ARROGANT

co

文字の大きさ
141 / 194
健介

しおりを挟む
 休日必ず暇な君島は、だいたい原田の部屋を訪問することにしている。
 たくさんいる「彼女たち」は土日祝日の休日を正規の恋人または亭主に提供するので、君島とは平日に会うことになっている。
 そう考えると休日に会うことの多い君島と原田はまるで恋人か夫婦のようなものかも知れない、などとは冗談でも口にはできない。
 そんなことを原田に言ったら、間違いなく部屋の出入り禁止になるので。
 それに今日のような天気の良い休日は不在のことが多い。原田の趣味は、バイクだから。
 電話で確かめようにも原田は君島の着信をほぼ取らない。そして部屋にいても居留守を使われる。
 それでも懲りずに君島は原田の部屋を訪ねる。

 いないんだろうなと思いつつも原田のアパートまで来て、駐輪所を見て少し驚いた。

 原田のバイクがある。それも、シートを剥がした状態で。
 ここまで来てなんだけど、いるとは思わなかった。こんな晴天の休日に。
 もしかしたらこれからツーリングに行くところ?こんな昼過ぎから?いつも出掛けるとしたら朝早くからいなくなっているのに。
 そんな不可解さに眉を顰めながらも、今部屋にいるという証拠ではあるから君島はとりあえず階段を登って原田の部屋の前に立ちチャイムを押した。

 しかし鳴らない。

 もう一度押す。
 鳴らない。

 鳴らない?鳴らないって何?電池切れ?

 君島は首を傾げながらドアノブを掴んだ。
 もちろん開くとは思ってなかった。開かないことを確認しようと思っただけだった。
 だから結構思い切り引いた。

 それが、開いた。
 開いたドアを掴んだまま、君島はびっくりしていた。

 開いた?なんで?なんで開くの?
 開くはずはないのに。

 原田は部屋にいてもいなくても必ず施錠する。だから平常時原田の部屋のドアを君島が開けられることは絶対ない。

 そういえばさっきのバイクもおかしかった。
 浩一がバイクをあんな丸裸で放置しておくことはありえないのに。
 君島はそんな怪訝な気持ちを抱きつつ、玄関に入り靴を脱いだ。
 そしてリビングに入り、壁に付いてるインターホンを見て、また驚いた。

 インターホンの受話器が、外れてぶらさがっている。だからチャイムが鳴らなかったのだ。整頓魔の原田がこれを放置するはずはない。

 平常時の原田にはありえないことがここまで積み重なっている。
 平常時ではないということ。
 君島はひやりと恐怖を覚える。

 なにかあった。多分ここでなにかあった。
 浩一の身に何か起こった。
 何が、

 君島は逸る鼓動を抑えるように手で胸を押さえ、室内に顔を向け、また衝撃を受ける。
 散らかったことのない原田の部屋が、無残に荒らされている。


 そして部屋の奥の窓の傍で倒れている原田を発見した。


 ショックで身体が動かなかった。息もできなかった。手で押さえている心臓だけが速い。
 目に映る原田の横臥姿は、向けている背中を曲げて、投げ出した脚も曲げ、頭部は肩の陰でしっかりは見えない。
 強盗傷害、あるいは強盗殺、
 まだ息を止めたままそんな言葉を頭に浮かべ、君島はまだ動けない。
 それから、原田の格好に気付いた。
 バイク用のブルゾンとジーンズ。
 ツーリングに行くつもりだったのだ。そのつもりで駐輪所のバイクのシートを剥がしたのだ。
 そこで何かが、

 やっと息を吐き、原田の元に駆け寄った。
 身体は無傷に見える。着衣にも引っ張られたような跡も見られない。ただ、頭部はどうなのか、


 そんなショックとパニックの中で原田の状況を確認していた君島だが、


 原田の腕の中に予想外の異物を発見して、別のショックを受けてまた呼吸を忘れた。
 そのショックが大きすぎて、遺体になったんじゃないかと恐れていた原田に声を掛けられたことには驚かなかった。


「……なんだ、お前」
「こ……いち、これ、」
「勝手に上がってくるな」



 そう言って、原田は腕の中で寝る子供が起きないように、ゆっくりその頭の下から腕を抜いた。

 実は原田は眠りが浅いので、君島が玄関のドアを開けた音で目覚めていた。ただ、寝起きが悪いので今まで動かずにいたのだった。
 そして君島はまだ驚いている。

「何……それ、」
「子供」
「……え?」

 寝起きの悪い原田は君島の問いに不機嫌に短い応えを返し、子供が目覚めないことを確認してゆっくりと立ち上がった。

「ど、どこの、子?」
「知らない」


 そう即答して原田は君島を一瞥もせずに頭を掻きながらキッチンに向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。 14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。 やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。 女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー ★短編ですが長編に変更可能です。

ほんの少しの仕返し

turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。 アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。 アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。 皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。 ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。 もうすぐです。 さようなら、イディオン たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

分かりやすい日月神示の内容と解説 🔰初心者向け

蔵屋
エッセイ・ノンフィクション
私は日月神示の内容を今まで学問として研究してもう25年になります。 このエッセイは私の25年間の集大成です。 宇宙のこと、118種類の元素のこと、神さまのこと、宗教のこと、政治、経済、社会の仕組みなど社会に役立たつことも含めていますので、皆さまのお役に立つものと確信しています。 どうか、最後まで読んで頂きたいと思います。  お読み頂く前に次のことを皆様に申し上げておきます。 このエッセイは国家を始め特定の人物や団体、機関を否定して、批判するものではありません。 一つ目は「私は一切の対立や争いを好みません。」 2つ目は、「すべての教えに対する評価や取捨選択は自由とします。」 3つ目は、「この教えの実践や実行に於いては、周囲の事情を無視した独占的排他的言動を避けていただき、常識に照らし合わせて問題を起こさないよう慎重にしていただきたいと思います。 それでは『分かりやすい日月神示 🔰初心者向け』を最後まで、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年(2025年)元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

【完結】結婚式の隣の席

山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。 ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。 「幸せになってやろう」 過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。

処理中です...