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白昼の衝撃

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 銀灰のタキシードを着た新郎は、小柄の痩せ型で気が弱そうに見えた。
 うちの親族は私を除いてみんな背が低い。
 離婚という形で去っていった父親の血が濃いのだろう。それも陰口を叩かれる原因の一つらしい。
 けれどそんなことはどうでもいい。
 私は細く小さく息を吸い、胸を張って背筋を伸ばした。
 じきに、私の積み上げてきたことが、報われる時が訪れるだろう。
 私の隣に座ったお母さんが腰を上げ、同じようにグラスを胸に携える。
 ――さあ、早く。
 こんなにも母親の言葉が待ち遠しかったことはない。

「おめでとうまりちゃん、順番が逆だなんて驚いちまったけどね」

 そうだよね。お母さんなら、絶対そうだと思ってた。

「就職活動に失敗した時はどうなることやらと心配したもんだよ」

 前半は本音、後半の心配は建前。

「だけど親戚の農家を手伝いながら、こんな縁に恵まれて本当によかったね」

 こんなに前置きが長いなんて、らしくない。
 でも、そろそろ本題のはずだ。

「うちの千鶴は――」

 ――来た!
 品良く揃えたつま先に力が入る。
 期待に湧く高揚感が全身を包み込む。

「大した職業でもないのに仕事仕事ってうるさくてね。いい年して男の一人も連れてきたことがない」

 ――え?
 隣から聞こえた文字の羅列。
 ひどい違和感に、思考が停止する。
 ――なに、今の?
 聞き間違いかと思い、ゆっくりと振り向いたそこには、私の知らない母がいた。

「やっぱり女は結婚して子供を持って一人前だからね」
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