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出会いの夜

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 ――絶対、変だ。
 ここまで来てようやく異様な事態を察知した私は、とりあえずこの場から離れようと急いで後ろを振り向いた。
 ――はずだったのだが。
 おかしい。身体が思うように動かない。
 店らしき物から遠ざかるどころか、どんどん近づいてしまっている。
 上半身は反対側に向かおうとしているのに、下半身……要するに足が、勝手に前進しているのだ。

「はっ、ちょ、ちょっと、なにこれ、どういうこと!?」

 見えない力に引っ張られるように、両足が左右に動いていく。
 ねじった上体のせいで斜めに体勢が崩れているが、それでも倒れないのがまたおかしい。
 ついに扉の前まで来てしまうと、腕までグンッと引き寄せられ、磁石のように引き手にくっつく。

「ちょっと! そっちじゃないってば――」

 抵抗虚しく、両腕が意志に反して入り口を横に開いてしまった。
 リーン……。
 怪奇現象に冷や汗をかく間もない私に訪れたのは、軽やかな鈴の音だった。
 それは数秒のようで、ものすごく長い時間にも感じた。
 この瞬間、私は別世界に来たような、爽やかな風と浮遊感を得たのだ。
 
「いらっしゃいませ」

 嘘のような空間の中で、鮮明な声が響いた。
 ハッとして顔を上げた先には、確かに人――が立っている。
 木造のカウンター席の向こう側、茜色の作務衣を着た……男性、だろうか?
 性別を決めかねるほど中性的で綺麗な人……それが彼の第一印象だった。
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