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出会いの夜

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 チラリと背面を見ると、ミミズのような形をした長い尻尾が揺れている。耳と同じ灰色だ。鳴き声も合わせて、どう考えてもネズミだろう。
 そしてその真横で大人しく椅子に載っているホウキのような形をした尻尾は、やっぱり牛のものだ。
 ネズミに牛――。

「……じゅう、にし?」

 頭に浮かんだ解答は噛み砕く前に音となり漏れる。
 それを聞いた途端、三人は一斉に私を見た。
 目の前に立つ猫宮さんは、感心したように言う。

「すごい、よくわかりましたね」
「いや、普通はわかるかと。干支の置き物もありますし、彼らを見れば……」

 十二支に関係した店なのかと想像できる。
 もはや、普通の人間が干支の格好をしただけと言うには無理があるだろう。
 隣にいる二人はもちろんのこと、私と対面している彼だって例外ではない。
 毛並みの良さそうな細い髪も、変化する瞳の球体も、名前も……一つの動物を指している。

「でも、猫って十二支にいませんよね? どうして関係ないあなたが?」

 本当になんとなく出た言葉だった。
 猫宮さんの表情を読み取る前に、頭に衝撃を受けた私は咄嗟に目を閉じる。
 すぐに真横を確かめると、牛坐さんの右手が顔の辺りまで上がっていることに気づいた。
 どうやら、この大きな手のひらで叩かれたらしい。

「い……痛い、なにするんですかっ、私一応お客さんなのに」
「関係もなにも、ここは猫宮の店だからな」

 酔いは覚めたのだろうか、健康的な肌色の彼は開いていた手をグーにして、立てた親指でクイクイと出入り口の方を示した。
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