、相談に罷りこしました。」
「モーゴー国軍の将軍を引き取って裁判を行えと?」
「強制ではありません。
裁判を行いたい希望が有りましたら、亜人協力国は協力します。」
ミーテラの義兄は考え込んで、
「私ひとりでは決めかねます。
返事は何処へ伝えれば宜しいでしょうか?」
「この街の出入り口に居る者に伝えていただければ、
わが軍が駐留している丘の上まで案内させます。」
とポールは言った後で、ミーテラに振り向き、
「ミーテラさん、私はこれで用事は済んだので帰りますが、
あなたを家まで送る事はできますが、
ミーテラさんはどうなさいますか?」
「ミーテラ。詳しく話が聞きたいので、残って。」
とミーテラの姉は涙顔しながら、哀願(あいがん)しだした。
ミーテラは姉の涙顔に負けた様子で、
ポールの手を握りしめている自分の手に目を向けると、
大事なものを手放すようにゆっくりと力を抜きながら指を開いた。
鹿島とポールは、ゲルの外での雑多な叫び声を気にする出なく、
テーブルを挟んで互いに向き合うように座っている。
「随分とゆっくりとした視察だったようだが、何があった?」
「布の街の長老と会見したのですが、
婿殿と三人の娘を亡くしたばかりだったようで、抜け殻の様子でした。」
「成果なしか。」
「有りました。
二人の姉妹と縁があって、彼女らの義兄に会うことが出来ました。」
と言って、ポールは少し顔を赤くした。
鹿島はポールの表情の変化に気が付いたようで、
「きれいな姉妹だったか?」
とニヤついた。
「妹は私のストライクゾーンではありませんでした。」
「姉はきれいであったか?」
「姉のほうは綺麗でした。」
と言って、ポールは顔を真っ赤にしだした。
「美の女神様程か?」
「そうです。美の女神ヴィーナスの様でした。
が、どうして隊長は知っているのですか?」
「誰でも、好きな女性は女神様に見える。
痘痕も靨(あばたもえくぼ)というだろう。」
「あばたではありません。ヴィーナスです。」
男女区別なくキューピットの矢は突然に刺さるか、
桃木のように実になる期間が長いかは千差万別だが、
星の王子様やビィーナスと感じるのはみんな同じである。
「姉のことは理解した。義兄に会って、何の成果があった。」
と、鹿島はポールの分かりやすい性格に、
吹き出すのをこらえようと手で口を押さえて話題を変えた。
「義兄殿は、布の街の裁判官らしいのですが、
モーゴー国軍の将軍を引き取れて、裁判を行えると伝えました。」
「返事は?」
鹿島はまだ吹き出しそうなのか、
口に手を当てたまま短めの受け応えをしている。
「ほかの人と相談したいと言われました。」
「だろうな~。布の街住人は俺らが負けるとも思うだろうし、
難しい選択だ。あ、渡せる兵糧の話は?」
「妹の話では、次の食糧が届くまでは持たないかもと言っていました。」
「だろうなあ~。行軍を少し遅らせてもいいだろう。
ポールの指揮で炊き出しに行ってくれ。」
と、鹿島はニヤつくと、
「行軍を少し遅らせてでも?」
と、ポールも自分が舞い上がってしまった事に、気が付いた様子である。
布の街の外では、炊き出しと兵糧の売り出しが始まった。
「ポール司令官様は、将軍様でしたのですか?」
と、ミーテラの妹が尋ねた。
「あーあ。こちらでは将軍になるな。」
とポールは、将軍と言われた事には無感情を現した。
「済みませんでした。色んな失礼な言葉や態度をお許し下さい。」
「何にも失礼な言葉や、態度を受けた覚えはないが。」
「エルフの万能回復薬を施すのは、何か下心があると疑いました。」
「そうだったのですね。でも疑うのは仕方がない事でしたでしょう。」
