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「日赤ってどの道が早いかな?大通りに出た方がいいか?原田」
「この時間混みそうですから裏道の方が早いんじゃないですか?」
「だよな。じゃ、曲がるわ」
「ちょっと待って」
原田と大和の会話に君島が携帯を耳に当てながら挟まる。
「日赤行くの止める。日赤より遠いかなー?知ってる小児科があるからそっちに予約してみる」
「間に合うのか?救急があるから日赤がいいってお前言ってただろ?」
原田が慌てる。
「んー。大丈夫。暴れて吐いただけだから。もう落ち着いてるでしょ?」
「え?」
原田がまだ焦っているが、君島が携帯で話し始めた。
「もしもーし。今混んでますかー?混んでる?緊急に診察して欲しいんですけどー。痙攣と嘔吐。今は落ち着いてます」
そんな君島の話し声を聞いて、大和が迷っている。
「どこに行ったらいいんだ?日赤方面でいいのか?」
「停まった方がいいんじゃないですか?」
原田が応える。
「いいのか?」
「いいみたいです。もう健介、大丈夫です」
君島に言われて初めて気付いたが、まだ泣き喚いた名残りにひくひくと鼻を鳴らしているものの、健介はとっくに落ち着いて原田のブルゾンを握りしめ、窓の外の流れる景色を眺めていた。
「……どう見ても、救急患者じゃないです」
健介を見下ろしてそう呟いた。当人はまだ赤い目元のまま唇を尖らせたまま外の景色を眺めている。
「あ、どうも。前田先生。お忙しそうですね。またまたー。稼いでるくせに。行列の出来る小児科って聞きましたよ。そうなんですよね?それでその行列に割り込みさせてください。いいですか?名前?えっと、名前なんだっけ?」
君島が電話の途中で原田に訊いてきた。
「え?健介?」
「健介じゃなくて、本当の名前」
「あ、何だっけ?ハルオ?」
「違うよ。ヤマちゃん聞いてた?」
「聞いてない」
「あー。わかんないな。ま、いいか。受付で僕の名前言います。僕の名前知ってます?だよね。苗字は君島です。君島秋彦がフルネームです。はい。よろしく」
そして君島が通話を切って、病院の住所を告げた。
「緑区の小児内科。まえだこどもクリニックってとこ。ナビにあるかな?」
「緑区。方向が違うな。そういえば後ろついてきた兄ちゃん、大丈夫か?日赤行ってたりして」
「いや、後ろに停まってますよ」
原田の返事を聞いて君島が振り向くと、後ろの車の運転席で縋るように前のめりでハンドルを握りしめている森口と目が合った。
にっせきは、やめて、みどりくの、しょうにか。
と君島がジェスチャー交えて森口に示したが、恐らく伝わっていない。
とりあえずついてきて、と前を指差すと、森口も頷きながら前を指差した。
多分意思の疎通はなされたはず。と頷いているうちに、ナビ登録を終えた大和がシフトを入れた。
すっかり日が落ちて暗くなった。
街灯が点き車のヘッドライトも明るく見える。
再発進してから30分程も掛かって、目当ての小児科に辿り着いた。
さほど大きくない駐車場にはすでに10台程の車が停まっている。
後ろをついてきた森口も大和のランクルの隣に停まり、すぐさま運転席を飛びだして来た。
君島もすぐに車から降りて、走ってきた森口にまず訊いた。
「ね。この子の名前、何だった?」
「え?あの、子供大丈夫ですか?」
「ん。大丈夫。泣いて吐いて喚いたから疲れたみたいだけど。で、名前は?」
「大、大丈夫ですか、はい、まこと君です。山崎まこと君です」
「そっか。じゃ、行こう」
「ここ、何ですか?!」
「いいから行こう」
反対側のドアから健介を抱いて原田が降りていたので、君島がそっちに向かう。森口もそれについていく。大和も朱鷺も降りて、病院の入口に向かった。
