鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜

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転機

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 扉にかかったクローズの札を下げ、営業中の目印になる看板を店の前に出す。
 室内の照明をつけお客様を順番に案内すると、時間がかかる事情を説明した。
 藍之介が買い出しに行っている間に、私と閻火で注文された品を急いで作った。
 閻火の場合はほとんど「ふり」だけで、私の料理を周りに怪しまれない程度に筒がなくコピーしていた。
 藍之介は空気が読めるためホール担当、正直すぎるのが玉に瑕な閻火はキッチン中心に、定番となりつつある各自の役割をこなしていた。
 私はといえばもちろん臨機応変になんでもこなす。ついこの間までは一人きりだったのだから。
 従業員も来客も、こんなに賑わう日が来るなんて信じられない。
 
 キッチンでミキサーを回しながらチラッと窓側の席を見ると、葉月ちゃんと美月さんが笑顔で会話を弾ませている。しまちゃんを引き取ったことがきっかけで、この店に関わることになった経緯などを話しているのだろう。
 外見や雰囲気がまったく違うので親子と言われれば驚くけれど、葉月ちゃんの安心した様子と美月さんの慈しむような眼差しが、確かな血の繋がり証明している気がした。
 ――親子っていいな。
 穏やかな思いが湧くと同時にちくりと胸の痛みを覚える。
 私が唯一、親であってほしいと願っている人の顔がぼんやりと浮かぶ。
 鮮明に思い出せないのは、面と向き合うことを拒絶してきたからだろうか。
 それでも過去の中から優しかった記憶だけ見つけ出そうとするのは、自分が愛されているはずだと信じたいから。
 不要だと言い聞かせながらも、どこかで希望を捨てきれないから。
 ――元気にしているだろうか。
 店を継ぎ、一人暮らしから初めてそんなことを考えた。
 気遣いとも取れる素直な問いかけ。まるで普通の親子のように。

 ミックスジュースをグラスに注ぎ、使い捨てのストローを添えた時、エプロンのポケットが忙しなく振動した。
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