と、ポールは豪快に笑い返した。
「ポール司令官様は、本当に個人の尊厳を身に付けている善人ですね。」
と、ミーテラの妹は個人の尊厳を理解した様に話し出したが、
ポールはそんなことなど気にしない様子で、
「神降臨街への移住の話は、どうなりましたか?」
「誰もがこの街を捨てて、出ていく様子なので、家の買い手がいません。」
「荷車とエミューを買いたいのだが、如何程だろう。」
「荷車もエミューも、モーゴー国軍に掠奪されたので、
布の街では手に入れきれません。」
「みんな歩いて、この街を捨てると?」
「ここに残っても、見通しは有りませんので、仕方がないでしょう。」
と、ミーテラの妹は肩を落として、
買い込んだ食料を抱くように街中へ帰っていった。
ミーテラの妹と入れ替わるように、
エミューに乗った耳長種族がポールの所へ駆けて来た。
「司令官殿、裁判官と名乗る者達が現れて、
ポール司令官に会いたいと言って来ました。」
「機動車輌隊に連絡して、閣下の所へ案内するよう伝えてくれ。」
と言って、ポールは何か気になる事がある素振りで少し考えこんだ。
ポールは炊き出しと兵糧の売り出しを連隊長に託して、
自身も鹿島の元へ機動車輌を運転して向かった。
鹿島とポールは裁判官と名乗る者達三人を前にして、
「結論は出ましたか?」
と、鹿島はにこやかに話しだした。
「結論は出ました。布の街の住民皆を、
砂漠を越えるまで保護して頂けませんでしょうか?」
「戦闘に巻き込まれるかもしれないのに?」
「布の街は交易の通過地でしたが、今では廃れてしまいました。
どうせ、ここに残っても、死ぬかもしれない。
それならば砂漠を越えて、多少危険でも希望の地へ向かいたい。」
「協力しましょう。」
と、鹿島は何かが閃いた様子で、軽く引き受けると、
ポールの顔は少し血色が悪くなった。
「では、モーゴー国軍の将軍を引き取らせて頂いて、裁判を始めます。」
「砂漠を越える出発は、明日の朝で宜しいでしょうか?」
「みんなどうせ、身一つです。大丈夫でしょう。」
鹿島はポールに向かって、
「第七師団は、布の街住人を保護して、モモハラ草原へ引き返してくれ。」
「そんな無茶な!」
とポールは、今度は顔を真っ赤にして叫んだ。
「俺は怪物だ。死にはしないし、監視衛星のレーザー砲も有る。
心配するな。これは命令だ。」
と、鹿島は微笑んだ。
布の街裁判所前の広場では、多くの傍聴者が溢れている中で、
モーゴー国将軍の公開裁判が行われた。
「モーゴー国軍の将軍の罪状を読み上げます。
同意できない場合は、モーゴー国軍の将軍は拒否できますが、
証拠や目撃者がいた場合は、さらに偽証罪が追加されます。」
「布の街の住人の食料略奪を行いましたか?」
「モーゴー国軍の将軍。答えて下さい。」
「行いました。」
「聞こえません。行いましたか!」
「行いました!」
「布の街の住人の財産を略奪しましたか?」
「しました!」
「布の街の住人女性を辱めましたか?」
「罵倒しやがるから、辱めてやった!」
「布の街の住人を、罪もなく抵抗もしない人を、
殺したり傷つけたりしましたか?」
「モーゴー国軍は、逆らうやつは皆殺す。
俺に何かあったら、お前たち全員はモーゴー国軍に報復される。」
「判決!有罪!」
と、ミーテラの義兄は立ち上がりながら怒鳴った。
傍聴者群衆は一斉にモーゴー国将軍に向かった。
モーゴー国将軍の公開裁判に集まった群衆は、
傍聴だけが目的ではなかった様子で、
詰めかけていた多くの群衆の手には其々棍棒が握られていた。
「叔母さん。耳の長い人がドアの前にいるよ!」
