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白昼の衝撃

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 式場の中に入ると、左右に分かれた横並びの椅子がまっすぐ列を成している。
 主役が歩く中央の道を避け、隅から空いた席を探していると、どこからか「こっちこっち!」と明るい声が聞こえた。
 最前列に立つ黒い着物姿の女性が、後ろを振り向き手を振っていた。
 目と目が合い、歩を速める。
 相変わらずよく似た姉妹だ。お母さんより二つ上のお姉ちゃん。

「久しぶりだねぇ、千鶴ちゃん、元気にしてた?」
「ご無沙汰しています、絹恵きぬえさん。おかげさまで元気にしています」
「さっちゃんも、いつぶりかねぇ」
「こないだ誕生日に集まっただろう、きっちゃん痴呆が始まってるんでないかい」

 さっちゃん、きっちゃん、と呼び合いながらにこにこ笑顔で世間話をする。
 顔は笑っているのに、周りの温度が下がるような、二人がいる時のピリピリとした緊張感は健在だった。
 絹恵さんは元看護師、この辺りではちょっと名の知れた町医者と結婚した。
 その旦那さんは今、妻の隣で着席したまま顔も見せない。
 不満があるのか、昔からあまり仲のいい気がしなかった。けれど例え嫌だったとしても、離婚なんて話になれば田舎町では大事おおごとになる。
 出戻りだとか戸籍に傷がとか。ここにいる限り、世間体で塗り込めた柵から解放される術はない。
 私は家を出てずいぶん経つ。
 離れてみたからこそ、わかることもあったように思う。

 ちらほらと来客が訪れ、さほど大きくない式場は親族だけでいっぱいになった。
 新郎新婦の両親の一つ後ろ、二列目の席に腰を据える私とお母さん。
 当たり前のように決まった配置が窮屈に感じる。
 どうして血の濃い順に座らなければならないのだろう。
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