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出会いの夜

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 そびえ立つ高層ビルがひしめき合うオフィス街、窓に乱反射する真夏の光線を受けながら眉間に皺を寄せる。
 手にしたA4の白い紙。そこに印字された文章も英数字もなに一つ納得いかない。

「全部やり直し」

 掴んでいた力を緩め、前に手を振り切れば、束になっていた用紙が宙に舞う。
 あ、こんなに枚数があったんだ。
 でも全部見なくたって最初の数枚でダメなのがわかる。
 隅々まで確かめるなんて時間の無駄でしかない。
 私の目の前に立つ若い男性社員は俯いたまま、黙って用紙を浴びていた。黒縁メガネの奥が、今にも泣きそうに曇っている。言いたいことがあるなら言えばいい。そんな勇気もないくせに。

「……隅田川すみだがわ課長」

 覇気のない新入社員の代わりに、私の名前を役職つきで呼んだのは、最近めっきり髪が薄くなったと噂の小太りな中年男性だ。
 噂になんて興味はない。ただ、仕事中にも関わらずコソコソ話をしている人たちのせいで、勝手に情報が流れ込んでくるだけだ。
 灰色のデスクとセットになった椅子、キャスターを軽く動かした時には新入社員の姿はなかった。
 自分から意識が逸れた隙を見て真っ先に席に戻ったらしい。散らばった紙も拾わず、逃げ足だけは早い。それくらい仕事もこなしてくれたらいいのに。
 よく見れば頭の上に一枚、用紙が載っている。
 それに気づいた周りの社員たちが肩を揺らして笑っている。
 一体なにがおかしいのか。
 この状況で笑える彼らに嫌気がさす。
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