猫の罪深い料理店～迷子さんの拠り所～

白昼の衝撃

15

「怒る前に、奥さんがそんなことを言う理由を考えた方がいいんじゃないですか？」

　私が指摘すると部長はやはり思い当たる節があるらしく、顔を顰めたあとカクンと肩を落とした。

「……そうだな、またチャレンジしてみるよ」
「だから反省点を箇条書きにして」
「が、がんばるから、それだけは勘弁してくれー！」

　自分の非を文字にして書き出すのに、相当抵抗があるようだ。
　部長が冷や汗をかきながら慌てていると、シンク横に置いていたスマートフォンが振動した。
　拾い上げた液晶画面には、数字の羅列の上にハッキリ名前が表示されている。
　昨日、名刺交換をした。
　直接連絡を取り合うことはないだろうと思いつつも、念のため登録しておいた番号。
　受話器のマークを指先で弾き、電子機器を耳まで運んだ。
　はい、隅田川です。とお決まりの挨拶から始めると、通話口から渋い低音が聞こえてくる。

「ああ、千鶴さん。私です。未國です。先日はどうも」

　大銀行の社長自らの連絡な上、下の名前をさらっと呼ばれて戸惑ってしまう。
　そんな私が内容を問う前に、未國さんは要件を話し始めた。
　
「……あ、いいえ、こちらこそ、はい、はい……えっ？　ほ、本当ですか？　ありがとうございます！」

　未國さんには見えないのに、スマートフォン片手に頭を下げる。
　それからしばらく会話を続けたあと、姿勢を正して終話ボタンを押した。
　仕事の件だと察したのか、まだそばで立ち止まっている部長。
　期待を込めた視線で待つ彼に、私は明るい表情で望み通りの言葉を贈る。