と先程まで泣いていた男の子が部屋に駆け込んできた。
男の子は母親の姿に気づくと、報告を忘れてしまったようで無口になって満面の笑顔で母親に抱き着いた。
ポールは男の子の騒がしさと満面の笑顔に気遣うように、
遠慮気に椅子から立ち上がり入口付近に顔を向けると、
エミュー隊の耳長種族の男と軽機動車輌の運転をしていた小隊長が、
ドアの向こうに立っていた。
エミュー隊の耳長種族の男は、
ポールが民間の家に入り込んでいるのを訝しい顔しながらも平素を装い、
「ポール司令官殿、街の外回り様子を調べましたが、
モーゴー国軍は一兵も見当たりませんでした。
もう少し範囲を広げて調査しても宜しいでしょうか?」
「いや。必要ない。街の各出入り口で通行を邪魔しないように、
モーゴー国軍が現れないか警戒していてくれ。
そして、決して街中には入らないように、全員に通達してくれ。」
ポールは自分の本来の使命に気が付いた様子で、
再度姉妹二人に向き直った。
「布の街長老と会見したのですが、
布の街の住人は、我らの援助を必要と思ってないのでしょうか?」
「長老様は婿殿を殺されてしまい、
三人の綺麗だった娘たちは多くの男たちに辱めを受けたのちに自害したので、
長老様は生きた屍に成ったとの噂です。
食料を必要と思っていても、思考は完全に停止していたかもしれない。
私たちを含めて、皆も食料を必要と思っているのは確かです。
次の食糧が届くまで持たない人は、
ここの姉の家族を含めてかなり居るでしょう。」
「布の街の裁判所は機能していますか?」
「裁判官は長老様だけではないので、機能していると思います。」
「他の裁判官に会うには、処へ行けばよいのでしょうか?」
「案内します。お姉さん、坊やをお願い。」
と言って、恰幅の良い妹らしき女性は姉に赤ん坊を渡そうとしたが、
「坊やの授乳の時間でしょうから、
私も運動がてら歩きたいので私が行きます。」
「病み上がりで大丈夫ですか?
せっかく治ったのに、また再発などしないでよ。」
「だいぃじょうぶ。大丈夫!」
と姉はきれいな顔をさらに引き立てるように微笑んだ。
ポールは軽機動車輌の助手席に、きれいな姉を乗せようとしたが、
「これは荷車のようだけどな~に~?動くの?私は歩いて行けますが?」
と、如何ぶんだ。
「魔法の荷車です。」
と、ポールはニヤッとした。
ポールはきれいな姉に助手席に乗るよう何度か催促して、
何とか納得させきれた様子で出発した。
きれいな姉の案内で裁判官の住んでいるらしい玄関前についた。
「あれ。これから見舞いに行こうと用意していたのだが、
ミーテラ病気は治ったの?」
「はい!お義兄さん。エルフの万能薬をいただいて治りました。」
「え!エルフの万能薬を頂いた。誰に?」
「神降臨街のポール司令官様に頂きました。」
「神降臨街のポール司令官様?」
と言っている側に、奥の部屋からミーテラによく似た姉らしき女性は、
駆け出したままの勢いでミーテラに抱き着いた。
「うそ~。でもうれしい~。何で治せたのどうして。
医者の話だと、今日か明日には危ないと聞いていたのに、
奇跡が起きたの。でもよかった、嬉しい。」
と、一気にしゃべりながら、顔中に大粒の涙を流して大声で泣きだした。
「お姉さん!お客様をお連れしました。私の命の恩人です。」
と、ミーテラは言いながらポールの手を握った。
「綺麗な甲冑姿だけど、また新しい略奪者?」
「略奪者ではありません!神降臨街の施し人です!」
「神降臨街の施し人?」
ポールは進み出て、
「亜人協力国軍の第七師団長ポールです。
今日伺いましたのは、モーゴー国軍の将軍を捕らえました所、
