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白昼の衝撃

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 室内に入り自分の席に向かう最中、突然現れた人影に急ブレーキをかけた。
 なんとかぶつからずに済んだけれど、一体今日はなんなのか、衝突厄日……いや、吉日だったりして。

「すすす隅田川課長、おはようございまする!」
「はあ……? おはよう、ございまする……?」

 眼前の細長い人物に、疑問を込めながら挨拶を返す。
 坊ちゃん刈りに丸メガネと定型スーツ。冴えない風貌が安定している新入社員。
 その両手にはA4の用紙が大量に抱えられていた。

「今朝早くから来て、今まで失敗したところ何回もやり直しました! 反省点と今後の抱負もまとめたのでチェックしてくだされ!」
「今朝早くからって……誰が早出しろって言ったの?」
「誰にも言われてません、自主的に。あっ、タイムカードはスキャンしてないんで大丈夫でする!」

 嫌な予感がしたけれど、やっぱりだ。
 本人は悪気がないどころか、なにか大きなことでも成し遂げたように胸を張っている。

「はあっ? 大丈夫じゃないでしょ、サービス勤務なんて監査で引っかかったらどうするの! ああ、もう、こんなに紙も使って、なるべく節約しなきゃいけないのに」

 用紙をひったくるように受け取りながら、ついついいつもの口調で注意を並べる。
 けれど今はハッとする隙があった。
 勢いで吐いた苦言を冷静に見る、もう一人の自分がいるような、不思議な感覚だった。
 山になった書類越しに映る笹原くんは、予想通り……いや、予想以上にしょぼんと肩を落としていた。
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