16 / 17
次男
しおりを挟む
それから数年して、二人目の男の子が生まれた。
夫はとても喜んだ。
私も嬉しかったし、ほっとした。
夫は時々、そのことでひどく落ち込んでいるように見えたから。
「これでようやく、気兼ねなくあの方と暮らせますね」
その日の夕方、二人きりで話しながらつい、そう揶揄ってみせると、
「ああ、君もな」
晴れやかに笑われて驚いた。
ああ、夫が落ち込んでいたのは、私のこともあったからなのか…
今まで気づかなかったことに、今さら気づいて少し動揺した。
「…私は気兼ねなく暮らすという訳にはいきませんけれどね」
軽く拗ねるような口調で動揺を隠す。
けれど、こんな人目のある屋敷で夫以外の男性と気兼ねなく過ごす訳にいかないのも事実だ。
女主人まで屋敷を出ていく訳にはいかないし、死別以外で夫婦が別れることもできない。
「…ああ」
夫は少し黙り込んだあと、真面目な顔でこう約束してくれた。
「完全に自由に、という訳にはいかないだろうが、できるだけ何とかしよう」
どうするつもりかはわからないけれど、夫は言ったことは実行してくれるだろうという安心感と信頼。
そういった感情を抱ける人が夫で本当によかったと、改めて思ってしまった。
すると、
「君が結婚相手でよかった」
どういう偶然なのか、夫が不意にそんなことを言った。
本当に勘弁して欲しい。
ポロリと涙が落ちる。
「ありがとう」
向けられる優しい眼差し。
今までのことが報われた気がした。
夫はとても喜んだ。
私も嬉しかったし、ほっとした。
夫は時々、そのことでひどく落ち込んでいるように見えたから。
「これでようやく、気兼ねなくあの方と暮らせますね」
その日の夕方、二人きりで話しながらつい、そう揶揄ってみせると、
「ああ、君もな」
晴れやかに笑われて驚いた。
ああ、夫が落ち込んでいたのは、私のこともあったからなのか…
今まで気づかなかったことに、今さら気づいて少し動揺した。
「…私は気兼ねなく暮らすという訳にはいきませんけれどね」
軽く拗ねるような口調で動揺を隠す。
けれど、こんな人目のある屋敷で夫以外の男性と気兼ねなく過ごす訳にいかないのも事実だ。
女主人まで屋敷を出ていく訳にはいかないし、死別以外で夫婦が別れることもできない。
「…ああ」
夫は少し黙り込んだあと、真面目な顔でこう約束してくれた。
「完全に自由に、という訳にはいかないだろうが、できるだけ何とかしよう」
どうするつもりかはわからないけれど、夫は言ったことは実行してくれるだろうという安心感と信頼。
そういった感情を抱ける人が夫で本当によかったと、改めて思ってしまった。
すると、
「君が結婚相手でよかった」
どういう偶然なのか、夫が不意にそんなことを言った。
本当に勘弁して欲しい。
ポロリと涙が落ちる。
「ありがとう」
向けられる優しい眼差し。
今までのことが報われた気がした。
6
あなたにおすすめの小説
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
※新作です。アルファポリス様が先行します。
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
春告竜と二度目の私
こもろう
恋愛
私はどうなってもいい。だからこの子は助けて――
そう叫びながらも処刑された王太子の元婚約者カサンドル。
目が覚めたら、時が巻き戻っていた。
2021.1.23番外編追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる