鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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原点回帰

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 話がついたのか、ほどなくしておばさんは私のそばに戻ってきた。
 そして「こっちだべ」と言いながら手招きをし歩き始める。
 違います、とはとても言えない雰囲気だ。
 そもそも言えたところで、ならなぜここに来たのかと聞かれたら答えようがない。
 まさか鬼に移動させられたなんて、嘘のような本当のことは隠すしかない。
 不審に思われないためにも、大人しくおばさんに従うことにした。
 今この瞬間にものすごいお得意様になってくれるお客様が来たらどうしよう。
 放り出してきた店が気になって、ありもしない妄想と心配が膨らむ。

 おばさんが案内してくれたのは、深緑の三角屋根にレンガ色をした建物だった。
 背は低く、奥行きのある縦長の形で、プレハブのような作りから牛舎であることは明らかだった。
 おばさんは私に「ちっと待ってけろ」と声をかけると、一人で建物に入っていった。
 私の住んでいるところが標準語のせいか、訛りが貴重に感じる。詳しくないのでどこの地方かは判断できないけれど、方言とは国の宝とはよく言ったものだ。

 通気性よく開け放たれた出入り口で待機しながら中を覗いてみる。
 左右に分かれ両端に添い、ずらりと並んだ白と黒のまだら模様の乳牛たち。低い柵の中にいる彼らは耳に数字のタグをつけている。
 比較的広いと思われる中央の道には草や穀物と見られる餌が撒かれていて、おばさんはそこを歩いていた。
 いい匂いか、と聞かれたらそうではないけれど、悪い気はしなかった。
 柵の中から顔を出して餌を食べている牛たち。むにゃむにゃと動いている口がなんだか可愛くてつい見入ってしまう。

 おばさんは柵を開閉し誘い出した一頭を連れ、私の元に戻ってきた。
 手綱を引かなくてもあとをついて行く様子に、おばさんの熟練の技術と情を見た気がした。
 外に出ておばさんがぽんぽんと牛の背中を叩くと、それが合図のように静かに歩を止めた。
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