布の街でかなりの犯罪行為がなされたようなので、
こちらの裁判を受けさせようと思い、相談に罷りこしました。」
「モーゴー国軍の将軍を引き取って裁判を行えと?」
「強制ではありません。
裁判を行いたい希望が有りましたら、亜人協力国は協力します。」
ミーテラの義兄は考え込んで、
「私ひとりでは決めかねます。
返事は何処へ伝えれば宜しいでしょうか?」
「この街の出入り口に居る者に伝えていただければ、
わが軍が駐留している丘の上まで案内させます。」
とポールは言った後で、ミーテラに振り向き、
「ミーテラさん、私はこれで用事は済んだので帰りますが、
あなたを家まで送る事はできますが、
ミーテラさんはどうなさいますか?」
「ミーテラ。詳しく話が聞きたいので、残って。」
とミーテラの姉は涙顔しながら、哀願(あいがん)しだした。
ミーテラは姉の涙顔に負けた様子で、
ポールの手を握りしめている自分の手に目を向けると、
大事なものを手放すようにゆっくりと力を抜きながら指を開いた。
鹿島とポールは、ゲルの外での雑多な叫び声を気にする出なく、
テーブルを挟んで互いに向き合うように座っている。
「随分とゆっくりとした視察だったようだが、何があった?」
「布の街の長老と会見したのですが、
婿殿と三人の娘を亡くしたばかりだったようで、抜け殻の様子でした。」
「成果なしか。」
「有りました。
二人の姉妹と縁があって、彼女らの義兄に会うことが出来ました。」
と言って、ポールは少し顔を赤くした。
鹿島はポールの表情の変化に気が付いたようで、
「きれいな姉妹だったか?」
とニヤついた。
「妹は私のストライクゾーンではありませんでした。」
「姉はきれいであったか?」
「姉のほうは綺麗でした。」
と言って、ポールは顔を真っ赤にしだした。
「美の女神様程か?」
「そうです。美の女神ヴィーナスの様でした。
が、どうして隊長は知っているのですか?」
「誰でも、好きな女性は女神様に見える。
痘痕も靨(あばたもえくぼ)というだろう。」
「あばたではありません。ヴィーナスです。」
男女区別なくキューピットの矢は突然に刺さるか、
桃木のように実になる期間が長いかは千差万別だが、
星の王子様やビィーナスと感じるのはみんな同じである。
「姉のことは理解した。義兄に会って、何の成果があった。」
と、鹿島はポールの分かりやすい性格に、
吹き出すのをこらえようと手で口を押さえて話題を変えた。
「義兄殿は、布の街の裁判官らしいのですが、
モーゴー国軍の将軍を引き取れて、裁判を行えると伝えました。」
「返事は?」
鹿島はまだ吹き出しそうなのか、
口に手を当てたまま短めの受け応えをしている。
「ほかの人と相談したいと言われました。」
「だろうな~。布の街住人は俺らが負けるとも思うだろうし、
難しい選択だ。あ、渡せる兵糧の話は?」
「妹の話では、次の食糧が届くまでは持たないかもと言っていました。」
「だろうなあ~。行軍を少し遅らせてもいいだろう。
ポールの指揮で炊き出しに行ってくれ。」
と、鹿島はニヤつくと、
「行軍を少し遅らせてでも?」
と、ポールも自分が舞い上がってしまった事に、気が付いた様子である。
布の街の外では、炊き出しと兵糧の売り出しが始まった。
「ポール司令官様は、将軍様でしたのですか?」
と、ミーテラの妹が尋ねた。
「あーあ。こちらでは将軍になるな。」
とポールは、将軍と言われた事には無感情を現した。
「済みませんでした。色んな失礼な言葉や態度をお許し下さい。」
「何にも失礼な言葉や、態度を受けた覚えはないが。」
