神なき世界で悪魔にモテたので、ついでに人類救済します。

ナナツメ蜜柑

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ep.6 悪魔は、意外と段階踏んでくる

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 寮で過ごす静かな夜。
 俺は思った。

 ――静かすぎる夜は、だいたいろくなことにならない。

「ねえ主」
「言うな」
「今、変なの来てる」
「言うなって言っただろ」

 防衛隊の寮の窓から見える外壁は、いつも通り――
 なのに、空気が変だった。

 重い。
 湿っぽい。
 そして、妙に落ち着かない。

 その違和感に答えるように、
 遠くで低い警報音が鳴り始めた。

「……警戒信号?」
「まだサイレンじゃないね」

 廊下を歩いてきたアリシアが、足を止める。

「……外縁監視班から連絡です」
「来てる?」
「はい。悪魔の集団が、都市に向かっています」

 あまりこの都市にも長いはできないのかも知れない。
 俺は、素直に言った。

「……寮、手配してくれて助かった」
「え?」

「野宿してたら、今ごろもっと面倒だった」
「……それは……」

 アリシアは複雑そうな顔で。

「職務ですから」
「それでも、感謝してる」

 その直後。

「私、確認に出ます」

「え」
「え?」

 俺とルナの声が、きれいに重なった。

「アリシア?」
「防衛隊ですから。状況確認を――」

「待て」
「止めないでください」

 そう言って、彼女は外套を羽織り、都市の外へ向かった。

「……真面目だね」
「真面目すぎる」

 都市の外。

 結界の外側に一歩出た瞬間、
 アリシアは悟った。

(……近い)

 闇の向こう。
 見えないはずの“何か”が、
 確実に、こちらを見ている。

「……っ」

 剣を握る手が、震える。

「私は……防衛隊……」

 一歩。
 また一歩。

 ――そのとき。

 闇が、動いた。

 形にならない影。
 視線だけが、はっきりと向けられる。

「……悪、魔……」

 膝が、勝手に折れた。

 怖い。
 逃げたい。
 身体が、言うことを聞かない。

「……っ、あ……」

 温かい感覚が、太腿を伝った。

 制服の内側が、
 じわりと、重くなる。

「……いや……」

 恥ずかしさより、
 恐怖が勝った。

 その瞬間。

「はいはい、そこまで」

 聞き慣れた、軽い声。

 気づけば、
 ジルが前に立っていた。

「無理するな」
「……ジル……」

 ルナが、あくび交じりに手を振る。

「今日は様子見の日だから」
「様子見!?」
「うん。向こうもね」

 影は、確かにそこにいた。
 だが、踏み込んではこない。

「……そうだよね__?」

 普段のルナからは想像できない力を覗かせる声音で言うと、
 闇は、すっと後退した。

 アリシアは、その場にへたり込む。

「……私……」

 ジルは、ため息をついた。
 視線はアリシアの下半身に向けられ

「まあ、なんだ。風邪…ひくなよ?」
「……」

 ルナが、にこっと笑う。

「最初はみんな、失敗するよ」
「フォローになってない……」

 こうして、
 都市はまだ無事だった。

 だがアリシアは知った。

 悪魔という存在の恐ろしさを。
 訓練で知っていたはずなのに、目の前にするとどうにもならないことに。

 そして――
 次は、逃げられない距離で来るということを。
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