48 / 70
小夜曲(セレナーデ)
1
しおりを挟む
二〇〇一年、明石の歩道橋で群衆事故が発生した。朝霧駅から降りた客と、花火大会から帰る客で混雑を極めた末、何人も亡くなるという惨事が起きた。当時、二歳の俺を連れていかんでほんまによかったと、母さんが何度も話すから記憶に刷り込まれた。
そのせいで花火大会は中止になり、現在に至る。だから俺たちの世代は、明石の空に光が咲くのを知らん。それでも嘆いたことがないんは、俺には関係ないことやから。心臓が弱い春歌を、大きな音が鳴る打ち上げ花火や、人混みの縁日に連れていく選択肢はなかった。命に関わる可能性が低くても、なるべく刺激になることは避けたかったから。
好きになった子が健常者なら、どこか違う場所の花火大会にでも誘ったやろうか。その時の心境はたぶん、行きはワクワクして、帰りは余韻に浸って……少なくとも、事故に遭うなんて想像もしてへん。思いもよらんことが、実際に起こるんが現実や。
なにが言いたいってつまり、明日の自分が生きてるかなんて、明日が終わるまでわからんって話。今どんなに元気でも、病気や事故、天災や事件のせいで急死する人もおる。
だから体が悪いことは、春歌をあきらめる理由にはならんかった。今現在ここにおる。それだけで恋するには十分やった。
親戚との約束をキャンセルした当日「誕生日おめでとう」と言う父さんと「ケーキ買ってくるね」と言う母さんに生返事をして、支度をする。
俺が断ったあの時から、うちはギクシャクしている。だけど誰も指摘せん。見て見ぬふりでいつもの顔を装っている。
急いで予約した美容院で切った髪を、新発売のワックスで固める。服はいつもより高い店に行ったけど、ベストや小物を上手く使いこなせる自信がなくて、結局無難なスカイブルーのシャツと黒のパンツにした。もう少し背があれば、鼻が高ければ……鏡に映る自分にため息をついても仕方がない。
与えられた素材で最大限カッコをつけて、新鮮な空気を求めて家を出た。
そのせいで花火大会は中止になり、現在に至る。だから俺たちの世代は、明石の空に光が咲くのを知らん。それでも嘆いたことがないんは、俺には関係ないことやから。心臓が弱い春歌を、大きな音が鳴る打ち上げ花火や、人混みの縁日に連れていく選択肢はなかった。命に関わる可能性が低くても、なるべく刺激になることは避けたかったから。
好きになった子が健常者なら、どこか違う場所の花火大会にでも誘ったやろうか。その時の心境はたぶん、行きはワクワクして、帰りは余韻に浸って……少なくとも、事故に遭うなんて想像もしてへん。思いもよらんことが、実際に起こるんが現実や。
なにが言いたいってつまり、明日の自分が生きてるかなんて、明日が終わるまでわからんって話。今どんなに元気でも、病気や事故、天災や事件のせいで急死する人もおる。
だから体が悪いことは、春歌をあきらめる理由にはならんかった。今現在ここにおる。それだけで恋するには十分やった。
親戚との約束をキャンセルした当日「誕生日おめでとう」と言う父さんと「ケーキ買ってくるね」と言う母さんに生返事をして、支度をする。
俺が断ったあの時から、うちはギクシャクしている。だけど誰も指摘せん。見て見ぬふりでいつもの顔を装っている。
急いで予約した美容院で切った髪を、新発売のワックスで固める。服はいつもより高い店に行ったけど、ベストや小物を上手く使いこなせる自信がなくて、結局無難なスカイブルーのシャツと黒のパンツにした。もう少し背があれば、鼻が高ければ……鏡に映る自分にため息をついても仕方がない。
与えられた素材で最大限カッコをつけて、新鮮な空気を求めて家を出た。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる