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白昼の衝撃

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 私の真横、柴犬に似た彼の後ろに見える四角いテーブル。向かい合う形で置かれた奥の椅子に、長い足を組んで本を読んでいる上品そうな男性が座っていた。
 高い鼻腔に載った長方形のメガネ、シャープな顎から続く喉仏の下の蝶ネクタイ、細身のスラックスにポニーテールの髪色まですべてチョコレート色だ。
 全体的にピシッとした印象の彼は、眉間に皺を寄せながら私を眺めている。

「どうしてただの人間が今の時間、ここに入ってきている」

 猫宮さんに出会ってから驚きの連発だった。
 おかげで人外にはある程度耐性ができた。
 そんな私が今一番仰天しているのは、メガネの彼が言った通り、どうして今現在、ここに来ることができたのかということ。
 
「ほんとほんと、お店の営業時間外なのに不思議だなぁ、こんなこと初めてだ!」
「うるさいぞ、犬斗《けんと》。君はオーバーリアクションが過ぎる」
「なっがい付き合いなのに、今更それ言うー?」

 殴り書きのようなアルファベットがプリントされた真緑のパーカーに、ダメージ加工の空色ジーンズ。ダボついた服装の少年は、立ち上がって指摘された方に唇を尖らせた。
 私に背を向け彼の元に駆け寄った時、人間にはないくるんと上向きの尻尾がバッチリ見えた。これはもう、間違いない。

「そういう秀馬は相変わらず冷めてるよなぁ、そういうところがいいって、再生回数も上がってウハウハだけど!」
「次はないからな」
「うっそ、また出てくれよー!」

 犬斗と呼ばれた少年が、秀馬と呼ぶ青年の両肩を掴み、ねだるようにゆする。
 するとチラチラと椅子の端から垣間見える、艶がある真っ直ぐな毛。
 髪と同じものが、もう一本腰の辺りについているようだ。
 これが本当のポニーテール……?
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