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奇妙な仲間たち

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 ――リーン。
 涼やかで軽やかな鈴の音。
 小ぢんまりとした室内は外装と同じ爽やかな檜色で包まれている。
 横並びの背もたれが低い椅子。
 その先のカウンター越しには、昨日と同じ店主の姿があった。
 緋色の作務衣を着た彼は私に気づくなり、ふわっと綿菓子のように微笑んだ。

「わ、いらっしゃいませ」

 ――わ? 今「わ」ってついた?
 昨夜と違う部分を見つけ、ドキリと反応してしまう。
 いや、これはあれだ。
 コンサートなんかで、憧れの歌手かなにかが「こっち見たわ~!」というのと同じ。
 みんな自分が特別だと勘違いするやつだ。
 行ったことないからよくわからないけれど、たぶんそう。危ない危ない。
 そろりと店内に足を踏み入れ、後ろ手に引き戸を閉める。
 まだ落ち着かない気持ちで視線をあちらこちらに動かしていると、空気が漏れるような音がして静止した。
 再び映り込む視界の中で、彼は口元に手を当て笑いを堪えていた。
 いや、我慢できていない。
 ぷくくっ、と間抜けな文字がこぼれ落ちて私に伝わる。

「な、なんで笑ってるんですか?」
「だって君ってば、すっごく真面目みたいだから」

 意味がわからず首を傾げると、彼は口から手を外して改めて私を見た。

「昨日とまったく同じ場所で、時間まで合わせて来てくれるんだもん。いっぱいいろんなこと、考えてくれたんだよね?」

 話を噛み砕くまで、しばし時間を要した。
 なにを、どこまで知っているのか?
 その言い方だと、私が必死に再会を望んでいたみたいで、無性に恥ずかしくなってしまった。
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