原田に抱かれている健介は、君島の言う通り疲れているらしく、眠そうにうとうとしている。
まぁ、寝てる方が診察が楽かもな、と君島は思う。さっきのように喚かれるのは面倒だから。大人しく寝ててくれ、と原田のためにドアを開けてやった。
小児科らしく黄色基調の明るく可愛らしく清潔そうな受付に大男たちが突然無言で襲来したので、事務員も待合で待つ患者たちも座席を立ちあがるほど驚いた。その大男たちの後ろから、小柄な君島が跳ねるように駆けてきて、受付のお姉さんを見て名乗った。
「先ほど前田先生に電話した君島秋彦です。診察お願いします」
「え?は、はい。聞いてます、が、こんなに、」
お姉さんが男たちに慄いておろおろしている。
「いえ、診察はこの子一人ですよ。みんなただの付き添いですから。診察申込書は?」
「あ、はい。そうですね、お待ちください、これに、名前と保護者の名前と保険証番号と症状と、」
「ん。見ればわかるから大丈夫。僕が来たって先生に伝えてね」
「はい」
お姉さんはそう言って紙を一枚渡し、おろおろしたまま奥に走って行った。
その渡された紙に君島がささっと何かを書きつけた後に、森口に差し出した。
「後は君が書いて。名前とか保険証番号は僕にはわからない」
「は、はい。かしこまりました」
森口が緊張して丁寧すぎる返答をした。
しかし森口も名前は書けるものの保険証番号が手元にないので電話で事務所に問い合わせるために病院を出た。
その間に君島の名前が呼ばれた。
大和と朱鷺は待合で待つことにして、君島と、もうほとんど寝ている健介を抱いた原田が、診察室に入った。
ノックしてスライドドアを開けると、机の前に座っている、短髪でヤギより短いぐらいのあごひげを伸ばした結構若めのサンダル履きの白衣の男が、右手を上げて陽気に笑った。
「やあ!秋ちゃん!なんで秋ちゃんが小児科に来るの?」
「この時間混みそうですから裏道の方が早いんじゃないですか?」
「だよな。じゃ、曲がるわ」
「ちょっと待って」
原田と大和の会話に君島が携帯を耳に当てながら挟まる。
「日赤行くの止める。日赤より遠いかなー?知ってる小児科があるからそっちに予約してみる」
「間に合うのか?救急があるから日赤がいいってお前言ってただろ?」
原田が慌てる。
「んー。大丈夫。暴れて吐いただけだから。もう落ち着いてるでしょ?」
「え?」
原田がまだ焦っているが、君島が携帯で話し始めた。
「もしもーし。今混んでますかー?混んでる?緊急に診察して欲しいんですけどー。痙攣と嘔吐。今は落ち着いてます」
そんな君島の話し声を聞いて、大和が迷っている。
「どこに行ったらいいんだ?日赤方面でいいのか?」
「停まった方がいいんじゃないですか?」
原田が応える。
「いいのか?」
「いいみたいです。もう健介、大丈夫です」
君島に言われて初めて気付いたが、まだ泣き喚いた名残りにひくひくと鼻を鳴らしているものの、健介はとっくに落ち着いて原田のブルゾンを握りしめ、窓の外の流れる景色を眺めていた。
「……どう見ても、救急患者じゃないです」
健介を見下ろしてそう呟いた。当人はまだ赤い目元のまま唇を尖らせたまま外の景色を眺めている。
「あ、どうも。前田先生。お忙しそうですね。またまたー。稼いでるくせに。行列の出来る小児科って聞きましたよ。そうなんですよね?それでその行列に割り込みさせてください。いいですか?名前?えっと、名前なんだっけ?」
君島が電話の途中で原田に訊いてきた。
「え?健介?」
「健介じゃなくて、本当の名前」
「あ、何だっけ?ハルオ?」
「違うよ。ヤマちゃん聞いてた?」
「聞いてない」
