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幽霊
しおりを挟むどうやらこの男は、本当に幽霊らしい。
「この部屋で死ぬのやめた方がいいよ。この部屋で死んだ俺が言うんだから間違いない。先人の言葉は素直に聞くべきだよ。」
腕を組んでウンウン、と頷いているこの男。
こんな緊張感のない幽霊、見たことない!!
っていうか、そもそも幽霊見るのも初めてだったわ。私。
「あんた、この部屋で死んだの?」
やめてよもうマジで。この部屋事故物件だったの!?
全然そんな素振り感じたことなかった。
自分の鈍さにショックを受けていると、彼が得意げに人差し指を立てる。
「そうだよ。この部屋のそこ。」
お風呂のドアノブを指差す男に、背筋がゾワっと冷たくなるのを感じた。
こんな緊張感のない幽霊相手に、何ビビってんの私。
「このドアノブで、首吊り。」
「なんであんたみたいな能天気なお気楽男が、首なんて吊るのよ。」
「いやいや、能天気なのは死んでからでさぁ。生きてる時はそれなりに色々あったんだよね。こう見えて。」
嘘つけ、と言ってやりたいくらい、彼は幸せそうに見える。
悩みなんてひとつもないことが悩みです~なんて、馬鹿面で言いそうなタイプだ。
「生きてるとみんな色々あるよね・・」
ふっとカッコつけた仕草で髪をかきあげた男に、私は殴ってやりたい気分になる。
そんなことしても空振りして余計に腹が立つから、やらない。
「え・・・で、あんた、ずっとこの部屋にいるわけ?」
「そうだよ。」
うん、とうなずく彼は、今日初めて会った気がしない。ずっと前から知っていた友達みたいな気軽な距離感。
「死んでから、ずっと?」
「うん。」
「じゃあ、何?私の着替えとか、私の・・・・生活をずっと見てたわけ?」
握った手に力が入る。ワナワナと拳が震えた。
「あ~うん。見ちゃってた。君の全部。」
「はぁぁ・・・・?!」
私は人生2回目の絶望を味わう羽目になった。
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