蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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「またお前が願いを叶えた人間が余計なことをしたか、拳豪」
「そうだ。俺が夢を叶えてやったのに、罪を犯して刑務所行きだ。この間の奴も、その前の奴も、ろくなことをしでかさぬ」

 この神々たちは、人の寿命をもらうことで生きながらえている。それと引き換えに一つだけ願いを叶えてやるわけだが、もちろん叶えた後のことまで面倒を見るわけではない。
 その後は各自の生き方によるわけだが、願いを叶えた後、堕落する人間があまりに多いことに拳豪はうんざりしていたのだ。

「まあそう言うな。お前はまだ若いから人間をよくわかってねえだけだ。もちろんほとんどが欲に負けて闇に堕ちるのは間違いじゃねえ。が、全員がそうじゃねえ」
「……そりゃあ四百歳を待たずに上流神になられた蛇神の蛇珀様から見れば俺はお子様かもしれぬがな。これでももう三百歳だ。人間がどの程度の生き物かくらい、判断はつく」

 拳豪は嫌みたらしく言うと、蛇珀に背を向け、姿を消した。

「……あいつを御してくれる人間に出逢えればいいんだがな。まあ、拳豪はまだ若いし、焦ることはねえ」

 地まで髪が伸びた蛇珀は、頬杖をついていた岩肌の側に生えた細い木に視線を向けた。
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