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序章

第三話 新たな世界

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血の匂いがする。

その血の匂いは男の刺し傷から出るものではなく、シャツに染みついた血の匂いだった。

こんなにも濃い血の匂いを嗅いだことはなかった。

痛々しい匂いに気を悪くしていると、別の匂いがそれを攫った。

花のような、洗剤のような。鼻で感じられる美しさ、というべきだろうか。

一度嗅いだら忘れることのない良い香り。

その匂いに男は何の根拠もなく安堵した。

匂いに気を取られ、自分がどこにいるか理解していなかったが、改めて見回すと想像したこともないような奇異な場所だった。

まず目に映るのは大きく真っ白で、まるで本来ないはずの重量を感じられるような雲。

そんな雲が自分の手が届くような高さに離れた位置で無数に並んでいる。

足元には黄金色の丈の長く、膝下まである草が水平線の向こうまで生えている。

時折風が草の頭を攫い、波を作る。

見渡す限り山や海はなく、ただひたすら黄金に輝く草原が続いている。

初めて見る光景に男は見入った。

「綺麗、、、」

何故こんなところにいるのか。

そんなことを考えることもなく見入っていた。

後ろから強い風が吹き、少し伸びた男の髪を攫う。

それと共に風は男の鼻に先ほどの鼻の香りを届ける。

男は香りの方向を頭で追った。

その先には長い金髪に、青い目。水色のローブを羽織った背丈の小さな少女が何かを見送るように水平線の向こうを見ていた。

その横顔は下心を消し去るような純粋且つ美麗なものだった。

その少女に少し見入った後、少女は男に気づいた。

少女は弱々しく男に微笑み、話した。

『こんにちは』

少女は戸惑う男の返答を待ち、首をかしげる。

「こんにちは。」

『ふふっ』

何かおかしいものを見たかのように笑顔を漏らす。

『そんなに落ち着いている人を見るの初めて。』

「はは、、、」

彼女は男に目を合わせるのに躊躇がないが、男はその美しい青目に目を向ける勇気がなかった。

『君は』

『死んだの。』

自身が理解していることを彼女が再確認する。

「ああ、、、わかってる」

何故彼女は男を死を知っているのか。

そんな事象はこの美しく異様な草原では不思議にもならない。

「俺はこれから、、、どうなる?」

その答えを彼女が知っているという確証が彼にはあった。

『君は新しい世界に行くの。』

「あたらしい、、、せかい、、、」

輪廻転生。それはこのことを言うのだろうか。

『君のいく世界はね。スキルがいるの。』

「スキル?」

元いた世界でのスキルというのは営業や販売をスムーズに行う技術のことを示した。

しかし、彼はそんなことを思い出さず、いや、そんなことを忘れていたのかもしれない。

スキルという言葉を初めて知るかのように彼女の説明を待った。

『人を救うにはスキルがいる。』

『これはゲームやアニメの話じゃない。』

彼女の口から語られる非現実はどんな事実や科学的根拠もねじ曲げる、強く信憑性のあるものに聞こえた。

『君にこれ以上ここにいる時間はない。』

『スキルを得て、急いで世界に落ちて。』

そう言った直後、少女は5本の指をくっつけ、胸元に手を置く。

目を閉じて、何の言語かわからない呪文を細い声で唱えた。

すると、少女の前に白く美しい球体が現れる。

『さあ、ここに入って。』

「、、、」

男は自我を失ったかのように少女に従い、球体に近寄る。

『中に入ったらレバーを引いて。』

その言葉を最後まで聞かずに男は球体に吸い込まれていった。

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吸い込まれついた先は真っ白な世界だった。

「ここは、、、」

言われた通り、レバーを探す。

すると、真っ白な光景の中に斜めに浮く、黒いオーラを放った棒状のものを見つけた。

男は近寄り、恐る恐る棒に触れる。

ぼわっという炎のような音が響く。

勇気を出して棒を下に引き下ろす。

ガシャっと音が鳴ると同時にタラララララというルーレットが回る音が鳴る。

ルーレットの音はいつまで経っても止まず、不思議がっていると、急に機械的な声でアナウンスらしきものが入った。

“個体名、半田直哉のスキルスロット3つのうち、2つ分の破損を確認。”

理解のし難い内容。

“修復を試みます。”

理解のないまま話は進む。

“現時点での修復を不可能と判断。スキルスロット1つのみでのステータス作成を試みます。”

しかし、ことが上手く進んでいないのは何とかく理解した。

“成功。スキルスロットのランダム選択を続行します。”

“スキル 「植物」 が確定いたしました。”

という音声が終わると、ハンダの前に透き通ったのトランプカードほどのサイズの長方形が現れる。

“スキルコードを手にお取りください。”

この長方形がスキルコードであると考え、それに手を触れる。

すると、長方形が消え、ハンダの体に波が走る。

そして、最後のアナウンスが流れる。

“準備が整いました。新たな世界へのロードを開始いたします。”

そのアナウンスが終わった直後、ハンダの足がガラスの破片のように宙に散り始めた。

破片に変わる速度はどんどん加速し、ハンダの全身が散るまでにそれほど時間はかからなかった。

男の破片は一つのまとまりとなり、目にも止まらぬ速さでその場を去った。

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その次に男の意識が覚醒したのはよく見るオフィスの中だった。
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