「あー。わかんないな。ま、いいか。受付で僕の名前言います。僕の名前知ってます?だよね。苗字は君島です。君島秋彦がフルネームです。はい。よろしく」
そして君島が通話を切って、病院の住所を告げた。
「緑区の小児内科。まえだこどもクリニックってとこ。ナビにあるかな?」
「緑区。方向が違うな。そういえば後ろついてきた兄ちゃん、大丈夫か?日赤行ってたりして」
「いや、後ろに停まってますよ」
原田の返事を聞いて君島が振り向くと、後ろの車の運転席で縋るように前のめりでハンドルを握りしめている森口と目が合った。
にっせきは、やめて、みどりくの、しょうにか。
と君島がジェスチャー交えて森口に示したが、恐らく伝わっていない。
とりあえずついてきて、と前を指差すと、森口も頷きながら前を指差した。
多分意思の疎通はなされたはず。と頷いているうちに、ナビ登録を終えた大和がシフトを入れた。
すっかり日が落ちて暗くなった。
街灯が点き車のヘッドライトも明るく見える。
再発進してから30分程も掛かって、目当ての小児科に辿り着いた。
さほど大きくない駐車場にはすでに10台程の車が停まっている。
後ろをついてきた森口も大和のランクルの隣に停まり、すぐさま運転席を飛びだして来た。
君島もすぐに車から降りて、走ってきた森口にまず訊いた。
「ね。この子の名前、何だった?」
「え?あの、子供大丈夫ですか?」
「ん。大丈夫。泣いて吐いて喚いたから疲れたみたいだけど。で、名前は?」
「大、大丈夫ですか、はい、まこと君です。山崎まこと君です」
「そっか。じゃ、行こう」
「ここ、何ですか?!」
「いいから行こう」
反対側のドアから健介を抱いて原田が降りていたので、君島がそっちに向かう。森口もそれについていく。大和も朱鷺も降りて、病院の入口に向かった。
原田に抱かれている健介は、君島の言う通り疲れているらしく、眠そうにうとうとしている。
まぁ、寝てる方が診察が楽かもな、と君島は思う。さっきのように喚かれるのは面倒だから。大人しく寝ててくれ、と原田のためにドアを開けてやった。
小児科らしく黄色基調の明るく可愛らしく清潔そうな受付に大男たちが突然無言で襲来したので、事務員も待合で待つ患者たちも座席を立ちあがるほど驚いた。その大男たちの後ろから、小柄な君島が跳ねるように駆けてきて、受付のお姉さんを見て名乗った。
「先ほど前田先生に電話した君島秋彦です。診察お願いします」
「え?は、はい。聞いてます、が、こんなに、」
お姉さんが男たちに慄いておろおろしている。
「いえ、診察はこの子一人ですよ。みんなただの付き添いですから。診察申込書は?」
「あ、はい。そうですね、お待ちください、これに、名前と保護者の名前と保険証番号と症状と、」
「ん。見ればわかるから大丈夫。僕が来たって先生に伝えてね」
「はい」
お姉さんはそう言って紙を一枚渡し、おろおろしたまま奥に走って行った。
その渡された紙に君島がささっと何かを書きつけた後に、森口に差し出した。
「後は君が書いて。名前とか保険証番号は僕にはわからない」
「は、はい。かしこまりました」
森口が緊張して丁寧すぎる返答をした。
しかし森口も名前は書けるものの保険証番号が手元にないので電話で事務所に問い合わせるために病院を出た。
その間に君島の名前が呼ばれた。
大和と朱鷺は待合で待つことにして、君島と、もうほとんど寝ている健介を抱いた原田が、診察室に入った。
ノックしてスライドドアを開けると、机の前に座っている、短髪でヤギより短いぐらいのあごひげを伸ばした結構若めのサンダル履きの白衣の男が、右手を上げて陽気に笑った。
「やあ!秋ちゃん!なんで秋ちゃんが小児科に来るの?」
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