「エルフの万能回復薬を施すのは、何か下心があると疑いました。」
「そうだったのですね。でも疑うのは仕方がない事でしたでしょう。」
と、ポールは豪快に笑い返した。
「ポール司令官様は、本当に個人の尊厳を身に付けている善人ですね。」
と、ミーテラの妹は個人の尊厳を理解した様に話し出したが、
ポールはそんなことなど気にしない様子で、
「神降臨街への移住の話は、どうなりましたか?」
「誰もがこの街を捨てて、出ていく様子なので、家の買い手がいません。」
「荷車とエミューを買いたいのだが、如何程だろう。」
「荷車もエミューも、モーゴー国軍に掠奪されたので、
布の街では手に入れきれません。」
「みんな歩いて、この街を捨てると?」
「ここに残っても、見通しは有りませんので、仕方がないでしょう。」
と、ミーテラの妹は肩を落として、
買い込んだ食料を抱くように街中へ帰っていった。
ミーテラの妹と入れ替わるように、
エミューに乗った耳長種族がポールの所へ駆けて来た。
「司令官殿、裁判官と名乗る者達が現れて、
ポール司令官に会いたいと言って来ました。」
「機動車輌隊に連絡して、閣下の所へ案内するよう伝えてくれ。」
と言って、ポールは何か気になる事がある素振りで少し考えこんだ。
ポールは炊き出しと兵糧の売り出しを連隊長に託して、
自身も鹿島の元へ機動車輌を運転して向かった。
鹿島とポールは裁判官と名乗る者達三人を前にして、
「結論は出ましたか?」
と、鹿島はにこやかに話しだした。
「結論は出ました。布の街の住民皆を、
砂漠を越えるまで保護して頂けませんでしょうか?」
「戦闘に巻き込まれるかもしれないのに?」
「布の街は交易の通過地でしたが、今では廃れてしまいました。
どうせ、ここに残っても、死ぬかもしれない。
それならば砂漠を越えて、多少危険でも希望の地へ向かいたい。」
「協力しましょう。」
と、鹿島は何かが閃いた様子で、軽く引き受けると、
ポールの顔は少し血色が悪くなった。
「では、モーゴー国軍の将軍を引き取らせて頂いて、裁判を始めます。」
「砂漠を越える出発は、明日の朝で宜しいでしょうか?」
「みんなどうせ、身一つです。大丈夫でしょう。」
鹿島はポールに向かって、
「第七師団は、布の街住人を保護して、モモハラ草原へ引き返してくれ。」
「そんな無茶な!」
とポールは、今度は顔を真っ赤にして叫んだ。
「俺は怪物だ。死にはしないし、監視衛星のレーザー砲も有る。
心配するな。これは命令だ。」
と、鹿島は微笑んだ。
布の街裁判所前の広場では、多くの傍聴者が溢れている中で、
モーゴー国将軍の公開裁判が行われた。
「モーゴー国軍の将軍の罪状を読み上げます。
同意できない場合は、モーゴー国軍の将軍は拒否できますが、
証拠や目撃者がいた場合は、さらに偽証罪が追加されます。」
「布の街の住人の食料略奪を行いましたか?」
「モーゴー国軍の将軍。答えて下さい。」
「行いました。」
「聞こえません。行いましたか!」
「行いました!」
「布の街の住人の財産を略奪しましたか?」
「しました!」
「布の街の住人女性を辱めましたか?」
「罵倒しやがるから、辱めてやった!」
「布の街の住人を、罪もなく抵抗もしない人を、
殺したり傷つけたりしましたか?」
「モーゴー国軍は、逆らうやつは皆殺す。
俺に何かあったら、お前たち全員はモーゴー国軍に報復される。」
「判決!有罪!」
と、ミーテラの義兄は立ち上がりながら怒鳴った。
傍聴者群衆は一斉にモーゴー国将軍に向かった。
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