A*Iのキモチ

FEEL

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 少女は砂浜に倒れこんだ。もう座っていることすら出来ないようだった。
 慌てて十二月晦は少女の元に近づいて、頭を持ち上げる。既に少女の目に光はなく。どう見ても助かる見込みはないと感じさせた。

「はぁ……まさか人生で二回も死ぬことになるなんて、人生は何が起こるか本当にわからないね……」
「すまなかった」
「翔琉……?」

 少女の元まで近寄って、俺は一言だけ、そう言った。
 守れなくてすまなかった。
 迷惑を掛けてすまなかった。
 愛を助けてくれてすまなかった。
 他にもまだまだあるが、全部言葉にすれば途方もない時間がかかる。だから俺は彼女のやってくれたことを考えて、一言。そう言った。

「こんな場面で、もっとの気の利いた言葉はないのかなぁ、翔琉君」
「すまなかった」

 ダメだしされた分も追加で謝っておく。すると少女はけらけら笑いだした。

「うん、翔琉らしいよ……じゃあ、私からも――ありがとう」
「あぁ」

 彼女の感謝の言葉を無意味にしないように、俺は力強く頷いた。それと同時に少女はゆっくりと目を閉じる。

「大事な人に囲まれて、いなくなるのは、満足だなぁ……」

 瞳が閉じきる瞬間、彼女が吐息のように囁いたように聞こえた。それから少女は動くことはなくなった。待っても、どれだけ待っても彼女は動かない。本人が言っていた通り、本当に行ってしまったのだろう。

「蘭丸、愛を回収するよ」

 押し黙った空気の中、静かに十二月晦が言った。
 大型機械が再び動き出し、地面に横たわる愛の身体を掬いあげる。その作業風景よりも、俺は十二月晦を見ていた。

「お前、まだ愛を使ってAを作るつもりなのか?」
「……翔琉君に関係ないだろう」
「関係ある。愛は俺にとっていい子だからだ。だから彼女を消させる訳にはいかない」
「いい子、ね。さっきの話を聞いていただろう? 君が見ていたのは幻影みたいなもので、実際の愛はまだまだ発展途上、つまるところ別人なんだよ。それでもいい子だって言えるのかい?」
「確かにな、それでも愛は消えたくないとはっきり意思表示したんだ。だったら守ってやるのが彼氏の役目だろう」
「偽物の彼氏なのにでかいことを言うね」
「……もう、偽物じゃない」

 はっきりと言える。俺は愛が好きだ。少ない時間だが彼女の色々な面を見て、心からそう思えるようになっていた。

「俺は、愛の彼氏だ。偽物でも疑似でもない。本物のな」
「……恋愛感情に絆された人間は判断能力が著しく下がると検証結果が出ている。これ以上話をしても有意義な会話はできないだろうね。蘭丸」
「はい。搬出を開始します」

 呆れたように言い残した十二月晦は愛を連れて消えていく。俺は追いかけなかった。十二月晦の雰囲気がここに来た時とまるで違って見えたから。

「十二月晦! 約束を忘れるな!」

 消えゆく十二月晦に大声で叫ぶと、一瞬動きを止めた彼女はそのまま夜の闇に消えていく。彼女の姿が完全に見えなくなって、すっかり陽の落ちた砂浜には夜の闇と波の音だけが響いていた。
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